上 下
360 / 448
憧れの人

コーヒーが飲めない人間

しおりを挟む



 
 ひたすら画像を見続けるという作業は、簡単なようで脳を疲労させる。

 しかも、似たような画像ばかり。夢で見たものと照らし合わせていく工程は、うんざりしてしまう。判断力も鈍ってくるのか、進めば進むほど時間がかかるような気がする。

 これかも! と思いよくよく見たら違った。そんなことを繰り返しているのだ。目も疲労感が凄い。

 影山さんと共にそんなことを一時間以上行っていた頃だ、まず伊藤さんが覚醒した。ソファからむくりと起き上がり、少し赤い目で私たちを見た。

「おはようございます。光ちゃん大丈夫?」

「おはようございます伊藤さん。大丈夫ですよ」

「ほんとに? 変な夢とか見てない?」

 ドキッとする。夢は見てない、ただ変なシーンは盗み聞きしてしまった。いけない、あれは忘れるんだ。蘇ってしまいそうになった会話を必死に掻き消す。

「何も見てないです」

「そっか。ならいいや。んー朝食の準備でもしようか」

 大きく伸びをしながら言う。私は再度画像を見つめながら必死に脳内の映像と照らし合わせていく。

 それに気づいた伊藤さんは立ち上がりながら言う。

「結構選別してみたよ。その中にあるといいんだけど、流石にまだ全部はまとめ切れてないんだよね。朝食軽く食べたら僕もまた戻るから」

「ありがとうございます、助かります」

「その様子じゃまだ見つかってないよねえ? 田舎風の踏切かあ。数も多いからなあ」

 ブツブツ言いながら彼は仮眠室へ入っていく。しばらくしてコーヒーとパンのいい香りがしてきた。それを嗅ぐだけで脳みそがスッキリする気がする。ああでも、また食べさせてもらわなきゃいけないんだけどね。

 匂いに釣られたのだろうか、九条さんも目を覚ました。彼はのそりと起き上がり、乱れた髪のまま私の方を向く。

「光さん大丈夫ですか」

(同じ質問してる……)

 ついふふっと笑ってしまった。心配してくれるその様子が嬉しいのだ。

「はい、変な夢も見てません。今踏切を見ています」

「それはよかったです。その踏切から何かわかることを祈って、今は細かい作業ですがこなしていくしかありませんね。そういえば今しがたパンダが事務所内にいたと思うのですが」

「九条さん、起きてるんですか寝ぼけてるんですか。両方とか器用なことしますね」

 なぜか隣にいた影山さんが笑う。九条さんは半目でじっと私たちの方を見ている。頭をポリポリと掻いた後、ゆっくり立ち上がった。コーヒーの香りに気付き、伊藤さんに声をかける。

「伊藤さん、私にもコーヒーをください」

「!?」

 驚きで反応したのは私と伊藤さんだ。だって、九条さんはコーヒーが飲めない。苦味だとか辛味があるものを苦手としているのだ。

 伊藤さんも顔だけ出してきて反応した。

「ええ、九条さんコーヒー飲めるんですか!?」

「少し頭を冴えさせないと。少量でいいのでお願いします」

 彼はそう言って両手で頬を軽く叩いた。自分を起こしているようだ。そしてすぐさま私たちのそばに近寄り、後ろからパソコンを覗き込んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。