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憧れの人
コーヒーが飲めない人間
しおりを挟むひたすら画像を見続けるという作業は、簡単なようで脳を疲労させる。
しかも、似たような画像ばかり。夢で見たものと照らし合わせていく工程は、うんざりしてしまう。判断力も鈍ってくるのか、進めば進むほど時間がかかるような気がする。
これかも! と思いよくよく見たら違った。そんなことを繰り返しているのだ。目も疲労感が凄い。
影山さんと共にそんなことを一時間以上行っていた頃だ、まず伊藤さんが覚醒した。ソファからむくりと起き上がり、少し赤い目で私たちを見た。
「おはようございます。光ちゃん大丈夫?」
「おはようございます伊藤さん。大丈夫ですよ」
「ほんとに? 変な夢とか見てない?」
ドキッとする。夢は見てない、ただ変なシーンは盗み聞きしてしまった。いけない、あれは忘れるんだ。蘇ってしまいそうになった会話を必死に掻き消す。
「何も見てないです」
「そっか。ならいいや。んー朝食の準備でもしようか」
大きく伸びをしながら言う。私は再度画像を見つめながら必死に脳内の映像と照らし合わせていく。
それに気づいた伊藤さんは立ち上がりながら言う。
「結構選別してみたよ。その中にあるといいんだけど、流石にまだ全部はまとめ切れてないんだよね。朝食軽く食べたら僕もまた戻るから」
「ありがとうございます、助かります」
「その様子じゃまだ見つかってないよねえ? 田舎風の踏切かあ。数も多いからなあ」
ブツブツ言いながら彼は仮眠室へ入っていく。しばらくしてコーヒーとパンのいい香りがしてきた。それを嗅ぐだけで脳みそがスッキリする気がする。ああでも、また食べさせてもらわなきゃいけないんだけどね。
匂いに釣られたのだろうか、九条さんも目を覚ました。彼はのそりと起き上がり、乱れた髪のまま私の方を向く。
「光さん大丈夫ですか」
(同じ質問してる……)
ついふふっと笑ってしまった。心配してくれるその様子が嬉しいのだ。
「はい、変な夢も見てません。今踏切を見ています」
「それはよかったです。その踏切から何かわかることを祈って、今は細かい作業ですがこなしていくしかありませんね。そういえば今しがたパンダが事務所内にいたと思うのですが」
「九条さん、起きてるんですか寝ぼけてるんですか。両方とか器用なことしますね」
なぜか隣にいた影山さんが笑う。九条さんは半目でじっと私たちの方を見ている。頭をポリポリと掻いた後、ゆっくり立ち上がった。コーヒーの香りに気付き、伊藤さんに声をかける。
「伊藤さん、私にもコーヒーをください」
「!?」
驚きで反応したのは私と伊藤さんだ。だって、九条さんはコーヒーが飲めない。苦味だとか辛味があるものを苦手としているのだ。
伊藤さんも顔だけ出してきて反応した。
「ええ、九条さんコーヒー飲めるんですか!?」
「少し頭を冴えさせないと。少量でいいのでお願いします」
彼はそう言って両手で頬を軽く叩いた。自分を起こしているようだ。そしてすぐさま私たちのそばに近寄り、後ろからパソコンを覗き込んだ。
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