297 / 448
待ち合わせ
到着
しおりを挟む
いやもう成人している人にちゃん呼びはおかしい、真琴さんだ。不安げにやってきたその女性は、ボブの髪型をして色の白い可愛らしい人だった。真琴さんの隣には同じくらいの年と思われる男性がいた。伊藤さんが私たちにこっそり、『真琴さんの旦那さんです』と説明してくれる。
旦那さんは訝しげに私たちを見ていたので、おそらく真琴さんが心配でついてきたのだとわかった。そしてさらに、ワンピースを着ているが真琴さんの腹部がややふっくらしていることにも気づく。妊娠しているのだ。
旦那さんは厳しい表情で私たちに言った。
「初めまして、真琴の夫です、奥田と言います。妻の付き添いで来ました」
九条さんがすぐに一歩前に出る。
「初めまして九条尚久といいます。今回は突然のお願い、しかも信じ難い内容のお話ですみません。それでも来てくださったことに感謝しています」
「初めに言っておきますが、私はあまり信用していません。でも真琴は行ってみたいと聞かないので私も同席しました」
「ええ、そうでしょう。伊藤から話は聞いていると思います、信じられない話ですが真琴さんのお母様がここに残られているので、それをなんとかしたくてお呼びしました。真琴さんに金銭が絡むことは一切ありませんし、これが解決すればあなた方にもう接触はしません。詐欺や宗教を疑っているでしょうが全く無関係だと言うことは伝えておきます」
先にキッパリ断言した九条さんに、奥田さんは複雑そうな顔をした。隣にいる真琴さんが私たちに言う。
「すみません、夫には止められたんです。でも私、時々夢をみることがあるんです。お母さんが私を必死に探して名前を呼んでる夢です。返事して、ここにいるよって言っても聞こえないみたいで……それがずっと気になってて、今回来ました」
「真琴、あんまり話すな」
奥田さんはやんわり止める。仕方ない、むしろよくここまで来てくれたものだ。普通なら絶対お断りだもんな。どこの頭おかしい団体かと疑われる。
九条さんは頷いて言う。
「明穂さんの出現場所はエレベーターやエントランスが多いです、おそらく人通りが多いので真琴さんを探すのに適してると感じているんでしょう。そちらに向かいます、すぐに会えるとは限らないので時間がかかるかも、とりあえず一緒に来ていただけますか」
「え、そんな人通りが多いところに行くんですか?」
奥田さんが目を丸くして驚く。部屋の中で怪しい儀式などをする光景を想像していたのかもしれない。
「はい、マンションの住民には怪しまれるかもしれませんがね。まあ仕方ないです。伊藤さんはお守りを置いて行ってくれますか」
ケロリとそう言った九条さんはそのままさっさと玄関に向かっていってしまった。私は慌ててブランケットとホッカイロを準備し、真琴さんにこそっと話しかける。
「あの、もしかしてなんですが、お腹に……」
「え、は、はい」
「寒いのは良くないですよね、これ使ってくださいね」
「ありがとうございます!」
にっこり笑う真琴さんは可愛らしい女性でホッとした。そしてその目元は、明穂さんによく似ていると思った。
十三年も時が経っているから、明穂さんもはじめは真琴さんだと気づかないかもしれない。でもきっと、伝わるはずだ。
奥田さんが真琴さんを守るようにピタリと隣についている。その警戒心の強さがむしろ微笑ましくて私は見守った。玄関で靴を履いている二人を見つめていると、伊藤さんが隣に寄ってきて耳打ちした。
「いやーなんとかきてくれてよかったよ」
「さすがです、伊藤さんならきっとって思いましたけど、やっぱりコミュニケーションの鬼ですね」
「鬼って! 今回は原さんもすごくうまく協力してくれたよ。ここに住んでるっていう身分証は結構効き目大きかったし、それに……」
「それに?」
「……いや、光ちゃんもそのうち聞くかもね」
伊藤さんが意味深に振り返る。私も同じように後ろを向くと、聡美と何やら話している信也の姿があった。どこか安心したような、そんな表情に見えた。
大人数でエントランスに集まる。夕方は人々が帰宅してくる時刻ということもあり、時々住民と会った。当然のようにちょっと怪しまれている。ぱっと見は誰かの家に集まって鍋でもするのかと思うが、奥田さんたちの深刻そうな表情はその案を否定させる。
果たしてこんなに人も多い場所で明穂さんが来るのだろうか、と心配になってきた。いや、うちには伊藤さんという強い磁石がある。彼がいればどんな霊も引き寄せてくるはずだ。
