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家族の一員
家族
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彼は腕を組んで考え込むように言う。
「しかし、麗香も言ってましたが小さな子供という点は間違いなさそうですね。あなたの入られ方を見てもやはり相当力が強いのは確かです」
「はい、初めての体験でした……」
「どうもしっくりきませんね。年月が長く経って力を増していく子供の霊は多くいますし珍しくもありません。しかし今回の場合人形は新しいのでそう長く宿っていたわけではないことになる。
何より、霊は恨みなどによって力が強くなるんです。でも麗香や寺の住職が言っていたようにこの人形には恨みなどが感じられない」
確かに、なぜだろう。私も首を傾げる。恨みも思い残しもないのにこの世に留まってるっていうのが、一番よくわからないポイントなんだなあ。
こちらには背を向けている赤い着物を三人で眺めた。今あの子は何を考えているんだろう。家族を欲しがっているのはなぜ?
しばらく沈黙が流れるも、誰も答えなんて分からない。九条さんがため息をついたところで、話題が変えられる。
「考えてもしょうがないですね、明日の上浦夫人からの話に期待しましょう」
「じゃあ僕はまた調べ物に戻ろうっと」
伊藤さんは再びパソコンの前に戻り操作し始める。静かな部屋にキーボードを打つ音だけが聞こえた。九条さんは私を見て言う。
「さて。あなたは奪われた体力をなんとか回復させたいところですね。眠れますか?」
「疲れたので眠いは眠いんですが、寝るの怖いというか」
「起きてても寝てても入られるんだから無理に起きている必要はないのでは。とはいえ確かにすぐには眠れないでしょうけどね。
さっきはなぜ心霊番組など見てたのですか、あなた結構怖がりなのに」
「ああ、ほら言ったじゃないですか、宝閣寺が以前心霊番組に出てたって。一応見たけどもう一回見てみたくて探してたんです。どんな人だったかなあって思って」
「なるほど。どうでしたか」
「厳かな人ですね、ザ・住職って感じ!」
「ザ・住職?」
九条さんが少しだけ笑う。その笑顔を見てふわりと心が温かくなった。無茶苦茶なやり方でもいつも入られてることに気付いてなんとかしようとしてくれる。調査中は頼りになるんだなほんと。
ときめいてしまった自分を誤魔化すように私は喋り続ける。
「あと言っている内容とかも、なるほどーって感じで」
「そうなんですか」
「なんだったかな、曰くのある人形は一つ一つとちゃんと向き合って尊重して、しっかり声を聞く。一人の人間として扱うのがすごく大事だって話してました。やっぱりいくつも人形を見てきた人の言う言葉には重みがあ」
「光さん」
突然私の言葉を遮るように九条さんが声を出す。そちらを見てみると、やけに目を丸くした彼が私を見ていた。その様子に面食らう。私変なこと何も言ってないはずだけど。
「な、なんですか?」
「それ法閣寺の住職が言っていたんですか? テレビ番組で?」
「そ、そうですよ。見ますか?」
九条さんが頷いたので部屋を見渡す。ソファの端っこでイヤホン付きで転がっているスマホがあった。取ろうとしたところを、九条さんが先に立ち上がり取ってきてくれる。画面をつけると、丁度住職さんの話で止まっているところだった。
さっきの体験があるので私は見ないようにして、九条さんに渡してあげる。彼は強い目力でスマホを凝視していた。なぜそんな表情をしているのか私は不思議に思う。
少しして彼は私にスマホを返した。受け取ると同時に、九条さんが険しい顔をしていることに気がつく。
「九条さん? どうしまし」
「九条さん、光ちゃん! なんかこんな情報出てきたよ」
伊藤さんの少しうわずった声が届いた。二人でそちらに目を向けると、やけに複雑そうな顔をした伊藤さんがこちらを見ている。
「あの夫妻についてなんだけど」
伊藤さんが詳細を述べてくれる。私はただ聞いているだけだったけど、隣の九条さんはまさかという驚きの顔をしていて、そちらの方が気になってしまう。九条さんは伊藤さんにいくつか質問をした後、手で顔を覆った。
私はまるで状況がわからないので、その顔を覗き込む。
「九条さん?」
「……私の考えすぎ、である可能性も高いです。というかそうであってほしいと思っていますが」
小声で言った彼は顔を上げて前を見る。どこか悲しげに言い切った。
「やはりこの件、上浦夫妻が大きく関係しているのは間違いないでしょう」
眠るのが怖かったはずなのにいつのまにか床で寝てしまった私は、朝目が覚めると体にしっかり毛布が掛けられていた。
同時に伊藤さんも机に突っ伏して寝ており、九条さんだけが何やら考え事をして起きていた。まずその二人が本物かどうか疑いかかった私に、九条さんは「おはようございます、お望みならば殴ります」と言ってくれたので入られていないだろうと結論づけた。
睡眠により少しは疲労感がマシになっていたが、それでも体はぐっと重い。疲れなのか、それとも人形にずっと狙われているからなのか、判断はつかない。
ゆるゆるとなんとか朝の支度を整えていると伊藤さんも目を覚ました。彼は私の代わりに簡単な朝食などを用意してくれ気遣ってくれ感謝しかない。
少しばかり食物を胃に入れると、すぐに病院へ出かけましょうと九条さんに言われ、私たちは彼の車に乗り込んだ。もちろん、ボロボロになっている紙袋に入れられたあの人形を連れて、だ。
住職が入院している病院は車で一時間ほどだった。どこか緊張してこわばっている私をなんとか和まそうとしてくれる伊藤さんの声が車内に響いていた。人形は何も動きはなくひっそりと静かに座席に座っている。
昨晩、九条さんからある仮説を聞かされ、その内容が頭から離れないでいた。かなり突拍子もない話だけれど、こういう時九条さんは外さない。まだ確定はしていないけれど、それが真実のような気がしていた。
『家族……』。それが、全ての答えだ。
「しかし、麗香も言ってましたが小さな子供という点は間違いなさそうですね。あなたの入られ方を見てもやはり相当力が強いのは確かです」
「はい、初めての体験でした……」
「どうもしっくりきませんね。年月が長く経って力を増していく子供の霊は多くいますし珍しくもありません。しかし今回の場合人形は新しいのでそう長く宿っていたわけではないことになる。
何より、霊は恨みなどによって力が強くなるんです。でも麗香や寺の住職が言っていたようにこの人形には恨みなどが感じられない」
確かに、なぜだろう。私も首を傾げる。恨みも思い残しもないのにこの世に留まってるっていうのが、一番よくわからないポイントなんだなあ。
こちらには背を向けている赤い着物を三人で眺めた。今あの子は何を考えているんだろう。家族を欲しがっているのはなぜ?
