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白い子猫と騎士と黒い猫の話
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しおりを挟む アイリスは別に、虐待されているわけではなかった。
アイリスの兄、五歳年上のエレムが四歳の頃に毒を盛られ、生死を彷徨ったのだ。
なんとか命は取り留めたが、しばらくは目を離せない日々が続いた。
その頃、すでにアイリスを身籠っていた王妃様は、体調を崩し出産さえ危ぶまれた。
それでもアイリスは生を受けたが、エレムと王妃様ふたりともが、床に伏せる日々が続くことになった。
自分たちで育てることは出来ない。
それは苦渋の決断だったのだろう。
だが、アイリスが愛情を注がれて育つことを願った両親は、離宮で暮らす祖父母に生まれたばかりの娘を託すことにした。
祖父母にとっては、可愛い孫娘だ。
しかも、孫息子や嫁の体調のことも理解していた。
だから、幼子の間くらい預かるくらいのつもりだったのだろう。
だが、なんとか日常生活を送れるようになったエルムが、赤ちゃん返りをしてしまう。
アイリスを引き取ろうと、準備を始めた両親の気をひくように、甘え、愚図り、困らせるようになった。
もし、ここでアイリスを引き取ったらエルムが虐待をするかもしれない。
もう少し。もう少し。
そう思っているうちに六年が経ち、アイリスが七歳となった。
エルムも落ち着き、ようやく引き取ろうとした矢先の祖父母の事故死。
慌てて引き取ったアイリスは、両親にも兄にも関わろうとせず、話しかけても頷くか首を横に振るだけで、話そうともしない。
そこでやっと、両親は気付いた。
自分たちが良かれと思ってしたことが、娘との距離を作ってしまったことを。
そこで食事に誘ったり、お茶に誘ったりしていたらしいが、全くアイリスは応えようとせず、今日初めて、一緒の朝食だった、ようだ。
アイリスの持っていた日記は、おそらく祖母のものだったのだろう。
流暢な文字で書かれた内容は、概ねそんな感じだった。
日記帳と共にあった数枚の便箋に綴られた日記は、アイリスが書いたと思われた。
子供らしい字で、祖父母が居なくなって寂しいとか、ここは自分のいる場所じゃないとか、自分はひとりぼっちになってしまったとか、書かれていたから。
なんとなく、事情は飲み込めた、と思う。
この場合、親が悪いとも言えないし、当時五歳の兄が悪いとも言えない。
アイリスが親の愛情に飢えて、素直になれないことを責めるのも違う気がする。
そう。
全ては、仕方のなかったことなんだと思う。
まぁ、もう少し、こまめに会いに行くとか、方法はあった気もするけど、会ったら会ったで、一緒に居れないことを悲しんだかもしれない。
アイリス。
悲しまなくていいよ。これから私と一緒に、幸せになろう。
アイリスの兄、五歳年上のエレムが四歳の頃に毒を盛られ、生死を彷徨ったのだ。
なんとか命は取り留めたが、しばらくは目を離せない日々が続いた。
その頃、すでにアイリスを身籠っていた王妃様は、体調を崩し出産さえ危ぶまれた。
それでもアイリスは生を受けたが、エレムと王妃様ふたりともが、床に伏せる日々が続くことになった。
自分たちで育てることは出来ない。
それは苦渋の決断だったのだろう。
だが、アイリスが愛情を注がれて育つことを願った両親は、離宮で暮らす祖父母に生まれたばかりの娘を託すことにした。
祖父母にとっては、可愛い孫娘だ。
しかも、孫息子や嫁の体調のことも理解していた。
だから、幼子の間くらい預かるくらいのつもりだったのだろう。
だが、なんとか日常生活を送れるようになったエルムが、赤ちゃん返りをしてしまう。
アイリスを引き取ろうと、準備を始めた両親の気をひくように、甘え、愚図り、困らせるようになった。
もし、ここでアイリスを引き取ったらエルムが虐待をするかもしれない。
もう少し。もう少し。
そう思っているうちに六年が経ち、アイリスが七歳となった。
エルムも落ち着き、ようやく引き取ろうとした矢先の祖父母の事故死。
慌てて引き取ったアイリスは、両親にも兄にも関わろうとせず、話しかけても頷くか首を横に振るだけで、話そうともしない。
そこでやっと、両親は気付いた。
自分たちが良かれと思ってしたことが、娘との距離を作ってしまったことを。
そこで食事に誘ったり、お茶に誘ったりしていたらしいが、全くアイリスは応えようとせず、今日初めて、一緒の朝食だった、ようだ。
アイリスの持っていた日記は、おそらく祖母のものだったのだろう。
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子供らしい字で、祖父母が居なくなって寂しいとか、ここは自分のいる場所じゃないとか、自分はひとりぼっちになってしまったとか、書かれていたから。
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アイリスが親の愛情に飢えて、素直になれないことを責めるのも違う気がする。
そう。
全ては、仕方のなかったことなんだと思う。
まぁ、もう少し、こまめに会いに行くとか、方法はあった気もするけど、会ったら会ったで、一緒に居れないことを悲しんだかもしれない。
アイリス。
悲しまなくていいよ。これから私と一緒に、幸せになろう。
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