206 / 448
聞こえない声
似ている
しおりを挟む
九条さんは尋ねる。
「菊池さんを尾行しているんですか?」
『いえ、まだ菊池さん仕事終わってないので会社なんですけどね。その会社の前にずっとウロウロしてる女がいるんです。多分間違いないと思います。背格好はそっくりですし、どう見ても誰かが出てくるのを隠れて待ってるんです。遠目ですけどちょっと撮らせてもらったので……送りますね、光ちゃん見てみて』
直後、スマホに伊藤さんから画像が届く。私は急いでそれを確認した。
マスクをしているショートカットの女性。小柄で細い体。確かにやや遠目でわかりにくいが、あの日見た女性に非常に似ていた。私はやや興奮しながら言う。
「似てます! この人だと思います!」
『やったね』
九条さんが頷いた。すごい、伊藤さん本当に突き止めちゃった。ずっと菊池さんの周りを探ってたんだもんなあ。感謝してもし切れない。
『どうしますか九条さん』
「私もすぐに行きます。女性相手とはいえ、凶器を持っているのならば伊藤さん一人で接触は避けたいので。菊池さんがきてしまっては女に動かれるので、彼に連絡して会社内に留まるか裏口などを使ってでてもらうようにしましょう」
『わかりました、僕から連絡しておきます』
「すぐに行きます」
電話が切れる。九条さんはそのまま立ち上がった。鋭い目で私を見る。
「光さんはここに」
「え、でも」
「相手に狙われやすいので。女の居場所が割れたとなればいくらか安心ですが、それでも一人で出歩かないように。ここに鍵をかけておいてください」
「わ、わかりました、気をつけてくださいね!」
九条さんは素早くそのまま事務所から出て行った。私は言われた通り戸がしまった後、すぐに鍵をかけておく。ふうと息を吐き、女と接触して二人はどうするつもりなんだろう、と考えた。九条さんのことだから何か考えがあるのかもしれないけど。
でもとにかく、犯人が分かったのは一安心だ。よかった。
「一人になっちゃった。とりあえず調べ物を続けようかな」
もうほとんど調べ尽くした感はあるが、もしかしたらまだ見落としてるものもあるかも。一人だけ働かないのもどうかと思うし、とりあえず調べ物しておこう。
誰もいなくなった事務所でパソコンに向き直る。しんとした静けさが流れた。ここに一人でいるなんて珍しいよなあ、いつもは絶対九条さんか伊藤さんがいるんだもん。ちょっと寂しい。
キーボードを打ちながら疲れた目を労るように瞬きを繰り返し画面を見つめる。九条さんが食べ残したポッキーを机の上に見つけてそれを食べた。マウスをクリックする音がやけに響いて聞こえる。
Y、Y……S、S……。
一人作業を続けながら、時計を眺める。もう夕方だ、外も陽が赤くなってきている。九条さんたち大丈夫かな、解決したら電話なりなんなりくると思うけど。伊藤さんも、無理して怪我とかしないように……
そう考えていた時、手元においたスマホが鳴り響いた。驚きで飛び跳ねながらすぐに手にした。てっきり伊藤さんか九条さんかと思い画面を覗き込んだが、そこにあった名前は菊池さんだった。
「あ、菊池さん……」
伊藤さんから彼に連絡をする、と言っていたので、女が会社の前にいることを知っているはずだ。私はそのまま電話に出た。
「もしもし?」
『あ、黒島さんですか?』
「はい、お疲れ様です」
『少し前に伊藤さんから連絡を頂いたんです。会社の前に犯人と思しき人がいるって。表には出ないようにいわれたので裏口から帰宅してるんですが……その後何か連絡はありましたか?』
「いいえ、まだきてないです。九条さんが着くまでまだ少し時間がかかるかなと思うので」
『そうですか……。黒島さんは今どこに?』
「事務所です。女は会社の前にいるみたいだけど、一応気をつけて鍵をかけて待機しています」
『あ、そうか……。あの、僕そちらに行っても?』
「え?」
『鍵かけてると言っても、黒島さんお一人にしておくのは心配でもあるので。元はといえば僕の軽率な行動が原因ですし。どうでしょうか?』
提案を受けて考える。確かに菊池さんは当事者なのだし、解決したのなら彼にも報告するだろうからここにいてもらったほうがいいかもしれない。私も一人でいるより誰かがそばにいてくれた方が心強いのもある。
女はまだ菊池さんの会社の前にいるはずだし、彼を招いていも問題ないだろう。
「わかりました、大丈夫です」
『ではすぐに向かいます! 待っててください!』
どこか嬉しそうに声を弾ませた彼は電話を切る。なんか、可愛らしい人だなあ。つい微笑む。
スマホを机の上に置き、ふうと息をつく。
今頃九条さんたちはどうしてるだろう。まだ到着してないよね。
ソワソワしながら私はスマホを見つめた。どうか、二人とも無事で事件が解決しますように。ストーカー女のことが無事片付けば、伊藤さんも手が空くからY.Sについて調べられるかも。まあ、もうこれ以上調べようがない気もするが……。
とりあえず菊池さんが来るまでは調べ物をしていよう。何もしないのも落ち着かないし。私は再びパソコンに向き直る。文字が羅列した記事に目を通し被害者の名前を必死に追っていく。
マウスのすぐ隣にはスマホがおいてある。九条さんから連絡が来たらすぐに取れるようにだ。彼らのことが気になる私は真っ暗になっている画面を意味もなく見てしまう。心配そうな顔をした間抜けな自分の顔が黒の中にぼんやりと映り込む。
「ううん、集中しなきゃ」
そう自分に言い聞かせるがあまり意味はない。少し作業を進めたところでスマホを覗き込んでしまう。電話がかかって来れば鳴るんだから、覗いても無意味だというのに。
はあーあと大きく息を吐きながら再び無意識にスマホを覗き込んだ。その時、一瞬だが自分の顔以外のものが通った気がして止まる。
……?
