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運命の番

第7幕

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 高校二年生の春のことだった。いつかの春のように、窓の外には、青い空が広がって、桜の花弁が舞い散っていた。

 不幸なことに、薫は運命の相手と出会ってしまった。

 それは、四時限目の必須科目の授業が終わって、化学実験室から教室に戻るところであった。四十人のベータの群れが、だらだらと小間切れに廊下を通過していった。隼人は、周りのクラスメイトたちと談笑していた。彼等のクダラナイ冗談のかけ合いが面白く、一際大きな声で笑い合っていた。
 隼人は、少し油断していたのかもしれない。薫は隼人の後方で、微笑みを浮かべている。楽しそうな友人たちの背中を見守りながら、後ろを静かについて歩く。そんな風に気配を消すように歩くのは、薫の処世術である。少しでも目立たないようにと心がけているが故の行動で、いつものことだった。
 丁度、生徒会室の前を横切ったところであった。扉が開き、中から男が現れる。薫は顔だけ振り返る。

 目と目が合った。

 三秒見つめ合って、彼等は全てを理解した。言葉は必要なかった。男は薫の腕を掴み、生徒会室の中に引きずり込んで、扉を閉めた。

 隼人が、ふあっと薫の甘いフェロモンに気がついて振り返る。けれど、そこには、薫の姿はない。

「薫……?」

 隼人は、忽然と姿を消したオメガの男の名を呼んだ。けれど、返事はない。周りのクラスメイトたちに尋ねても、薫の姿がいつ消えたのか、誰も知らなかった。

「薫ッ」

 隼人は青ざめて、廊下を走り出した。悪寒のようなものが背筋を走った。もう二度と、薫に会えないような、焦燥感に駆られたのだ。確信めいた、嫌な予感がした。

 薫が、誰かに奪われる。俺の薫が、いやだ、絶対にそれだけは、いやだ。

 隼人は薫を探し続けた。薫が他の男のものになるなど、絶対にあってはならない。必死に学園中を探し続けてみたが、ついに、薫を見つけることはできなかった。


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