327 / 448
憧れの人
これが目的
しおりを挟む
九条さんの質問に、影山さんが顔を上げる。その表情を見てどきりとした。
言葉に言い表せられない顔だった。苦しそうな、それでいて決意したような。
九条さんも影山さんの様子に疑問を感じたのか、眉を顰める。
「影山さん?」
「結界は、張っていないんです。いえ正しくは、あなた方が来るまでは張っていた」
突然、予想だにしていない言葉が耳に入ってきて止まった。私たち二人は、ただ目の前の影山さんを見つめるしかない。
彼は九条さんではなく私を見た。真っ直ぐに。
「黒島さん。申し訳ない」
「……え?」
「今回の依頼の共通点。
若い女性であることと、その前に憑かれた者と知り合いであること。
『踏切の音を聞く』という体験をしている者です」
「なん……ですって?」
声を出したのは九条さんの方だった。私は唖然として動くこともできない。
二十代の女……そして、憑かれた人と知り合い……踏切の音を聞く……?
それってつまり、
私が憑かれてしまったということ??
混乱する私の横で、大きな声を上げたのは九条さんだ。
「なぜ結界を張らなかったのです! あなたの力があれば、一時的にでも近寄らせないようにできたはず。いや、そもそも、条件に合う彼女を連れてこいだなんて無謀にも程があります!」
珍しく焦って言う九条さんに対して、影山さんは落ち着いていた。目を逸らすことなく、静かな声で答える。
「麗香に憑いたままだったら、彼女はどんどん生命の危機に脅かされる。
麗香がこんな姿になってしまった相手の除霊を、こんな病室でしろと言うのですか。病で戦う病人たちがいる環境で? 普通の除霊とはワケが違うんです。一体どんな弊害が出るか分かりません」
影山さんのゆっくりとした話を聞いて、ようやく悟る。多分九条さんも同じように察したのだろう、言葉を失い絶句した。
つまり、この人は……
わざと私に憑かせようとしたのだ。
あえて結界を張らず、条件に合う私を呼び、麗香さんの近くにいかせた。麗香さんに憑いてる何かを、彼女から引き離すために。
突如隣の九条さんが立ち上がり、テーブルに乗り出した。そして、向かいに座る影山さんの胸ぐらを強く掴み声を荒げた。
「そうと分かっていれば、彼女をここに連れてきたりしなかった!!」
それでも影山さんは全く動じなかった。眉間に深くシワを寄せて、しっかり九条さんを見つめ返す。
「自分でも最低な選択をしたと思っています。それでも、それしか思いつかなかった。事情を話せばきっとここには来てもらえない。そう思ったから、全て伏せてお呼びしました」
そうか、そういうことなのか。私は真っ白な頭の中で冷静に納得した。
麗香さんの身の回りの買い物なんかじゃなくて、それが目的だったのだ。そしてまんまと、私は憑かれてしまった。
私は小さな声で隣の九条さんに言う。
「九条さん……落ち着いてください」
「しかし」
「私は大丈夫です」
言葉に言い表せられない顔だった。苦しそうな、それでいて決意したような。
九条さんも影山さんの様子に疑問を感じたのか、眉を顰める。
「影山さん?」
「結界は、張っていないんです。いえ正しくは、あなた方が来るまでは張っていた」
突然、予想だにしていない言葉が耳に入ってきて止まった。私たち二人は、ただ目の前の影山さんを見つめるしかない。
彼は九条さんではなく私を見た。真っ直ぐに。
「黒島さん。申し訳ない」
「……え?」
「今回の依頼の共通点。
若い女性であることと、その前に憑かれた者と知り合いであること。
『踏切の音を聞く』という体験をしている者です」
「なん……ですって?」
声を出したのは九条さんの方だった。私は唖然として動くこともできない。
二十代の女……そして、憑かれた人と知り合い……踏切の音を聞く……?
それってつまり、
私が憑かれてしまったということ??