「菊池さんを尾行しているんですか?」
『いえ、まだ菊池さん仕事終わってないので会社なんですけどね。その会社の前にずっとウロウロしてる女がいるんです。多分間違いないと思います。背格好はそっくりですし、どう見ても誰かが出てくるのを隠れて待ってるんです。遠目ですけどちょっと撮らせてもらったので……送りますね、光ちゃん見てみて』
直後、スマホに伊藤さんから画像が届く。私は急いでそれを確認した。
マスクをしているショートカットの女性。小柄で細い体。確かにやや遠目でわかりにくいが、あの日見た女性に非常に似ていた。私はやや興奮しながら言う。
「似てます! この人だと思います!」
『やったね』
九条さんが頷いた。すごい、伊藤さん本当に突き止めちゃった。ずっと菊池さんの周りを探ってたんだもんなあ。感謝してもし切れない。
『どうしますか九条さん』
「私もすぐに行きます。女性相手とはいえ、凶器を持っているのならば伊藤さん一人で接触は避けたいので。菊池さんがきてしまっては女に動かれるので、彼に連絡して会社内に留まるか裏口などを使ってでてもらうようにしましょう」
『わかりました、僕から連絡しておきます』
「すぐに行きます」
電話が切れる。九条さんはそのまま立ち上がった。鋭い目で私を見る。
「光さんはここに」
「え、でも」
「相手に狙われやすいので。女の居場所が割れたとなればいくらか安心ですが、それでも一人で出歩かないように。ここに鍵をかけておいてください」
「わ、わかりました、気をつけてくださいね!」
九条さんは素早くそのまま事務所から出て行った。私は言われた通り戸がしまった後、すぐに鍵をかけておく。ふうと息を吐き、女と接触して二人はどうするつもりなんだろう、と考えた。九条さんのことだから何か考えがあるのかもしれないけど。
でもとにかく、犯人が分かったのは一安心だ。よかった。
「一人になっちゃった。とりあえず調べ物を続けようかな」
もうほとんど調べ尽くした感はあるが、もしかしたらまだ見落としてるものもあるかも。一人だけ働かないのもどうかと思うし、とりあえず調べ物しておこう。
誰もいなくなった事務所でパソコンに向き直る。しんとした静けさが流れた。ここに一人でいるなんて珍しいよなあ、いつもは絶対九条さんか伊藤さんがいるんだもん。ちょっと寂しい。
キーボードを打ちながら疲れた目を労るように瞬きを繰り返し画面を見つめる。九条さんが食べ残したポッキーを机の上に見つけてそれを食べた。マウスをクリックする音がやけに響いて聞こえる。
Y、Y……S、S……。
一人作業を続けながら、時計を眺める。もう夕方だ、外も陽が赤くなってきている。九条さんたち大丈夫かな、解決したら電話なりなんなりくると思うけど。伊藤さんも、無理して怪我とかしないように……
そう考えていた時、手元においたスマホが鳴り響いた。驚きで飛び跳ねながらすぐに手にした。てっきり伊藤さんか九条さんかと思い画面を覗き込んだが、そこにあった名前は菊池さんだった。
「あ、菊池さん……」
伊藤さんから彼に連絡をする、と言っていたので、女が会社の前にいることを知っているはずだ。私はそのまま電話に出た。
「もしもし?」
『あ、黒島さんですか?』
「はい、お疲れ様です」
『少し前に伊藤さんから連絡を頂いたんです。会社の前に犯人と思しき人がいるって。表には出ないようにいわれたので裏口から帰宅してるんですが……その後何か連絡はありましたか?』
「いいえ、まだきてないです。九条さんが着くまでまだ少し時間がかかるかなと思うので」
『そうですか……。黒島さんは今どこに?』
「事務所です。女は会社の前にいるみたいだけど、一応気をつけて鍵をかけて待機しています」
『あ、そうか……。あの、僕そちらに行っても?』
「え?」
『鍵かけてると言っても、黒島さんお一人にしておくのは心配でもあるので。元はといえば僕の軽率な行動が原因ですし。どうでしょうか?』
提案を受けて考える。確かに菊池さんは当事者なのだし、解決したのなら彼にも報告するだろうからここにいてもらったほうがいいかもしれない。私も一人でいるより誰かがそばにいてくれた方が心強いのもある。
女はまだ菊池さんの会社の前にいるはずだし、彼を招いていも問題ないだろう。