しばらく沈黙が流れるも、誰も答えなんて分からない。九条さんがため息をついたところで、話題が変えられる。
「考えてもしょうがないですね、明日の上浦夫人からの話に期待しましょう」
「じゃあ僕はまた調べ物に戻ろうっと」
伊藤さんは再びパソコンの前に戻り操作し始める。静かな部屋にキーボードを打つ音だけが聞こえた。九条さんは私を見て言う。
「さて。あなたは奪われた体力をなんとか回復させたいところですね。眠れますか?」
「疲れたので眠いは眠いんですが、寝るの怖いというか」
「起きてても寝てても入られるんだから無理に起きている必要はないのでは。とはいえ確かにすぐには眠れないでしょうけどね。
さっきはなぜ心霊番組など見てたのですか、あなた結構怖がりなのに」
「ああ、ほら言ったじゃないですか、宝閣寺が以前心霊番組に出てたって。一応見たけどもう一回見てみたくて探してたんです。どんな人だったかなあって思って」
「なるほど。どうでしたか」
「厳かな人ですね、ザ・住職って感じ!」
「ザ・住職?」
九条さんが少しだけ笑う。その笑顔を見てふわりと心が温かくなった。無茶苦茶なやり方でもいつも入られてることに気付いてなんとかしようとしてくれる。調査中は頼りになるんだなほんと。
ときめいてしまった自分を誤魔化すように私は喋り続ける。
「あと言っている内容とかも、なるほどーって感じで」
「そうなんですか」
「なんだったかな、曰くのある人形は一つ一つとちゃんと向き合って尊重して、しっかり声を聞く。一人の人間として扱うのがすごく大事だって話してました。やっぱりいくつも人形を見てきた人の言う言葉には重みがあ」
「光さん」
突然私の言葉を遮るように九条さんが声を出す。そちらを見てみると、やけに目を丸くした彼が私を見ていた。その様子に面食らう。私変なこと何も言ってないはずだけど。
「な、なんですか?」
「それ法閣寺の住職が言っていたんですか? テレビ番組で?」
「そ、そうですよ。見ますか?」
九条さんが頷いたので部屋を見渡す。ソファの端っこでイヤホン付きで転がっているスマホがあった。取ろうとしたところを、九条さんが先に立ち上がり取ってきてくれる。画面をつけると、丁度住職さんの話で止まっているところだった。
さっきの体験があるので私は見ないようにして、九条さんに渡してあげる。彼は強い目力でスマホを凝視していた。なぜそんな表情をしているのか私は不思議に思う。
少しして彼は私にスマホを返した。受け取ると同時に、九条さんが険しい顔をしていることに気がつく。
「九条さん? どうしまし」
「九条さん、光ちゃん! なんかこんな情報出てきたよ」
伊藤さんの少しうわずった声が届いた。二人でそちらに目を向けると、やけに複雑そうな顔をした伊藤さんがこちらを見ている。
「あの夫妻についてなんだけど」
伊藤さんが詳細を述べてくれる。私はただ聞いているだけだったけど、隣の九条さんはまさかという驚きの顔をしていて、そちらの方が気になってしまう。九条さんは伊藤さんにいくつか質問をした後、手で顔を覆った。
私はまるで状況がわからないので、その顔を覗き込む。
「九条さん?」
「……私の考えすぎ、である可能性も高いです。というかそうであってほしいと思っていますが」
小声で言った彼は顔を上げて前を見る。どこか悲しげに言い切った。
「やはりこの件、上浦夫妻が大きく関係しているのは間違いないでしょう」
眠るのが怖かったはずなのにいつのまにか床で寝てしまった私は、朝目が覚めると体にしっかり毛布が掛けられていた。
同時に伊藤さんも机に突っ伏して寝ており、九条さんだけが何やら考え事をして起きていた。まずその二人が本物かどうか疑いかかった私に、九条さんは「おはようございます、お望みならば殴ります」と言ってくれたので入られていないだろうと結論づけた。
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