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待ち合わせ
役割分担
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意外すぎる提案に、九条さんと伊藤さんと顔を見合わせた。ずっと私たちの仕事に半信半疑だった信也が、本当に信じるようになったのは有難いことだ。
それに彼の言うことは一理ある。実際ここに住んでいるという証明はないよりあったほうがいい。私は頷いた。
「伊藤さん、いいかもしれません。信也は元々、人と距離を縮めるのが上手いタイプですよ」
職場でもみんなの中心的存在だった彼は、リーダーシップも取れるし人懐っこい。伊藤さんほどのレベルではないが、私よりもずっと適任だと思えた。
伊藤さんは少し考えた後、わかった、と返事をした。
「じゃあ原さんにもお願いします! とりあえず一旦、学校の教頭先生にもう一回会いに行って連絡先を入手するところからだけどいいですか?」
「付き合います」
「じゃ、僕と原さんはそっち係ってことで!」
二人はバタバタと支度を整え始める。残る三人はそれを眺めながら、もう一つの問題にぶつかっていた。
聡美が言う。
「で……子供の方は?」
それだ。そっちの方が困るんだ。頭を抱えずにはいられない。
まこと……じゃなかった、飛鳥ちゃんがこの世に留まっている理由は恐らく『恐怖』だ。母親との約束を破ったらまた暴力を振るわれるかもしれない、という恐怖が彼女を縛っている。無論、本物の母親なんかに会わせるわけにはいかない。もしかして、自分が死んだことにすら気づいていないのかも。
その恐怖を取り払ってあげなければ、きっと眠ることはできない。
私は九条さんを見上げた。
「九条さんが教えてあげるぐらいしか、できることはないんじゃないですか。もうあなたは死んでるから、親に虐められることもないし、眠っていいんだよって」
彼はゆっくり眉を顰める。
「やはりそうなりますね。会話は可能なようですし、もう一度話してみるぐらいしか思いつきません。が……」
「が?」
「虐待を受けていた子供の心とは、想像以上に脆く深刻です。子にとって親は絶対的な存在ですし、第三者が何を言っても囚われた心は、そう簡単に解放できるものではないと思うんです」
それはその通りだ、と思う。
心に受けた傷は計り知れない。あんな暴力を受けて恐怖に飼われてしまったあの子を、説得なんてできるんだろうか。どうにかして、もう怖いものはないんだと教えてあげたいんだけれど……。
九条さんは困ったように息を吐く。
「残念ながら私は伊藤さんのように子供に好かれるタイプでもありませんし」
「で、でも少し前の人形のときとか! 子供相手だったけどちゃんと聞いてくれてましたよ!」
「あの子は元々この世に未練などなかったようですからね。今回とはまるで違います」
ううん、以前は後ずさりされたこともあったもんなあ……九条さん能面だから怖いんだよきっと。無駄に顔綺麗だから人形みたいだし。
ちらりと聡美を見ると、どこか察したような顔で九条さんをみていた。顔には書いてある。『あーこれはね、子供には懐かれないタイプだね、わかる』。
私たちはそれからもずっと考え込んだが、他にいい案が見つかるわけもなく、やっぱり九条さんの説得にかかっているという不安な結論しか出なかった。
翌日の夕方。
私と九条さん、そして聡美はどう飛鳥ちゃんに話しかけようか考え、実行してみようと階段を行ったり来たりしたが、飛鳥ちゃんに会うことはなかった。もしかして伊藤さんが近くにいないとダメなんだろうか。
階段周辺をうろうろしすぎて今度こそ通報されるかもしれない、という恐怖心と戦いながら三人で動くも、悲しい気だけを感じ姿は見えない。これはやはり伊藤さんの存在が必要かもしれないと結論づけた。
そして仕方なく信也の部屋で待機していた。何を話すこともなく、みんなでポッキーを齧ったりしていただけだ。