「わかりました、大丈夫です」
『ではすぐに向かいます! 待っててください!』
どこか嬉しそうに声を弾ませた彼は電話を切る。なんか、可愛らしい人だなあ。つい微笑む。
スマホを机の上に置き、ふうと息をつく。
今頃九条さんたちはどうしてるだろう。まだ到着してないよね。
ソワソワしながら私はスマホを見つめた。どうか、二人とも無事で事件が解決しますように。ストーカー女のことが無事片付けば、伊藤さんも手が空くからY.Sについて調べられるかも。まあ、もうこれ以上調べようがない気もするが……。
とりあえず菊池さんが来るまでは調べ物をしていよう。何もしないのも落ち着かないし。私は再びパソコンに向き直る。文字が羅列した記事に目を通し被害者の名前を必死に追っていく。
マウスのすぐ隣にはスマホがおいてある。九条さんから連絡が来たらすぐに取れるようにだ。彼らのことが気になる私は真っ暗になっている画面を意味もなく見てしまう。心配そうな顔をした間抜けな自分の顔が黒の中にぼんやりと映り込む。
「ううん、集中しなきゃ」
そう自分に言い聞かせるがあまり意味はない。少し作業を進めたところでスマホを覗き込んでしまう。電話がかかって来れば鳴るんだから、覗いても無意味だというのに。
はあーあと大きく息を吐きながら再び無意識にスマホを覗き込んだ。その時、一瞬だが自分の顔以外のものが通った気がして止まる。
……?
26
お気に入りに追加
532
あなたにおすすめの小説
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
【意味怖】意味が解ると怖い話【いみこわ】
灰色猫
ホラー
意味が解ると怖い話の短編集です!
1話完結、解説付きになります☆
ちょっとしたスリル・3分間の頭の体操
気分のリラックスにいかがでしょうか。
皆様からの応援・コメント
皆様からのフォロー
皆様のおかげでモチベーションが保てております。
いつも本当にありがとうございます!
※小説家になろう様
※アルファポリス様
※カクヨム様
※ノベルアッププラス様
にて更新しておりますが、内容は変わりません。
【死に文字】42文字の怖い話 【ゆる怖】
も連載始めました。ゆるーくささっと読めて意外と面白い、ゆる怖作品です。
ニコ動、YouTubeで試験的に動画を作ってみました。見てやってもいいよ、と言う方は
「灰色猫 意味怖」
を動画サイト内でご検索頂ければ出てきます。
これ友達から聞いた話なんだけど──
家紋武範
ホラー
オムニバスホラー短編集です。ゾッとする話、意味怖、人怖などの詰め合わせ。
読みやすいように千文字以下を目指しておりますが、たまに長いのがあるかもしれません。
(*^^*)
タイトルは雰囲気です。誰かから聞いた話ではありません。私の作ったフィクションとなってます。たまにファンタジーものや、中世ものもあります。
とほかみゑみため〜急に神様が見えるようになったので、神主、始めました。
白遠
ホラー
とほかみゑみため………神道において最も重要とされる唱え言葉の一つ。祝詞。漢字表記は当て字である。
代々神主の家柄の榊 伊邇(さかき いちか)は中学2年生。正月明けに育ての親である祖父を亡くした。
伊邇には両親はなく、霊能力者の姉が一人いるだけだが、姉もまた原因不明で意識を無くして病院に入院したきりだった。一人きりになった伊邇の前に、ある日突然祀っている神社の氏神様と眷属の白狐が現れ、伊邇の生活は一変する。実は伊邇もまた、神やその眷属を見ることができる霊能力者だった。
白狐の指導により、お祓いを主とした神主業を始めた伊邇だったが、ひょんなことから転校生である佐原 咲耶(さはら さくや)と生活を共にすることになる。佐原にもまた、霊感があり、生活の中でいわゆる幽霊に悩まされていた。
神主として経験を積むイチカと、サハラとの微妙な同棲生活の中で、眠り続ける姉の秘密が明らかになっていく。
※R15指定は残酷描写のためではありません。性的行為を想起させる表現がございます。
(ほぼ)1分で読める怖い話
アタリメ部長
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。