混乱する私の横で、大きな声を上げたのは九条さんだ。
「なぜ結界を張らなかったのです! あなたの力があれば、一時的にでも近寄らせないようにできたはず。いや、そもそも、条件に合う彼女を連れてこいだなんて無謀にも程があります!」
珍しく焦って言う九条さんに対して、影山さんは落ち着いていた。目を逸らすことなく、静かな声で答える。
「麗香に憑いたままだったら、彼女はどんどん生命の危機に脅かされる。
麗香がこんな姿になってしまった相手の除霊を、こんな病室でしろと言うのですか。病で戦う病人たちがいる環境で? 普通の除霊とはワケが違うんです。一体どんな弊害が出るか分かりません」
影山さんのゆっくりとした話を聞いて、ようやく悟る。多分九条さんも同じように察したのだろう、言葉を失い絶句した。
つまり、この人は……
わざと私に憑かせようとしたのだ。
あえて結界を張らず、条件に合う私を呼び、麗香さんの近くにいかせた。麗香さんに憑いてる何かを、彼女から引き離すために。
突如隣の九条さんが立ち上がり、テーブルに乗り出した。そして、向かいに座る影山さんの胸ぐらを強く掴み声を荒げた。
「そうと分かっていれば、彼女をここに連れてきたりしなかった!!」
それでも影山さんは全く動じなかった。眉間に深くシワを寄せて、しっかり九条さんを見つめ返す。
「自分でも最低な選択をしたと思っています。それでも、それしか思いつかなかった。事情を話せばきっとここには来てもらえない。そう思ったから、全て伏せてお呼びしました」
そうか、そういうことなのか。私は真っ白な頭の中で冷静に納得した。
麗香さんの身の回りの買い物なんかじゃなくて、それが目的だったのだ。そしてまんまと、私は憑かれてしまった。
私は小さな声で隣の九条さんに言う。
「九条さん……落ち着いてください」
「しかし」
「私は大丈夫です」
27
お気に入りに追加
532
あなたにおすすめの小説
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
【意味怖】意味が解ると怖い話【いみこわ】
灰色猫
ホラー
意味が解ると怖い話の短編集です!
1話完結、解説付きになります☆
ちょっとしたスリル・3分間の頭の体操
気分のリラックスにいかがでしょうか。
皆様からの応援・コメント
皆様からのフォロー
皆様のおかげでモチベーションが保てております。
いつも本当にありがとうございます!
※小説家になろう様
※アルファポリス様
※カクヨム様
※ノベルアッププラス様
にて更新しておりますが、内容は変わりません。
【死に文字】42文字の怖い話 【ゆる怖】
も連載始めました。ゆるーくささっと読めて意外と面白い、ゆる怖作品です。
ニコ動、YouTubeで試験的に動画を作ってみました。見てやってもいいよ、と言う方は
「灰色猫 意味怖」
を動画サイト内でご検索頂ければ出てきます。
これ友達から聞いた話なんだけど──
家紋武範
ホラー
オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。
読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。
(*^^*)
タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。
とほかみゑみため〜急に神様が見えるようになったので、神主、始めました。
白遠
ホラー
とほかみゑみため………神道において最も重要とされる唱え言葉の一つ。祝詞。漢字表記は当て字である。
代々神主の家柄の榊 伊邇(さかき いちか)は中学2年生。正月明けに育ての親である祖父を亡くした。
伊邇には両親はなく、霊能力者の姉が一人いるだけだが、姉もまた原因不明で意識を無くして病院に入院したきりだった。一人きりになった伊邇の前に、ある日突然祀っている神社の氏神様と眷属の白狐が現れ、伊邇の生活は一変する。実は伊邇もまた、神やその眷属を見ることができる霊能力者だった。
白狐の指導により、お祓いを主とした神主業を始めた伊邇だったが、ひょんなことから転校生である佐原 咲耶(さはら さくや)と生活を共にすることになる。佐原にもまた、霊感があり、生活の中でいわゆる幽霊に悩まされていた。
神主として経験を積むイチカと、サハラとの微妙な同棲生活の中で、眠り続ける姉の秘密が明らかになっていく。
※R15指定は残酷描写のためではありません。性的行為を想起させる表現がございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。