白い子猫と騎士の話

金本丑寅

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白い猫と騎士の話

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 魔王のみーちゃんが怒涛の勢いでやってきては去ってって、二週間。あれ、三週間? 毎日が休日なのでわかんない。ソファーの上で、ふかふかおててで頭抱えてわかんなーいのポーズ。通りすがりの撫で魔がお腹をわしゃわしゃしていってきゃっきゃっ。
 でももうそろそろ秋の終わりなのはわかる。冬の一歩前。アレクが言うにはいつ雪降り出してもおかしくないそうだ。おかげでってわけじゃないけど冬毛に生え変わり始めて部屋のあちこちに白い毛が落ちてる頻度が増えて、見つけるとアレクが拾ってる。ちょっと誰の毛よ。俺しかいないですねはい。

 豪雪地帯ではないけれど、全然降らないわけでもない、いい具合のところが俺の地元だった。ので見慣れてはいるよ。雪遊びも雪掻きもしたことがある。
 だからそんな子供みたいにきゃっきゃするつもりなんて無いんだぜ。寒さに負けじと今年生まれたばかりな兄弟たちは駆け回りたくなるかもしれないけど俺は大人なんだぜ。ふふん。あれ、雪って俺の知ってる雪と同じだよね。蛍光ピンク色とかしてないよね。ないよね?? 本で学んだ筈なのに実物見るまではちょっとそわそわ。
 またそわそわしだした俺のことをアレクが心配したけど今回はしょうもないことなので何でもないですごめんちゃい。おててふにふにさせてあげるので許して。
「みゃ」
「どうした? ああ、これか、切っただけだから心配するな」
 俺の前足をふにふにしてる人差し指に、紙で切ったような薄い傷。舐めときゃ治るなんて言うけど俺がやったら悪化しそう。



 ってのが、ついさっきあったことでね。
 で、そういやさ、すごい今更なんだけど。猫の目って、認識できる色とできない色あるよね。

 なんとなく聞きかじっただけなので詳しく何が見えにくいとか、何が見えるとかはこれまで数十年生きてた中で知らなかったけど。猫って、見えてないんだね。赤色。
 なんで今になってそんなことを思い出しているかって言うと、動物図鑑で猫のとこを今正に見てたからである。一人で本を読む猫。最近時間をかけてのページめくりが上達してきたところ。
 研究はまだまだ途上につき数多くはない生態エピソードの中にその話が載っている。




 猫と人は、見えている色が違う。

 ちなみにこれは、過去に魔物の生態学を調べていたチームが、魔物の中には人が見る色彩とは異なる色が見えている種が居るということを偶々発見。
 そこから、契約もしくは人馴れした動物魔物問わずいくつかの種族に対し、人の目には全て違って見える色、しかし全く同じ形状の対象物を与えて、指定した色を持ってこさせるという実験が始まった。
 すると完全に一致したものが多数。何度か指示したものとは違うものを持ってきたのが少数。ほぼ全て間違えたのがもっと少数という結果が出た。

 さてここで、今度は一色につき一つの匂いを指定した対象物を用意してみた。
 これを先程の実験で間違えた少数勢に与えて、もう一つそれと全く同じものを指示用に嗅がせ、再度持ってこさせてみたところ、今度は全て正しく、みんな違うものであると判断した、というもの。
 それから同じ種族の別個体でまた同様の実験を重ねてゆき、まあ個々の性格の問題はあったものの大体は同じような結果が得られ、視覚が人間とは違うのではないかという確信、ついでに視覚よりも嗅覚の鋭さ、種による優劣の一面もが確認された。


 但しこれでも間違えたものも居たのだ。
 ではそれは一体なんの種族でどうやって似た形状のものを区別しているのかといえば、なんと一般的には目に見えない筈の魔力や魔素を感知してるという、植物系の種族であった。
 それも、他種族と変わりない程度に普通に生活している魔物であること、しかし契約してもその大半が高飛車な性格をしている──なにせ植物なので、繁殖力も生命力も高くなにより植物を失えば全ての生物は滅ぶのだから、植物は頂点に立つと彼らの一族は枝の先から根っこまで行き渡った考え方で生きている──から、一つの質問を聞き出すのにも難儀で、中々詳しい生体や能力が明らかになってなかったこともあって。
 この度実験で初めてその事実が判明し、研究者だけでなく魔物と戦ったり扱ったりする業種の人にまで衝撃が走った。

