白い子猫と騎士の話

金本丑寅

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白い子猫と騎士の話

4 子猫

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 暴れたせいで近くの布製品がよれよれになっちゃったり棚の上の物落としちゃった。ごめんな。
 男は俺を落ち着かせる為にさっきから撫で撫でしてくれてる。まだ落ち着かない俺も前足ぺろぺろ。
 ふう。

 フードが正座して俺達から距離とったとこに座ってる。男がそう言いつけたからである。ねえねえそろそろ服着なよ。そっちもいい加減フード取りなよ。
 フードに言われて男は適当な服を羽織ってきた。良かった。でもフードの方は取らなさそう。




 話を聞いているとつまり、この世界は地球じゃなくて、俺やっぱり異世界召喚確定らしい。
 そんで俺、無茶苦茶探されてたらしい。かなりの人員と技術使って国中探してる時に、人ん家の庭で遊んで食ってウ○コして寝てたわ俺。クッソ申し訳ねえな。

 異世界召喚された筈の聖者が行方不明になっていた。これが男が日々疲れてた理由。というかそれ偶に話に聞いてた。なんてこった、俺の所為でついた疲れを俺で癒やしてたのね。んでやっぱ聞き間違いとかじゃなくて俺が聖者なのね。

 召喚された人間が行方不明になるってことは、召喚と同時刻になんらかの理由があって魂と体がわかれてしまうのが原因だと。身体は元の世界に置いてきて、魂のみが此方に喚ばれる。
 まあぶっちゃければあっちで死んだから魂だけがこっちで彷徨って、そこでそのまま魔法陣から出てきてくれればまだ良かったものの、適当な空いた体に魂が入っちゃったらしい。その空いた体が人でもなんでもなく子猫だった。で、俺が生まれたってわけ。




 フードは魂が此方の世界にあるかどうかの判断、また、姿を直接見ればその人が聖者だと判別できる、が、肝心な何処に居るのかだけはわかってなかったって何その役立ちそうで立ってない微妙な能力。あっごめん。
 ついでにあらゆる動物を相手に会話するのが可能となる言語理解の力も持ってるらしくって俺の言葉が聞こえてるぽい。微妙って言っちゃったとこに反応された。だからごめんて。

 まあそこまではわかるけどその聖者ってのが俺だとして、黒いフード被った変な人は、あ、魔術師? 友達なの? 男はめっちゃ友達のとこだけ否定してるけど。あっさっき噛んじゃったとこ治ってる。わーすげー回復魔法だー。キャッキャッ。
 そんで魔術師さんは俺に何をさせたいの?



 聖者は存在してるだけで世界に平和をもたらす存在。
 魔物が大量発生したり、国内が荒れたりする時期がこの世界では一定周期で訪れる。聖者はそれを食い止めることができる。
 言葉通り居るだけで十分な為、何かの象徴になったり大きな争いを食い止めるようなことはせずとも良い。

 そんなことを魔術師は教えてくれた。落ち着けば割としっかりした人なんだな、この人。


 魂だけだったらどうやって保護すんのかな。
「その時は死体でも人形でも新たな体を用意してそこに入って頂くしかない」

 ひえー。子猫で良かった。
 あと俺あんたとしか喋れないの?
「いえ、多重言語理解能力を持つ魔術師は他に何人か限られていますが、おります。ただまあ現状俺だけと思って下さい。聖者様の存在を国に伝え、安全が確立されれば大丈夫です。今の段階で他の者と喋れるか、というとそうではないとだけ」

 ふーん。じゃあこの男とは喋れないのかぁ。
「……こいつと喋りたいのではあれば、まあ方法はあるにはありますが、」
 ずっと表情が変わらないまま俺を見ていた魔術師だったけど、少しだけ目を細めて視線を背けた。はて?



 俺は魂こそ聖者だけれど、人化ができる魔物でもなければ、人と言葉を交わせる聖獣でもなく、本当にただの猫だから人の体も持たないし会話もできない。これが前提。
 この世界では、ペットより深い関係性のパートナー相棒として契約する動物、或いは戦闘用使役獣として契約される魔物は存在して、この契約を交わした際に会話が可能になるものもいるのだけれど、俺は聖者であるからおいそれと誰かと契約するものでない。
 聖者だけど猫、猫だけど聖者。この循環が事態をややこしくさせている。

