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憧れの人

ノックの音

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「あまり時間がないっていうのに……依頼してきたなら、情報開示くらいすぐできるようにしといてほしいですよ警察も!」

 私はポケットの中から、影山さんからもらったお守りを取り出す。それを伊藤さんに見せて言った。

「これがあれば、しばらくは大丈夫みたいですから」

 彼はそれでも安心した顔をみせることなく、小さく頷いてパソコンを睨んだ。

「とりあえず情報が来るまで、横原くるみのことでも調べてみますか……相手が有名人っていうのは逆に調べにくいんですけどねえ、色々公にならないし」

 ブツブツ言いながら操作する伊藤さんを置いて、九条さんが私をみた。

「光さん、わかってると思いますが、帰宅禁止、銭湯も禁止です」

「はい」

「どこか買い物など行きたい時も必ず私に声を掛けてください」

「はい、今回ばかりは私も一人になりたくないのでわかってます」

「それと、いつかの人形の時と同じですが、あなたはとにかく隙を見せないように心がけてください。たくさん食べてたくさん寝る。体力も温存してくださいね」
 
 念を押すように言われ頷いた。そうだ、入られたりしたら命まで危ないかもしれない。不安もあるけど、とにかく深く考えずに楽しいことでも考えなきゃ。

 楽しいこと……。失恋したばっかの自分にはこれまた辛い課題だ。唯一楽しかったランチも麗香さんを思い出してしまうしなあ。困ったもの。

 私がどうしようか考えていると、九条さんは自ら伊藤さんの調べ物を手伝い出してしまった。私も手伝いたいけど、多分まだ情報も少ないからやれることはないだろう。それに多分、働くより体力温存を……とか言われる気がする。

 とりあえずソファに腰掛けた。ぼうっとしてたら考え事してしまいそう、最近気づいたけど私は考え事をするのが趣味らしい。気がつけば何かしら思っているので気をつけねば。

 そうだと思い出し、ポケットからスマホを取り出した。なんて残念なのだろう、もう使い物にならないほどバキバキに画面が割れてしまっている。これじゃあネットもできそうにない。

 ため息をついて再びしまう。もうテレビでも見るしかないと思い、こっそり付けてみた。音量をなるべく下げて、さまざまなチャンネルを変えてみる。明るいものがいい、バラエティとか。

 生憎時間的にもニュースなどが多い頃だった。今日見たばかりの『フラれた男に逆恨みして刺した女性』は無事逮捕されたらしい。犯人の写真をみると、意外と美人でびっくりした。相手に困らなそうなのに、ヤンデレだったのかな。

 同じように見た死刑囚が死刑執行前に病死したこともまたやっていた。遺族の人はたまったもんじゃないだろうなあ、と悲しく思う。まあ、こんなのどんな形の死でもスッキリすることはないよね。

 そして横原くるみの舞台降板もまたしてもやっている。なるべく事件のことは考えず、伊藤さんに言われたこの女優に少し似てるという言葉だけ思い出した。自分ではやはり全く分からない、髪型ぐらいしか似てるところはないぞ。

(……って、一人で会話してるのも寂しい……)

 がっくりと頭を下げた。こんなことでしか気を紛らわせることができない。いっそ掃除でもし始めようか?

 困り果てていると、突然事務所にノックの音が響き渡った。はっと顔を上げる。九条さんと伊藤さんも同時に扉の方を見た。


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