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白い子猫と騎士と黒い猫の話
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しおりを挟む急に意識が蘇って、ふ、と目が覚めると心配そうな男の顔が頭上にあった。そのほっとした目元に、俺は気絶したことを理解したしその前のことを思い出した。そして俺は猫のくせに警戒心もなくソファでヘソ天で寝てた。
むちゃくそ怖かった。ウェーン。
「大丈夫か」
だいじょばない撫でて。
「みゃ」
あれ、知らない男がいる。
かわいいおててを目元に当てて泣き真似した上でよしよし撫でられてる場合じゃねえ。
知らない人たちはもっといるけど、記憶を遡ってみれば彼らはさっきも見た顔だね。走ってきて息切らしてた人たち。もう平然としてる。すげえや。彼らは壁際に寄って空気と化している。
それとは違う、一人だけまだ知らないその男と目が合った。
真っ黒な服。真っ黒な肌。真っ黒な長い髪。
吸い込まれそうな金色の、目。
「目が覚めたか聖者」
あっちがうこれ魔王や。
声でやっとわかった。
良く言えば貫禄があるような、悪く言えばふてぶてしいその態度。腕なんか組んで高い背丈で見下ろして、我こそが頂点人間は下僕。うーん正に魔王。
だろうなとは思ってたけど喋ったからには流石に人化もするか。するよね。魔力でかいんだもんね。当たり前だよね。
魔王についての詳しいことは魔術師からなんも聞いてなかったな。だってまさか家に来るとは思ってなかったから。来るかもっては言ってたっけ? 実行するんだこのネコチャン。
魔王は猫、猫が魔王。
そうか、なんていうのかな。俺の中で猫って部分だけが独り歩きしてたからか、魔力と魔王と猫とがこれまで全然繋がってなかったんだよな。いや、考えりゃわかるってのに思考の外へ飛んでってたというのか。言い方が難しいんだけど。
だから喋ったのも人になったのも正直ちょっと今びっくりしてる。魔力無いのがただの動物で魔力持つと魔物なんだっけ。そうだそうだ。
けど機嫌悪くなるとキレる(簡約)も気に入った人間はどうこうの話もあまりに猫。猫じゃん。魔物らしさ今のとこないし猫らしさが強すぎるんだもん。
魔物らしさってば、こう、例えばゲームの悪者のように滅茶苦茶に暴れ回って、人に危害を加えて、みたいなさ。でもここの魔王はそういうわけじゃないんでしょ。まあ多少世界の状況が悪いことになるにしてもわざと傷つけるとかはなくて、本人に理性はあるんでしょ。賢い猫ちゃんじゃん。ちょっとでかいだけで。
でもこうして人に化けれるの目の当たりにするとそっか魔物なんだなあなんて改めて感じる。
魔術師の言う多重言語理解能力。動物と会話できるイコール猫の魔王とも話せる、って勝手に認識してたけど、話せる上に人の姿になれるときたら誰とでも意思疎通できるよね?
まあその前に一般人は許可が必要なのかな。王様に謁見するのに前段階が必要みたいに。そうでなくてもお付きの人間とか近くで接する人間は少なからずいるよね。
じゃなんでさっきの人たち、えっ喋れるのみたいな顔だったのかって話で。まあ偶々慣れてない人たちだったってのは有り得るけども。
そもそも、現にこっちの人間味ある格好より、わざわざ事後処理が大変そうな猫の姿で現れたってのを考えるとさ。もしかして魔王って普段から猫の姿なんじゃないか? そのくせすっごい気まぐれに喋って人の姿になる。なにせ猫だから。
で、ずーっと猫のまんまだとやがて人の姿を知る人は少なくなるか、噂話ぐらいになる。例えお城の中で働く人とか近くに居るような存在であってもそのことを知らない人が多くなる。のでたまーに人の姿をとって驚かれる。と見た。なかなか良いとこいってんじゃないか。気まぐれ猫ちゃんに翻弄されし愚かな人類なり。ふふふ。
「賢いな聖者は」
おっとこいつぁもしやかんがえてることがわかるのうりょくですか。
「そうだ」
わー恥ずかしい。意気揚々と考察してドヤァしてバレバレになるの恥ずかしい。俺たちの会話の内容がわかってない男にほっぺをもにゃりもにゃり。
って考えてたので合ってたのかな。頷いたから合ってんだ。へえ。
「しかし、代々聖者は弱々しかったものだが、今回はこんなにも貧弱なものなのか」
そう言いながら両手で俺をかっさらって、脇の下抱えて宙ぶらりんのキャットキング。
貧弱て。俺だってせめて人間だったらねえ。
「まあこの姿も愛いな。──よくぞこの世界へ降りた。我こそはこのフォルカが主、人の子は或いは魔王と呼ぶ。健やかに生き大きくなるが良い、同族のやや子よ」
そう細めたきんいろの目は、差し込む陽の光できらきら、ぴかぴかに、かがやいて。
鼻チューリテイク。こんにちは、優しい魔王様。
ふん、ふんふん。ぺろ。これは、かつおぶしの匂い……!?
えっあとで送ってくれるの?? あんがと。
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