 いや、訂正。そもそも聖者かどうかは二の次、いや三、四の次。
 第一にただの猫、第二に(元)人間なのがここでは重要。


 この世界では俺の思う一般的考えと同じく非人道的行為は許されるものでない。それは動物相手でも同様で、魔物や医療用の実験動物、食用の家畜、害獣駆除、やむを得ぬ場合など例外を除いて法的に定められている。
 これは殺傷行為を含めた犯罪行為の他、特定魔法の使用対象もこれに倣うものとされている。その一つが契約魔法である。

 遺伝子を書き換える魔法は生態系を狂わせてまで軽々しく使うものでない。契約魔法とはそういうものの一つで、魔物を契約する時、元来野生動物にも近いその思考、学力を人間に近づけさせる。言葉を与える。人間の下につかせる。逆らってはならない。
 今でこそ禁じられているが一昔前には人間の奴隷に付与されていたこともある、契約魔法の元になった魔法、今は禁じられている魔法。その名は、隷属魔法。


 単純に飼うだけのペットの他、食用としての家畜、やむを得ぬ殺傷の相手に対しこの魔法を使う者は"ほぼ"いない。こわ。
 ペットにしようにも凶暴的であったり、報酬が絡むような利害の一致関係、ここで言うとこのパートナー関係であったり、縛り付ける必要がある場合に契約魔法は使われることがある。パートナーとは劇団などの見世物や、牧羊犬など人の手伝いをさせる動物。要は仕事をさせて対価を与える動物のこと。
 次に戦闘用使役獣、これは魔物退治だとかに駆り出される、契約し手懐けられた魔物。勿論戦闘へ出すのに限らずペットやパートナーとして家の中で生きているものもあるが、魔物である以上は全般的に戦闘用使役獣として適用される。

 この、魔物と動物の違いについては魔力を持つかどうか(だから魔力を持っていない俺は、ただの猫)。
 契約魔法の行使、特に魔物の場合は役所に提出が必須になっている。使役獣の盗難防止の他、使役獣を原因とした負傷、最悪死亡事故が契約者に起これば、この使役獣を魔物としての討伐もあり得るからだ。



 と、ここまで魔術師が話してくれたけれども、つまるところ契約魔法に対しての俺は対象か否か問題。
 第一に魔力を持たない猫なので「ペットもしくは準適用対象生物」、第二に人間なので「適用外」。ということで契約魔法は使えない、"基本的には"。これが結論! 長かったね! 難しかったね!
 ちなみに本人の同意は勿論大事なので猫の時点でも拒否されたら使えないって。聖者云々なんてもうその次よ次。

 え、じゃあ結局駄目ってことは、さっき言った「方法はあるにはある」ってのは?


「まず現在が猫であることをゴリ押しして、人間であったという事実を放棄すれば可能です。一応聖者様の条件の一つが「異世界の人間」である以上根本的な放棄はできませんが。ですが法律が適用されるのは魂ではなく肉体。所謂グレーな案です。二つ目として、魔力を分け与えることで魔物化させます。その場合猫の魔物という条件が他の全てを差し置いて優先されるので法は適用化されます。魔物化とは言いますが魂そのものが聖者である以上、なったところで悪意は持たぬと断言できますし、仮に失敗しても聖者の力が強くて魔物にはなれぬ、でとどまります。ただ、生物の魔物化は法的にアウトです。絶対的に討伐せねばならないタイプの魔物にはならないといえる聖者様であるから提案できるだけです」

 うーん。どっちもどっちだね!

「次、その肉体を一度殺し新たな体へ魂を移します。当然ながらこの時点で法的にアウトですが一応話しますと、メリットとして魔物にも動物にもならず人間に近い体を得られます。つまり召喚した当初から伝えていた、「聖者様の魂のみが召喚された場合、空いた体に移して顕現させる」を予定通り実行させるということです」
「……だがそれだと」
「ああ、一度殺すと言った通り、その体は捨てることになる。聖者の魂は予定通りにしても、罪もない猫が一匹死ぬのは事実。だからはなからアウトと申しました。どれもこれも貴様が黙認すれば別だが、聖者様はそうではないでしょう」

 ひえー。
 俺、今の家族大事だからね。それはちょっと困る。

「法だ法だとは言ってますが結局現状この内々でしか知らない話。2つ目の案とて、聖者様が魔物に転生してこちらの世界にやってきたと通せば通らない話ではないですし。……まあ、神々がどう見てどう思うかは知らないが。一番おすすめでマシなのは最初の猫であることをゴリ押しした契約魔法ですよ」


 結論! ゴリ押しか!

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