上 下
399 / 448
九条尚久と憑かれやすい青年

収まらない体調不良

しおりを挟む
 祓ってもらってしばらくしてから、再び酷い頭痛や肩こりに悩まされた。もしやと思い、また寺に向かう。祓ってもらうとよくなる、それを再三繰り返しているのだ。

 住職も驚いていた。だが曰く、『祓うとは霊を消すわけではなく遠くへ追い払う行為なので、戻ってくる可能性があるのだ』と教わった。だからしつこい霊が、伊藤を気に入って戻ってきてしまうのではないかと。

 何度か寺に足を運ぶも、その日常に疲れていた。料金もかさむ。昔はただの不調と思っていただけなので気にしなかったが、霊が原因だと分かってしまえば気分的によくない。祓いたいと思うのは当然だった。

 そんな日々を送りつつ迎えた社会人三年目の伊藤をある日、今までとは違う異変が襲う。彼はこの体験で、今まで生きてきた人生の価値観をがらりと変えられることになる。





 届いた唐揚げを、顔を綻ばせて取った。先ほど注文した三杯目のレモンサワーを喉に流し込み、熱々の唐揚げを頬張る。至福の時だ、と伊藤は思った。
 
 正面に座るのは彼の友人・桜井だ。大学生の頃からの仲いい友達で、勤める会社は違うものの、今でも定期的にこうして連絡を取り合い、食事に行く仲だ。伊藤は元々友人が多いのだが、中でも桜井には確かな信頼を置いている。

「あーうまっ」

「伊藤って案外飲むよな」

「顔にビールが似合わないとはよく言われるよ」

 桜井はそれを聞いてげらげら笑った。伊藤は今でもよく学生に間違われるぐらいの童顔で、彼の隣にアルコールはどこかアンバランスで合わない。恐らく大学のテキストを置いておいた方がよっぽど違和感はない。

 桜井も唐揚げを食べながら言う。

「出会った十八の頃から何も変わってないもんな」

「これ結構悩みなんだけど、このまま年を取ったら僕どうなると思う?」

「おっさんの伊藤って想像できないな……でも大丈夫だ、お前にはコミュ力という武器がある」

「そう強い武器とも思えないけどねー」

 よく周囲から『人懐こい』『コミュニケーション能力が高い』と評価されるが、伊藤自身はあまりピンと来ていない。普通に話しているだけで、特別秀でている自覚がない。そういう驕らないところも、彼の長所と言える。

 伊藤は冷えたレモンサワーを飲んだ後、自然ともう片方の手で首を触った。何かがあるわけではないのを確認すると、その様子を見ていた桜井が不思議そうに尋ねる。

「どうした? 喉痛いの? なんか今日、やたら首触ってない?」

 伊藤は無意識に何度も触っていたらしい。頷いて、彼は眉尻を下げた。

「うーん、なんかさ。苦しいんだよね」

「え? 風邪?」

「そういうんじゃなくて……体験したことないんだけど」

「なに、アッチ系?」

 桜井が困ったように言い、伊藤は頷いた。伊藤が霊による体調不良に悩まされていることを、桜井は知っていたのだ。

 酷くなると寺に行きお祓いをしてもらうことも、彼は聞いている。伊藤は信頼できる友人にだけ話していた。普通なら怪しまれる話だが、桜井は伊藤のことを疑わず、時々愚痴に付き合ってくれる。

「それがさあ。なんていうかこう……首が絞めつけられてるっていうか、息苦しい感じが時々あるんだよ。最近になってこうで……一応、病院で見てもらったけど、やっぱり体的にはおかしなところはないみたいなんだよね」

「それってつまり、またアレじゃん。寺、行くの?」

 桜井は同情するように伊藤の顔を見ると、彼は深くため息を吐いた。

 いつ頃からだろうか。それは例えば、肺の機能が落ちているために苦しいという感覚とは違い、はたまた喘息のように変な呼吸音が漏れるわけでもなかった。

 首を何かが締め付けている、そんな感覚だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

【一話完結】3分で読める背筋の凍る怖い話

冬一こもる
ホラー
本当に怖いのはありそうな恐怖。日常に潜むあり得る恐怖。 読者の日常に不安の種を植え付けます。 きっといつか不安の花は開く。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

催眠アプリを手に入れたエロガキの末路

夜光虫
ホラー
タイトルそのまんまです 微エロ注意

妊娠条令

あらら
ホラー
少子高齢化社会の中で政治家達は妊娠条令執行を強行する。

【意味怖】意味が解ると怖い話【いみこわ】

灰色猫
ホラー
意味が解ると怖い話の短編集です! 1話完結、解説付きになります☆ ちょっとしたスリル・3分間の頭の体操 気分のリラックスにいかがでしょうか。 皆様からの応援・コメント 皆様からのフォロー 皆様のおかげでモチベーションが保てております。 いつも本当にありがとうございます! ※小説家になろう様 ※アルファポリス様 ※カクヨム様 ※ノベルアッププラス様 にて更新しておりますが、内容は変わりません。 【死に文字】42文字の怖い話 【ゆる怖】 も連載始めました。ゆるーくささっと読めて意外と面白い、ゆる怖作品です。 ニコ動、YouTubeで試験的に動画を作ってみました。見てやってもいいよ、と言う方は 「灰色猫 意味怖」 を動画サイト内でご検索頂ければ出てきます。

これ友達から聞いた話なんだけど──

家紋武範
ホラー
 オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。  読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。  (*^^*)  タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。

とほかみゑみため〜急に神様が見えるようになったので、神主、始めました。

白遠
ホラー
 とほかみゑみため………神道において最も重要とされる唱え言葉の一つ。祝詞。漢字表記は当て字である。  代々神主の家柄の榊 伊邇(さかき いちか)は中学2年生。正月明けに育ての親である祖父を亡くした。  伊邇には両親はなく、霊能力者の姉が一人いるだけだが、姉もまた原因不明で意識を無くして病院に入院したきりだった。一人きりになった伊邇の前に、ある日突然祀っている神社の氏神様と眷属の白狐が現れ、伊邇の生活は一変する。実は伊邇もまた、神やその眷属を見ることができる霊能力者だった。  白狐の指導により、お祓いを主とした神主業を始めた伊邇だったが、ひょんなことから転校生である佐原 咲耶(さはら さくや)と生活を共にすることになる。佐原にもまた、霊感があり、生活の中でいわゆる幽霊に悩まされていた。  神主として経験を積むイチカと、サハラとの微妙な同棲生活の中で、眠り続ける姉の秘密が明らかになっていく。 ※R15指定は残酷描写のためではありません。性的行為を想起させる表現がございます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。