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憧れの人

笑う

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 無言で足を下ろす。未だ聞こえてくる声の方に向かって、ゆっくりと進んでいった。白いカーテンの隙間から光が漏れている。そうっとそれに手を伸ばした。

 思い切りカーテンを開ける。見えたのは明るい事務所。ついていないテレビの前に座る二人。

 九条さんと伊藤さんがソファに腰掛けて、笑い続けていた。目を細めることなくしっかり開いたまま。何も面白そうなことは見当たらず、私はその場で小さく声をかけた。

「どうしましたか……?」

 そういった途端、ピタリと笑い声が止まる。そして、同時に首を回して二人が私を見たのだ。

 今度は笑顔も何もない、無表情。冷たい視線に足が震える。九条さんも伊藤さんも、何も発してくれない。

 違う、違う。九条さんたちじゃない。

 それでも目が離せない。囚われたように、二人から目が離せない。無音の部屋で、金縛りにあったように私は動けない。あなたたちは誰、二人はどこに行ったの。

 それ以上、私を見るな。





 はっと開眼した。

 薄暗い天井に、イヤホンが片方だけ外れている。音楽はもう流れていなかった。

 眼球を動かしながら辺りを見回してみるも、変なとこは何もない。

 夢?

 入られた?

 でも、お守りは持ってるし事務所も塩で守ってるはず。だから今入られるわけがないと思うのだが。

 イヤホンを適当に放り投げて足を下ろす。光が漏れる白いカーテンに近づき、そっと耳を澄ませた。

「……じゃないですか。うーん、芸能人相手ってやっぱり無謀ですねえ」

「調べるにしてもどこから手をつけたらいいのかですね」

「そもそも情報が少なすぎるんですよ! 変な自殺方法だけど、まだ世間には全然出てきてないですし」

 二人の会話が耳に入ってくる。ほっと胸を撫で下ろした。いつもの二人だ、ちゃんと会話している。

 さっきのあれはなんだったんだろう。

 一度二人の顔を見たいと思ったが、声を聞いただけで安心したので再びベッドに戻った。私のために調べ物をしてくれてるみたいだし、今話したら眠れなくなりそう。

 夢だ。あれは夢だったんだ。自然と恐怖心が出てきてしまったんだろう。

 私はそう言い聞かせて寝転がった。目を閉じると、無表情でこちらを見てくる二人の顔が浮かんで仕方がなかった。



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