白い子猫と騎士の話

金本丑寅

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白い子猫と騎士と黒い猫の話

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「城に行ってみるか」

 あっちょっとまだ勇気が……。

「嫌そうな顔をしているな」
 なんて言って、ふ、と鼻で笑われた。なんだいなんだい、そっちだって初めて城に行った時はビビってたんじゃねえんかい。違うのかい。ちなみに彼の子供の頃の話はまだ聞いたことはない。
 にゃうにゃうごねてればその巧みな手捌きでこねこね撫でられてあうあう。

 掃除もそこそこ、いやいやそれなりに順調で。本日はおやすみ。
 休日みんながみんな片付けにあててるわけでもなくて、偶に何もしない日も大事。だって休日だもんな。休む日だもんな。

 もし彼が休日出勤する上司レベルでクソ真面目な人間だったら俺がにゃんにゃん言ってもふかふかお腹で誘惑しても働き続けてんだろうけど、あのズボラ小部屋の様子から、んにゃ魔術師とか部下とかの愚痴零しまくってる時点で割とあれだなって思ってるからな。あと聖者と理解しながら俺を満遍なく撫で回せる辺り敬いの心とかあんまなさそう。
 大丈夫? ここ盗聴魔法とかないの? あったら危ないでしょ。色々。
 あとこう見えても俺聖者やで。教会とか聖職者が保護者の目をかいくぐって犯罪すれすれで俺をかっ攫おうとしてる計画を立てるのなんてネットで100万回は見
 えっ特に相手からの無理やりな接触ないの。んなことしたら魔王に怒られるし囲われず自由に生きてるだけで許されるからのびのびしてればいいの。やさしいせかい。
 今度、そのうち、気が向いたら顔出してあげよう。行けたら行く。

 中身に反してこの男、お城の騎士団の何番目かの隊長なんだってねえ。見えないねえ。見た目だけの話で言えばまだ若いってのもあるけど。そんなに強いのかな。隊長ってそんなにちょこちょこ休み貰えるの? 福利厚生が良いの? 残業手当出るの?
 男の働きぶりとかそんな彼の部下たちとか気にならんわけではないけれど。会話ができるようになったら、色々聞いてみたい話はあるんだ。え? 会っちゃ駄目? 城には連れてこうとしてるのに? あっ、猫好きが割といるの。そうなの。確かに職場に猫ちゃん居たら構いたくなって仕事にならなさそう。

 ちなみにここまで、図鑑等の書籍を介して会話しております。実はこないだ、なんと絵本とか家にない図鑑とかわざわざ買ってきてくれた。ありがたい。感謝のもふもふとしてお腹を撫でさせてあげよう。
 俺、図鑑を主に読んでるけど、文字は読めてるのね。ほら、契約書の内容も読めてたし。多分喋れるようになっても会話はできる筈。けどこの世界の言葉はわかっても常識はさっぱりだから、辞書とか魔法の本もあるなら見てみたい。でも本って高いだろうからね。特にこういう絵のある本ってさ。
 物の購入に関してあまりおねだりはしたくないし無理してほしくもない。図書館あるかな。幾らお給料良くても甘えすぎたくはない。ただでさえタダ飯食らいの居候なので。
 騎士の絵をたしたししてたら、お腹をもふられる。



 んで、城。城ね。俺何したら良いの。作法とか何も知らんよ。
 一般人だし。
 猫だし。
 そうよ可愛いただの猫ちゃんよ。お城のピカピカした廊下を歩くの。このちいちゃなあんよで。王様の前でも香箱座りよ。突如紛れ込んだちょうちょ見かけたらお話無視して追っかけちゃうかもしれないよ。そんなことが許されるの。俺なら大いに許す。

「別にパーティーに参加するわけでないし、お披露目されるわけでもない。王族と魔王に顔合わせする程度だろう。食事も無理だろうしな。出向けば目立つかもしれんが。いい加減上が煩い」
 最後の本音だな。
 やはりこの男、敬う心が少し薄そうである。しかしそういうとこが気兼ねなくて良い。うーん益々部下の人たちと話してみたくなった。そんで普段の男の様子を知りたいのである。

「そもそも聖者は王族と同等どころか、それ以上だと魔術師アイツは言っていたぞ。魔王が直々に聖者召喚に関わるのが事実としたら、同格と言うべきはむしろそちらなんだろうな」
 ぴえっ。なんでそんな上の御方がひとんちでごろごろにゃんにゃんできてるんですかね。世界に許されし自由が今度は怖くなっちゃうよ。




