331 / 448
憧れの人
ノックの音
しおりを挟む
「あまり時間がないっていうのに……依頼してきたなら、情報開示くらいすぐできるようにしといてほしいですよ警察も!」
私はポケットの中から、影山さんからもらったお守りを取り出す。それを伊藤さんに見せて言った。
「これがあれば、しばらくは大丈夫みたいですから」
彼はそれでも安心した顔をみせることなく、小さく頷いてパソコンを睨んだ。
「とりあえず情報が来るまで、横原くるみのことでも調べてみますか……相手が有名人っていうのは逆に調べにくいんですけどねえ、色々公にならないし」
ブツブツ言いながら操作する伊藤さんを置いて、九条さんが私をみた。
「光さん、わかってると思いますが、帰宅禁止、銭湯も禁止です」
「はい」
「どこか買い物など行きたい時も必ず私に声を掛けてください」
「はい、今回ばかりは私も一人になりたくないのでわかってます」
「それと、いつかの人形の時と同じですが、あなたはとにかく隙を見せないように心がけてください。たくさん食べてたくさん寝る。体力も温存してくださいね」
念を押すように言われ頷いた。そうだ、入られたりしたら命まで危ないかもしれない。不安もあるけど、とにかく深く考えずに楽しいことでも考えなきゃ。
楽しいこと……。失恋したばっかの自分にはこれまた辛い課題だ。唯一楽しかったランチも麗香さんを思い出してしまうしなあ。困ったもの。
私がどうしようか考えていると、九条さんは自ら伊藤さんの調べ物を手伝い出してしまった。私も手伝いたいけど、多分まだ情報も少ないからやれることはないだろう。それに多分、働くより体力温存を……とか言われる気がする。
とりあえずソファに腰掛けた。ぼうっとしてたら考え事してしまいそう、最近気づいたけど私は考え事をするのが趣味らしい。気がつけば何かしら思っているので気をつけねば。
そうだと思い出し、ポケットからスマホを取り出した。なんて残念なのだろう、もう使い物にならないほどバキバキに画面が割れてしまっている。これじゃあネットもできそうにない。
ため息をついて再びしまう。もうテレビでも見るしかないと思い、こっそり付けてみた。音量をなるべく下げて、さまざまなチャンネルを変えてみる。明るいものがいい、バラエティとか。
生憎時間的にもニュースなどが多い頃だった。今日見たばかりの『フラれた男に逆恨みして刺した女性』は無事逮捕されたらしい。犯人の写真をみると、意外と美人でびっくりした。相手に困らなそうなのに、ヤンデレだったのかな。
同じように見た死刑囚が死刑執行前に病死したこともまたやっていた。遺族の人はたまったもんじゃないだろうなあ、と悲しく思う。まあ、こんなのどんな形の死でもスッキリすることはないよね。
そして横原くるみの舞台降板もまたしてもやっている。なるべく事件のことは考えず、伊藤さんに言われたこの女優に少し似てるという言葉だけ思い出した。自分ではやはり全く分からない、髪型ぐらいしか似てるところはないぞ。
(……って、一人で会話してるのも寂しい……)
がっくりと頭を下げた。こんなことでしか気を紛らわせることができない。いっそ掃除でもし始めようか?
困り果てていると、突然事務所にノックの音が響き渡った。はっと顔を上げる。九条さんと伊藤さんも同時に扉の方を見た。
私はポケットの中から、影山さんからもらったお守りを取り出す。それを伊藤さんに見せて言った。
「これがあれば、しばらくは大丈夫みたいですから」
彼はそれでも安心した顔をみせることなく、小さく頷いてパソコンを睨んだ。
「とりあえず情報が来るまで、横原くるみのことでも調べてみますか……相手が有名人っていうのは逆に調べにくいんですけどねえ、色々公にならないし」
ブツブツ言いながら操作する伊藤さんを置いて、九条さんが私をみた。
「光さん、わかってると思いますが、帰宅禁止、銭湯も禁止です」
「はい」
「どこか買い物など行きたい時も必ず私に声を掛けてください」
「はい、今回ばかりは私も一人になりたくないのでわかってます」
「それと、いつかの人形の時と同じですが、あなたはとにかく隙を見せないように心がけてください。たくさん食べてたくさん寝る。体力も温存してくださいね」
念を押すように言われ頷いた。そうだ、入られたりしたら命まで危ないかもしれない。不安もあるけど、とにかく深く考えずに楽しいことでも考えなきゃ。
楽しいこと……。失恋したばっかの自分にはこれまた辛い課題だ。唯一楽しかったランチも麗香さんを思い出してしまうしなあ。困ったもの。
私がどうしようか考えていると、九条さんは自ら伊藤さんの調べ物を手伝い出してしまった。私も手伝いたいけど、多分まだ情報も少ないからやれることはないだろう。それに多分、働くより体力温存を……とか言われる気がする。
とりあえずソファに腰掛けた。ぼうっとしてたら考え事してしまいそう、最近気づいたけど私は考え事をするのが趣味らしい。気がつけば何かしら思っているので気をつけねば。
そうだと思い出し、ポケットからスマホを取り出した。なんて残念なのだろう、もう使い物にならないほどバキバキに画面が割れてしまっている。これじゃあネットもできそうにない。
ため息をついて再びしまう。もうテレビでも見るしかないと思い、こっそり付けてみた。音量をなるべく下げて、さまざまなチャンネルを変えてみる。明るいものがいい、バラエティとか。
生憎時間的にもニュースなどが多い頃だった。今日見たばかりの『フラれた男に逆恨みして刺した女性』は無事逮捕されたらしい。犯人の写真をみると、意外と美人でびっくりした。相手に困らなそうなのに、ヤンデレだったのかな。
同じように見た死刑囚が死刑執行前に病死したこともまたやっていた。遺族の人はたまったもんじゃないだろうなあ、と悲しく思う。まあ、こんなのどんな形の死でもスッキリすることはないよね。
そして横原くるみの舞台降板もまたしてもやっている。なるべく事件のことは考えず、伊藤さんに言われたこの女優に少し似てるという言葉だけ思い出した。自分ではやはり全く分からない、髪型ぐらいしか似てるところはないぞ。
(……って、一人で会話してるのも寂しい……)
がっくりと頭を下げた。こんなことでしか気を紛らわせることができない。いっそ掃除でもし始めようか?
困り果てていると、突然事務所にノックの音が響き渡った。はっと顔を上げる。九条さんと伊藤さんも同時に扉の方を見た。
17
お気に入りに追加
531
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。