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家族の一員
電話で
しおりを挟む多忙なためか、朝は麗香さんは電話に出ることはなかった。伊藤さんは部屋で電話したりパソコンを見たりし、その後外へと出て行ってしまった。
九条さんはモニターを見ながらスマホで電話をかけ、相手が出た時には今回の件を説明し除霊ができないか頼んでくれていた。いい返事は聞けないようだった。
私はあまり手伝えることもなく、九条さんにポッキーを運んでみたり自分も摘んでみたり。これはこれで居心地悪いけど仕方ないのかな。
昼食は伊藤さんが買ってきてくれたパンで済まし、一息ついているときだ。私の携帯に麗香さんから電話が来たのだ。
九条さんは他の誰かと電話をしている最中だった。慌ててスマホを手に持ち、廊下へと移動する。耳に当てると、この場にそぐわなすぎる明るい声が響いてきた。
『もしもーし? 朝出れなくてごめんね。あの人形はあの後どんな感じー? 伊藤さんからちょっとは詳細聞いたけどさ』
あまりに緊張感がなくて、一気に肩の力が抜けてしまった。ついふふっと笑みが漏れてしまう。麗香さんってこういう人なんだよね、マイペースだな。
「こんにちは、状況は変わってないです、というか良くないです。麗香さんの助言を聞きたくて」
『んー離れてるからいい助言ができるかわかんないけど、とりあえず聞かせてよ』
私はまず、昨晩の出来事を伝えた。眠るつもりのなかった九条さんまでも眠ってしまったことや、声は全く聞こえそうにないことも告げる。その後撮影を始めて見るが、今の所変わったことは何も起きてないことも。
電話の相手は唸るように低い声を出した。考えるように言う。
『ううん。昨日あんたたちが行ったっていう寺の住職の話も聞いたんだけど、なんか不思議な話よね』
「麗香さんはあの人ご存知なんですか?」
『有名だもの、知ってるわよ。まあ私の力には及ばないけど、人形相手でいうとあっちのが断然慣れてるしベテランよ。だからあの住職がそう言うなら間違いないとは思うわ』
「恨みがないのに力が強い人形、ですか……」
昨日聞いた話を思い出す。得体の知れないものだから、自分は下手に手が出せないと言っていた。ああ、麗香さんにも直接見てもらいたいのに。
彼女は困ったように言う。
『正直私も見てないしわかんないわね今後の対策。うーんこっちの依頼が早く終わればいいんだけどね』
「あ! 麗香さん、この前私が電話した時、人形の声が聞こえたって言ってませんでした? 電話越しに話聞けないか試してみませんか!」
九条さんは会話が出来そうにないと言っていたけど、ああいうのは相性も大きい。麗香さんは人形の『連れてって』の声を聞いてたし、もしかしたらもっと声が聞こえるかも!
相手が了承したので、私は音声通話からビデオ通話に切り替え、早速人形がいる寝室に入った。できれば九条さんと一緒にと思ってその前にリビングを覗いたが、彼はまだ電話中だったので諦めたのだ。まあ今は麗香さんと電話中だし、そんな変なことにはなるまい。
寝室に足を踏み入れると、ベッドの真ん中で仰向けに横たわる人形が目に入った。ごくりと唾を飲む。昨日別れたままの格好だ。あまり近づかないままで、麗香さんに見えるように人形を見せた。
麗香さんが何やらぶつぶつ呟いている。
どうか早く終わってくれ、と祈っていると、あっさり麗香さんの声がした。
『もういいわよ戻って』
「あ、はい!」
許可が出たのでホッとしてすぐに廊下へ戻る。もしかしてあっさり成功でもしたのか? とワクワクして画面をコチラに向けると、見えたのは麗香さんの困った顔だった。
『住職の言うように変わった相手っていうのはよく分かったわ』
「へ?」
『全然会話なんて出来ない、多分一昨日聞こえたのは伝えたかったから声を出したのよ。連れってってほしいという願望を伝えたかったから。
でも今日は完全に無視よ、無視。こちらの言うことを聞く気はないみたいね。うーん確かになんか珍しい感じ。攻撃的な感じも無く、恨みも無し。伝えたいことも無いってこと? よくわかんないわね』
画面越しではここが限界なんだろうか。麗香さんも眉を下げている。私は肩を落とした。やっぱり北海道から帰ってくるのを待つしかないのかも。
だが、麗香さんが思い出したように言った。
『あ、でもちょっと見えたわ』
「え? 見えた、とは?」
『隠れてるつもりだろうけど、チラッとだけ私には見えちゃった。
一昨日も言ったけど女の子よ。それも結構小さい子ね。んー多分五、六歳かしら? あの人形に入ってる』
小さな女の子……。まだそんな幼い子が人形に宿り、一体何をしたいんだろう。こちらの声も無視して、あんなふうに私を騙して。
麗香さんが少しだけ引き締まった声で続けた。
『相手の正体が掴めないなら、撮影してみたり前の持ち主を探す方向性は間違ってないと思うわ。
でも何よりあなたよ。人に幻覚を見せるのはかなりパワーのある霊だから。気をつけるのよ。私もなるべく仕事を早く終わらせるように頑張るから』
「はい……」
たった五歳程度の子供にこんなに翻弄されるだなんて。九条さんにも麗香さんにも同じことを言われている。しっかりしないと。
いくつか会話を交わし、私たちは電話を切った。ふうとため息をついてリビングへ戻ると、九条さんもちょうど電話を終えたところらしかった。私を見てああ、と小さく声を出す。
「終わりましたか。今私も行こうと思ってたんですが」
「はい、麗香さんに見てもらいました。それで」
九条さんの隣にしゃがみ込み、電話で聞いたことをそのまま細かく説明する。相手がまだ小さな女の子だと聞くと、九条さんも興味深そうに頷いた。
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