 蒸し返すけどやっぱ安全面ガバ過ぎやしませんかね。まあ二十四時間家の前とか周りで監視されても困るからやめてくださいね、って言ったからかどうか知らんが本当になんもないんだけど。
 セキュリティを代償に自由と身分を得てるってか。心安らかな生活と不安の狭間に巻き込まれる俺。たしけて。平穏に住まわせろ。
 平穏に住む第一歩が今のところ「家の敷地から出ない」なのだが。自由とは。


 うーん、聖者は自由であれってルールはわかるし有難いんだけど、やっぱなんかねえ。何か裏あるんじゃない?
 なんて、勘繰ってしまう。

 まず聖者は健康的ではっぴ~に生きてりゃ良いんでしょ。はいはい。
 んで王族は聖者をとどめておきたいでしょ多分。世界の平和の為にも。ただ魔王の弊害ってほんとに世界全土なのかな。なんでわざわざこの国で召喚されたかって考えれば、それはつまり魔王がこの国に居るからなわけだろうけど。そうなると何かあった時の一番被害が大きい地域なのかな。自分の国を特に守る為にも手元に置きたいのではと考える。他所の国に居ても俺の効果って同じなのかな。はて、他の国の事情はどうなんだろう。魔物は魔王の元に集まってくる? 聖者って一人だけ? そもそも魔王って一人だけ? 魔王って何? 前回聖者が呼ばれたのはいつなのさ? わからん!

 ふう。次。魔王はなんだ。あれだ。俺はストレス解消の癒やしグッズ。こっちはこっちで近くに置いてた方が良いんじゃないの、って思っちゃう。でも自由で良いと主張してるのが魔王なんだよね。なんでなんだろうね。
 この世界に居ればそれで良い。それならもっと良い人が見つかるだろうに。わざわざ俺にした理由じゃないよね。猫好きとか、もっと細かな条件とか、こうやって遠く離れて暮らしてたらその辺の理由ってあまり意味なくないかな。ということは、やっぱり本来は聖者って魔王の傍に居るべきなのではと思ってる。そもそも聖者は異世界の人間じゃないといけない理由も聞いてない。
 正直こっちも疑わしいけど、ぶっちゃけ俺に何をさせたいのかちゃんとわかってないから、判断が難しい。んじゃいっぺん会えって話だな。うっす。
 あと魔術師たち。なんだか魔王派っぽいよね。というか、聖者派とでもいうのか。まあ魔術師って俺一人しか知らんけど。そういや騎士はどっちだろう。男が聖者や魔王について詳しくなさそうなんだよね。聖者関連で何か話す時ってよく「魔術師から聞いた話だが」って言ってるし。なんで魔術師と騎士に情報の差があんのかな。だって仮にも隊長でしょ。うーんこれ考察しようにもサンプル少なすぎてよくわからん。だめだめ。
 魔物が増えたから俺が呼ばれる。色んな被害を避ける為にも魔王を他所に移動させたらいいんじゃないのなんて思っちゃうけど、居なかったら世界終わるパターンって言ってたからなあ。実は国を守ってるってことなのかな。でも普通そういう存在って人目から隠れてない?
 まあデカイネコチャンがうちに居たらって考えると。


 手放せねえなあ…………。


 最高が過ぎるじゃんなあ……。
 無理無理。

 ついでに、国民はあまり聖者について知らないらしい。どんな人が選ばれて、どんな暮らしをして、居ることでなんの恩恵が得られてるのか。なんならその姿を知らずに一生を終えてもおかしくはないって。今現在国内に居るのか居ないのかもはっきりとは国から伝えられない。だから居ないのに虚言の噂話が出ることもあるらしい。なんじゃそら。例えば酒場の飲んだくれのおっさんがうちの聖女が可愛くて美人だって話を? それきっとただの娘さんの自慢話かなんかだよ。
 聖者が存在した歴史はぼちぼち伝わってるみたいだけどそれでも広く認識がされてない。それはつまり、よくあるお披露目とかニュースになったとか、もしくは伝承も、今までの聖者もされてないんだろうな。
 俺はここに住んでるけど、王様の傍で暮らした人だって一人くらい居ただろうし。認識されないのは国民に話す必要がないからなのか、隠しておきたいのかは知らん。
 ん~。まあ確かにそれは「普通に平和で暮らせばそれで良い」に詰まってるけど。つまり有名になったり崇め称えたりせずとも平民的に暮らしていて幸せになってるなら良いってことでしょ。持ち上げられて逃げ出した聖者とかいたんかな。わからんなぁ。
 だーめだなんもかんもわからんなぁ。
 
 
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