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憧れの人
無力さ
しおりを挟むそう言った九条さんは口を結んだ。あまり晴れないその表情に気付き、顔を覗き込む。
「……自分の無力さに呆れていました。麗香が間に合ったからよかったものの、あのまま何も出来ずあなたを失うかと。今まで祓えないことなど、そんなに気にかけていませんでしたが、今日初めて、自分に祓う能力があればと思いました」
九条さんの口から出てきた信じられない弱音に、私は驚き言った。
「そんなこと言わないでください。私だって、ただ視えるだけの能力で、今までずっと悩んできたんです。こんな力何も役に立たないって。でも、祓えなくても価値はあるんだって教えてくれたのは九条さんじゃないですか。
それに麗香さんだって、影山さんの存在がいたら除霊できていなかったんですよ。だから、九条さんのおかげなんです。それにたどり着く資料を見つけてくれた伊藤さんも。
私の命はみんなの力で助けられたんです」
嘘偽りのない言葉をぶつけた。
相手が強すぎた、誰か一人欠けてもダメだったのだ。
するとゆっくり九条さんがこちらを見る。目が合った途端、全身の血流が速まった気がした。不思議な目の色で、私を見ている。こちらをとらえて離さない、そんな強い目だ。
「あなたに何かあったらと思うと、生きた心地がしませんでした」
どこか力無く言われたそのセリフに、愚かにも私の恋心は騒ぎ出す。
なんて顔で、なんてことを言うんだ。無自覚なのがまた厄介な人。深い意味なんてないって分かっていても、これじゃあ私が辛いだけ。
私は顔をそらす。なんとか九条さんの視線から逃れたかったからだ。そして、ずっと溜め込んできた不満をついにぶつけた。
「あ、ありがとうございます! でもですね九条さん。あの、言うタイミングといいますか、色々考えてくださいね!」
「タイミング?」
「だけじゃなくて、言い方とか内容とかとにかく全部!
九条さんは深い意味なんてないって分かってますし、無自覚でそういうことを言うのは前からだって知ってます。
でも、振った相手にそういうこと言うのはよくないんですよ、せっかく諦めようって頑張ってるのに、また心が引っ張られるというか」
何を言っているんだ自分は。恥ずかしくて滑稽な不満を言ってしまっている。
でも指摘しないとこれからもずっと続くんだもん、勘弁してほしい。諦めて新しい恋を見つけにいく自分の妨げになってしまうんだから。
「ですから、こう、そうだ、せめて二人の時はそういうこと言わないでおきましょう! そうすればまだ大丈夫だと思います。まあ調査中二人のことが多いんですけど、私が早く諦めるにはそこは気をつけてもら」
「諦めちゃうんですか?」
予想外の言葉が返ってきたので、勢いよく横を見た。てっきり、『はあ、すみません気をつけます』なんて気の抜けた返事が返ってくると思っていたのだ。
九条さんは真剣な顔で私を見ていた。冗談でもなく、本気で尋ねているようだった。
(……何、言ってるの)
自分が何を言ってるか分かっているの?
人をバッサリ振ったのはどこの誰だ、忘れたとは言わせない。
一気に怒りが込み上げてきて、私は声を大きくさせた。
「諦めろって言ったのそっちでしょうが! そりゃ可能性ないなら他の恋愛探しますよ、叶わないけど一生一途、なんてどっかの恋愛小説じゃあるまいし、私は」
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