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聞こえない声

調査続行

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 菊池さんは再び黙った。私の中ですぐに返事を出すだろうと思っていたので、彼が黙り込んだのは意外だった。

 彼の返事を待っている間、ふと頭の中に一つの案が浮かぶ。あとはあれだなあ、私があの首なしに入られれば。彼女の思惑がわかるかもしれないけど、以前九条さんにわざと入らせるようなことは二度とするなと強く言われたしなあ……。実際すごく危険だったし。あの方法は却下かな。

「あの」

 菊池さんが口を開いた。私と九条さんは注目する。

「もし他殺だとすれば、とても可哀想な霊ということになりますし、できることなら除霊より浄霊が望ましいんじゃないかと思っています。
 もう少しだけ、九条さんたちに調べてもらうことは可能ですか」

 意外すぎる答えに私は目を見開く。今までの流れを聞いて、それでも私たちに調査を続行させるなんて。調査代払うの菊池さんなんだけど大丈夫なのかな。

 九条さんも一瞬目を細めたが、それでも素直に頷いた。

「分かりました。少しこの線で攻めてみましょう。そうなればここに我々がいても無意味なので、今日は一旦退きます」

「あ、そうですか……」

「撮影機材はまた回収に伺います。事務所で一度物事を整理し、調べ物に力を入れましょう。また連絡します」

 切り上げかけた九条さんに、菊池さんが慌てて尋ねる。

「あの! 大福は……なんで来てるんでしょうか……」

「残念ながら私は犬語はわからないので、そっちの思惑も読めないままです。ですがもしかしたら、首なしの霊に懐かれたあなたを心配しているのかもしれませんよ」

「え、心配してくれてる……?」

「私の憶測ですがね。あえて首なしと同時に現れたんですからね」

 九条さんの言葉に、菊池さんが静かに微笑んだ。私はその横顔を見てほっとする。

 飼い主が心配でやってくるだなんて、よっぽど大事にされてたんだろうなあ。菊池さんらしい感じもする。

「というわけで、光さん、一度今日は撤収です」

「あ、はい!」

 九条さんの言葉を合図に、私は慌てて廊下に散らばった物を片付け、二人でその家を後にした。






「なんていうか、今回は伊藤さんが大変でしょうねえ」

 助手席で揺られながら、私は伊藤さんを哀れに思った。辺りはすでに真っ暗だ。対抗車のライトが時々眩しい。

 隣の九条さんも同意する。

「正直、解決へ導く可能性も低いですからね。浄霊は厳しいと思いますよ」

 霊の顔がわからない、そして声も聞こえないとなると、こんなに手がかりがなくなるんだ。今までとはだいぶ違った展開だもんな。

「それにしても、菊池さんもよく調査続行の決意しましたよね。私今回はもう終わりかと思ってました」

「まあ、私は菊池さんがああ言うかなとなんとなく思っていましたが」

「そうですか……私なら一日でも早く首なしの霊を追い払ってもらいたいって思いますけど、菊池さん優しいんですね……」

 九条さんは何も答えなかった。ハンドルを握る彼の横顔を恐る恐る見、思っていたことを聞いてみた。

「あの、私に霊に入らせるっていうのはど」

「却下です」

 ちょうど赤信号になり車を停止した九条さんは、こちらを向いて強く言った。

「故意に入らせることは絶対にダメです。どんな危険があるか分かりません、前回の体験を忘れましたか」

「……はい」

「無理なら他へ回します。光さんがそこまで体を張る必要はありません」

 そう言われるだろうとは思った。確かに、前回とんでもない展開になって九条さんには散々心配かけたしな。こればかりは素直に従っておこう。

「そうですね、私にはちょっとレベルが高いですね……あのあと麗香さんにもちょっと聞いてみたんですけど、対処法も特にないみたいで、精神力を強めろとか言われただけで……」

 私がそう言うと、九条さんが驚いたようにこちらをみた。目を見開いて尋ねる。

「麗香?」

「え? はい」

「いつのまに麗香と連絡先を?」

「あ、九条さん知らなかったですっけ……あの事件が解決した後、あれよあれよと言うまに。普段はほとんど連絡取ってませんけど」

 以前ある調査をきっかけに知り合った本物の霊能者の人だ。おまけに九条さんの元カノ、という肩書き付き。どうやらかなり短い交際だったらしいのだが。

 なぜか九条さんは困ったようにため息をついた。

「麗香は強引なところがありますから。光さんと気が合うタイプには見えませんが」

「え、でも面白い人でしたよ麗香さん。合う話題もあるし」

「どんな話題ですか」

「そりゃ」

 同じ人を好きになってしまった、という共通の話題。

……なんて、言えるわけないな。
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