そして日が赤くなってきた頃、驚くことに、伊藤さんと信也がある人を部屋に連れてきた。
もちろん、本物のまことちゃんだった。
それに彼の言うことは一理ある。実際ここに住んでいるという証明はないよりあったほうがいい。私は頷いた。
「伊藤さん、いいかもしれません。信也は元々、人と距離を縮めるのが上手いタイプですよ」
職場でもみんなの中心的存在だった彼は、リーダーシップも取れるし人懐っこい。伊藤さんほどのレベルではないが、私よりもずっと適任だと思えた。
伊藤さんは少し考えた後、わかった、と返事をした。
「じゃあ原さんにもお願いします! とりあえず一旦、学校の教頭先生にもう一回会いに行って連絡先を入手するところからだけどいいですか?」
「付き合います」
「じゃ、僕と原さんはそっち係ってことで!」
二人はバタバタと支度を整え始める。残る三人はそれを眺めながら、もう一つの問題にぶつかっていた。
聡美が言う。
「で……子供の方は?」
それだ。そっちの方が困るんだ。頭を抱えずにはいられない。
まこと……じゃなかった、飛鳥ちゃんがこの世に留まっている理由は恐らく『恐怖』だ。母親との約束を破ったらまた暴力を振るわれるかもしれない、という恐怖が彼女を縛っている。無論、本物の母親なんかに会わせるわけにはいかない。もしかして、自分が死んだことにすら気づいていないのかも。
その恐怖を取り払ってあげなければ、きっと眠ることはできない。
私は九条さんを見上げた。
「九条さんが教えてあげるぐらいしか、できることはないんじゃないですか。もうあなたは死んでるから、親に虐められることもないし、眠っていいんだよって」
彼はゆっくり眉を顰める。
「やはりそうなりますね。会話は可能なようですし、もう一度話してみるぐらいしか思いつきません。が……」
「が?」
「虐待を受けていた子供の心とは、想像以上に脆く深刻です。子にとって親は絶対的な存在ですし、第三者が何を言っても囚われた心は、そう簡単に解放できるものではないと思うんです」
それはその通りだ、と思う。
心に受けた傷は計り知れない。あんな暴力を受けて恐怖に飼われてしまったあの子を、説得なんてできるんだろうか。どうにかして、もう怖いものはないんだと教えてあげたいんだけれど……。
九条さんは困ったように息を吐く。
「残念ながら私は伊藤さんのように子供に好かれるタイプでもありませんし」
「で、でも少し前の人形のときとか! 子供相手だったけどちゃんと聞いてくれてましたよ!」
「あの子は元々この世に未練などなかったようですからね。今回とはまるで違います」
ううん、以前は後ずさりされたこともあったもんなあ……九条さん能面だから怖いんだよきっと。無駄に顔綺麗だから人形みたいだし。
ちらりと聡美を見ると、どこか察したような顔で九条さんをみていた。顔には書いてある。『あーこれはね、子供には懐かれないタイプだね、わかる』。
私たちはそれからもずっと考え込んだが、他にいい案が見つかるわけもなく、やっぱり九条さんの説得にかかっているという不安な結論しか出なかった。
翌日の夕方。
私と九条さん、そして聡美はどう飛鳥ちゃんに話しかけようか考え、実行してみようと階段を行ったり来たりしたが、飛鳥ちゃんに会うことはなかった。もしかして伊藤さんが近くにいないとダメなんだろうか。
階段周辺をうろうろしすぎて今度こそ通報されるかもしれない、という恐怖心と戦いながら三人で動くも、悲しい気だけを感じ姿は見えない。これはやはり伊藤さんの存在が必要かもしれないと結論づけた。
そして仕方なく信也の部屋で待機していた。何を話すこともなく、みんなでポッキーを齧ったりしていただけだ。
そして日が赤くなってきた頃、驚くことに、伊藤さんと信也がある人を部屋に連れてきた。
もちろん、本物のまことちゃんだった。
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