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憧れの人

朝が来る

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 翌朝。

 私は起き上がり簡単に身支度を整えた。あの後も、時間はかかったがなんとか眠ることはできた。多分変な夢を見たんだろう。

 あの夢のことを九条さんたちには言わなくてもいいかな、と思っている。お守りたちがあるので入られた可能性は低いと思うし、実害も特にない。変な心配をかけるだけだ。

 朝の着替えも済ませてカーテンを開けると、ソファに寝転がっている伊藤さんと、ポッキーを齧っている九条さんの姿が目に入った。

 私に気づき、九条さんが顔を上げる。

「おはようございます、眠れましたか」

「ええと、なんとか」

「朝食も食べましょう。ポッキー……はいりませんよね」

「はい、私は普通の食事にします。冷凍のおにぎりかな。九条さんたちは遅くまで調べ物をしててくれたんですよね、ありがとうございます」

「残念ながら、新しい情報は何も出てきていません。まあ、今日無事に除霊されればそれで終われるので必要ないかもしれませんがね。あの影山さんなら大丈夫でしょう」

 九条さんがキッパリと言い切ったことで安心感が増す。そうだよね、麗香さんよりさらにベテランの人って聞けば、その力は納得できるものだ。

「少ししたら影山さんが迎えにくるはずです。そこで移動して除霊開始です」

「はい」

「光さん、見せてください」

 そう言った九条さんは突然立ち上がり、私に歩み寄った。急のことに驚きで止まる。彼は真っ直ぐ私の前に立つと、手を伸ばして私の髪を払った。どきりと胸が鳴る。

「首に異変はありませんね」

 じっと見つめているのは私の首だ。首を絞めて自殺するという怪異なので、それを確認しているのだ。私は戸惑いを隠すように横を向く。

「は、はい。大丈夫です」

 そんな私の様子に気がついたのか、九条さんは少し困ったように視線を外した。すぐに離れ、例の命の源とも言えるお菓子を手に取り齧る。

 話題を変えるように尋ねた。

「麗香さんは大丈夫なんでしょうか?」

「ええ、霊はあなたに移ったようですし、容体が悪化することはないと思います。あとは意識が戻ればいいのですがね」

「麗香さんは生命力強そうだし、大丈夫ですよね」

「それ、なんだか分かります」

 九条さんがふっと笑う。私も釣られて笑った。二人で静かな朝を過ごしていると、少し掠れた伊藤さんの声が響き渡った。

「うーん! おはようございます~光ちゃん大丈夫?」

 ソファから体を起こした伊藤さんは、挨拶と同時にすぐに私に声をかけた。いつも身だしなみはしっかりしている彼が、前髪を少し跳ねさせている。それが珍しくて面白くて、私はつい微笑んだ。

「おはようございます。大丈夫です、ありがとうございます」

「そっかよかった。影山さんから送られてきたもの効いてたんだろうね~ふああ。僕も歯磨きしなきゃ」

「伊藤さん前髪跳ねてますよ、九条さんみたい」

「うそ、直るかなあ」

 ブツブツ言いながら髪を撫でる伊藤さんが微笑ましくて眺める。朝から癒しチャージしてしまった。今日の除霊前に、いい感じに肩の力が抜けたな。

「私朝ごはん準備しますね!」

「あ、僕やるよ光ちゃん!」

「いいんです、動いていた方が余計なこと考えなくて済むので。怪我だって小さいからこれくらい大丈夫ですよ」

 私は笑いかけて裏へ入る。準備って言っても、ほとんどレンチンだしね。大したことはしないのだ。

 三人分の軽い朝食を並べている時だ。事務所の扉をノックする音がした。昨日のこともあったのでどきりと胸がなる。
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