白い子猫と騎士の話

金本丑寅

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白い猫と騎士の話

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 玄関扉を開けたらすぐそこで兄弟たちがご飯を待っていた。俺もそちらへ突撃。
 なんだか美味しそうな匂いが残ってたのかみんなに囲まれながらお昼のご挨拶。にゃお! あーお口の周りを舐めないであー、あぁー。

 俺に続いて外へやってきたアレクがおやつ片手に玄関前にしゃがみこむ。やっと離れてくれた。
 俺がさっき食べていた、お城から届いたおいしくてちょっといつもより豪華なおやつ、を餌に、兄弟たちを玄関の近くまで近寄らせて。俺も催促に紛れて兄らのお尻をぐいぐい押しながら。えへ、どうぞどうぞ、おいしいおやつですよ。
 あっちょっとそっちの兄たちよ、そう、前二匹に阻まれておやつまで届いてない後ろの兄たち! こっち来てこっち。見て見て、あっ!! でっけー虫! あっ逃げた! 追えー! おやつは後だ! 俺たち三匹は駆け出した。





 いつもはご飯をあげる時には閉めてる玄関は、今日は開けっ放しにしておいてある。外と中の境を跨いで、扉のすぐ傍でおやつと共に手招くアレク。あやしい。
 まず最初に見たことないおやつの存在に気付いた一番上の兄と、俺の一つ上の兄が近づいてゆく。じりじり。なにあれ。おいしいにおい。持ってる人間とか家の近くとかが気になるけれどおやつも気になってしまう猫の足は止まらない。じり。じりじり。しゅたたた。駆け出した。おやつ一直線、猫まっしぐら。
 これおいしい! いつものとはまた違うおいしさ! とてもおいしいから、普段はでかくてちょっぴり怖い、でも最近構ってほしそうにしてるから仕方なく一緒に遊んでやってる人間の、そのてのひらにのっかったやつだって食べてしまう程!

 すぐさまアレクが警戒の緩んだ猫二匹を見事な早業で一緒くたに布で包み込んで抱え込んだ。



 暴れだすも成長したとてまだ大人でない猫ちゃんだし、相手はそれなりに鍛えてる騎士、勝つことはできず、瞬時に立ち上がると家の奥にある空き部屋まで兄弟を運びに行って放流。
 キャッチアンドリリース。慈悲はない。

 そう、招き入れるのではなく攫うことにした。心情に訴えかけても兄弟たちの性格的に、せめて玄関の中にすらも入ってくれない可能性が高くて、仕方ないよね、やっぱりパワーは全てを解決してしまうんだね。
 俺はというとわざと残り二匹の気を引いて、逃げられると困るので向こうの様子を見せないようにさせてた。偶々でっけー虫が居て助かった。名前も知らないでかい虫。良かった、虫。ありがとう、虫。今兄弟に咥えられてるけど。
 後で兄を売った弟だと責められるかもしれないが残念ながら黒幕は俺である。真っ白毛並みのおなか真っ黒にゃんこである。どうせ兄弟とて室内飼いの虜よ、今に見てろ、ふふふ……!
 アレクが戻ってきたらそれをもう一度繰り返す。


 今日も今日とてママンはどっか行っちゃったみたいで、敷地のお外かな。まああのひとは何かあればよく窓の近くまで来るから後でもゆっくり呼べるじゃろ。流石に力づくだとアレクでも負けるからこちらは冷静に言葉で訴えていきたい所存。





 二回目の猫掬いを成功させたアレクについてって、なにやらドタバタ音がする部屋に入り込むと、早速大運動会してる。毛が舞ってる。
 俺が事前にアドバイスした通り、扉の前には柵と猫返しを設けたので小さい内なら簡単には飛び越えて逃げられないようになっている。えっ、どうやって教えたのかって。そらもううにゃうにゃ長々あれこれどうにかとがんばって。嘘。ジュード来て色の話してった時に、思い出したついでに伝えてもらった。

 そもそもにしてあの時にジュードが来た理由だけども、まあ勝手に魔王来ちゃったもんね。来るよね。
 でっかい猫ちゃん襲来の翌日と、それから数日おいて合わせて四回くらい、これまでの頻度に比べたら短いスパンで結構来た魔術師は、その分互いにあれこれ聞き出しつつアレクに伝えたいことがあれば教えつつ世間話でもしてついでにアレクに喧嘩売って帰っていった。
 魔王みーちゃんの話をしている間の気分は取り調べ。カツ丼の代わりに置いてったのがさっき食べてたおやつである。魔王も食べてるおやつ。原材料は知らん。猫が喜ぶ謎のおいしい飯。みーちゃんは元気らしい。うむうむ。

 ホームセンターに置いてある市販の金属製猫サークルはここにはないけれど、魔物飼育用でぼちぼち需要があって売られてる、室内で囲う為の木製の柵を用意してくれた。今度猫用ドアのことも教えてみようかな。
 取り付けられた柵は今のところアレクの腰の高さまでしかない。俺四、五匹分。この高さだと多分壁でも伝えば逃げられるけど、なにせ最初の放流用に下げられてるので仕方無し。様子見してから今度高さで増設する模様。

 細い柵に隠れたようで隠れてない俺を目敏く見つけたらしく、兄弟たちがめっちゃ文句言ってくる。わーん。だってお外は寒いよー。
 会話というか説得が始まったのをアレクも気づいたか、抱きかかえられながら柵の向こう側へ降ろしてもろて、詰め寄られながらにゃんにゃんごろにゃんと説明タイム。その間にアレクは暖炉に火を入れる。
 なーうなーうと揃って文句を垂れるのを三角お耳の右から左に流しつつ。だってここはあったかいしご飯は出るし、危なくないし、怖いこともまあ基本的にはないだろうし、おうちはさいこーよ。あとお兄ちゃんたち、走り回っていっつもどろんこよ。ここはあんまり汚れないよ。怖い鳥も来ないよ。獲物も出ないけど。たぶん。たぶん……。にゃんにゃんごろにゃん……。

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