 確かに、ここで与えた対象物は実験するに当たって用意していた人が全て同じ人だったので、例え匂いは混ざらないように扱っていたにしても、みんな同じ魔力をほんのり持っていたのだ。それは触れただけで付いた程度、魔力検知にかけても反応しないレベルの、微かな残滓。それをわかる、とその植物の魔物は言った。
 目は見えているが色は一致しない。匂いは植物なので発することはできても自身には嗅覚が存在しないのでわからない。
 しかし誰にも見えていない潜在エネルギーが見えている。
 そんな生き物も世の中には居るのだと、新たな見解が広まった。

 まあそんなわけでこの魔物に対して、今度は見た目もそっくり匂いも混ざりあった、箱に入った様々な魔石、つまり風だとか水だとか、色んなのがごちゃごちゃになってしまったのを使って実験したところ、魔素ごとばかりか使用時に表れる強弱の度合いまで更に細かく選別したという。
 以来、その種族には魔石のクラス選別とか、人には感知できないくらい小さな魔力しかない子の判定を手伝ってもらってるのだとか。だからそういう仕事の人がその魔物を探し出して、契約してパートナーにしがちなんだとか。性格における相性の程はさておき。
 


 匂いの判別は正確だが視力は弱い、逆に言えば視覚は人間に劣っても嗅覚は人間以上を誇る。
 どの感覚も弱いが無二の方法で世界を見ている。
 人と完全に同じ感覚を持っている。などなど。
 また、最初の実験で全て正解した種族の中にも、人とは違う色に見えていた子もいたとかいないとか。一つの実験は、様々なことを人間たちに教えた。


 見る力と嗅ぐ力。何かが劣れば何かで補う。それは偏に生存する為。
 魔物や動物は人より鼻が効くという当たり前のことは、こっちの世界でも万人が知る当たり前の話だろうけども、確証がなければ噂話、生活の知恵、暗黙の了解というやつで。それが何故か、どのくらい効くのか、どの生物がどうだとかまでを探るには中々辿り着かなかったんだね。辿り着いたら着いたでもっと色々と判明してるけど。
 こうして他の五感や生態についても発見があるかもしれないと追求。では他の魔物は、動物は、人は、人に近い種族は、と研究を重ねて後々幾つか論文が発表されたらしいし、生態を調べあげようとした著書も増えた。その中にも猫の話が含まれている。
 まだ研究者の間で探求は尽きず、今現在も詳しく調べられている。







 って図鑑のコラムに書いてた。図鑑すげえ。
 医療や解剖学関係の発展がどうかはわからんけど動物と対話できる人や術がある分、地球より研究の開始が遅くてもスピードは早くて正確そうだよね。
 でも戦う必要があるから、どうしたって普通の動物図鑑より魔物の生体のが優先的に詳しく調べられている。ので魔物図鑑の方が分厚い。なんなら生息場所ごとのシリーズで出てる。
 まあそのうちもっと詳しい動物図鑑が出るだろうなぁ。出てほしいなぁ。何十年後になるかわからんけど。もしかしたら案外もっと早いかもしれない。今もどっかで研究してて、日々知識が更新されてんだろうなぁって考えるとわくわくどきどき。

 そんな話を読み終えて興奮抑えきれないままリビングをぐるぐる回った後に庭へと飛び出して。ふと、あれ、と思ったのだ。



 外の庭の木に実ったりんごのように真っ赤な実を見た兄弟たちは、興味薄そうにしてた。何色に見える? って聞いたら、そもそも色とはなんぞやって反応でした。せやな。解散っ。

 そう、そうなのだ。
 俺には普通の「赤」が見えている。なんでだろ。
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