とりあえずエントランスに集まった私たちは、どうしていいのかもわからず静まり返った。奥田さんは眉を顰めてしっかり真琴さんの腰を抱いている。なんとも気まずい空気だった。
旦那さんは訝しげに私たちを見ていたので、おそらく真琴さんが心配でついてきたのだとわかった。そしてさらに、ワンピースを着ているが真琴さんの腹部がややふっくらしていることにも気づく。妊娠しているのだ。
旦那さんは厳しい表情で私たちに言った。
「初めまして、真琴の夫です、奥田と言います。妻の付き添いで来ました」
九条さんがすぐに一歩前に出る。
「初めまして九条尚久といいます。今回は突然のお願い、しかも信じ難い内容のお話ですみません。それでも来てくださったことに感謝しています」
「初めに言っておきますが、私はあまり信用していません。でも真琴は行ってみたいと聞かないので私も同席しました」
「ええ、そうでしょう。伊藤から話は聞いていると思います、信じられない話ですが真琴さんのお母様がここに残られているので、それをなんとかしたくてお呼びしました。真琴さんに金銭が絡むことは一切ありませんし、これが解決すればあなた方にもう接触はしません。詐欺や宗教を疑っているでしょうが全く無関係だと言うことは伝えておきます」
先にキッパリ断言した九条さんに、奥田さんは複雑そうな顔をした。隣にいる真琴さんが私たちに言う。
「すみません、夫には止められたんです。でも私、時々夢をみることがあるんです。お母さんが私を必死に探して名前を呼んでる夢です。返事して、ここにいるよって言っても聞こえないみたいで……それがずっと気になってて、今回来ました」
「真琴、あんまり話すな」
奥田さんはやんわり止める。仕方ない、むしろよくここまで来てくれたものだ。普通なら絶対お断りだもんな。どこの頭おかしい団体かと疑われる。
九条さんは頷いて言う。
「明穂さんの出現場所はエレベーターやエントランスが多いです、おそらく人通りが多いので真琴さんを探すのに適してると感じているんでしょう。そちらに向かいます、すぐに会えるとは限らないので時間がかかるかも、とりあえず一緒に来ていただけますか」
「え、そんな人通りが多いところに行くんですか?」
奥田さんが目を丸くして驚く。部屋の中で怪しい儀式などをする光景を想像していたのかもしれない。
「はい、マンションの住民には怪しまれるかもしれませんがね。まあ仕方ないです。伊藤さんはお守りを置いて行ってくれますか」
ケロリとそう言った九条さんはそのままさっさと玄関に向かっていってしまった。私は慌ててブランケットとホッカイロを準備し、真琴さんにこそっと話しかける。
「あの、もしかしてなんですが、お腹に……」
「え、は、はい」
「寒いのは良くないですよね、これ使ってくださいね」
「ありがとうございます!」
にっこり笑う真琴さんは可愛らしい女性でホッとした。そしてその目元は、明穂さんによく似ていると思った。
十三年も時が経っているから、明穂さんもはじめは真琴さんだと気づかないかもしれない。でもきっと、伝わるはずだ。
奥田さんが真琴さんを守るようにピタリと隣についている。その警戒心の強さがむしろ微笑ましくて私は見守った。玄関で靴を履いている二人を見つめていると、伊藤さんが隣に寄ってきて耳打ちした。
「いやーなんとかきてくれてよかったよ」
「さすがです、伊藤さんならきっとって思いましたけど、やっぱりコミュニケーションの鬼ですね」
「鬼って! 今回は原さんもすごくうまく協力してくれたよ。ここに住んでるっていう身分証は結構効き目大きかったし、それに……」
「それに?」
「……いや、光ちゃんもそのうち聞くかもね」
伊藤さんが意味深に振り返る。私も同じように後ろを向くと、聡美と何やら話している信也の姿があった。どこか安心したような、そんな表情に見えた。
大人数でエントランスに集まる。夕方は人々が帰宅してくる時刻ということもあり、時々住民と会った。当然のようにちょっと怪しまれている。ぱっと見は誰かの家に集まって鍋でもするのかと思うが、奥田さんたちの深刻そうな表情はその案を否定させる。
果たしてこんなに人も多い場所で明穂さんが来るのだろうか、と心配になってきた。いや、うちには伊藤さんという強い磁石がある。彼がいればどんな霊も引き寄せてくるはずだ。
とりあえずエントランスに集まった私たちは、どうしていいのかもわからず静まり返った。奥田さんは眉を顰めてしっかり真琴さんの腰を抱いている。なんとも気まずい空気だった。
18
お気に入りに追加
531
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。