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聞こえない声

解決できる可能性

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「足音の持ち主が判明しました」

「え!? もうですか!?」

「一つは小型犬のポメラニアンでした」

「ポメ」

 菊池さんが唖然とする。確かに、霊の正体が犬じゃちょっと気が抜けるよなあ……私は苦笑する。相手が相手なら、ばかにするなと怒り出すような結果かもしれない。

 けれど予想外に、菊池さんはそのまま絶句したまま唇を震わせた。その光景が気になった私は、彼にそっと声をかける。

「あの……? もしかして、何か心当たりがあるんですか?」

 私が尋ねと、菊池さんははっとした顔になり、すぐに微笑んだ。嬉しさと、悲しさを合わせているような表情に思えた。

「多分、だいふくだと思います」

「? 大福?」

「真っ白なポメラニアンじゃないですか? 僕が可愛がっていた犬なんです。つい先日、病気で死んじゃって」

「え!」

 そう、確かに現れたポメラニアンは真っ白だった。まさか菊池さんが飼っていた犬だったなんて! 九条さんが口を開く。

「なるほど、納得です。あなたの知っている犬でしたか」

「そっか……あの足音は、大福だったのかあ……」

 遠い目をしてそうつぶやいた姿に、どこかうるっときてしまった。私は特にペットを飼ったことはないが、動物は好きだ。死んでからも飼い主に寄り添ってくれるだなんてなんだか感動的な話だった。

 菊池さん、すごく可愛がってたんだろうなあ。確かに動物に優しそうな感じする。菊池さんらしいっていうか。

 九条さんが続ける。

「一つは解決しましたね、菊池さんの犬だった。問題はもう一つの足音です。首のない女性でした」

「え!?」

 一転、驚きと恐怖心で菊池さんがやや後退した。

「く、首のない女の人!?」

「ええ。首がないのでどんな人なのか一切わかりません」

「そんな人が一体なぜ……?」

 菊池さんの質問に、九条さんは少し眉を下げた。

「そこです。
 本来光さんは霊の姿をはっきり視る能力が、そして私は霊と会話をする能力があるので今まで調査をこなしてきました。ですが今回、なんの原因かは分かりませんが、首無しの霊と会話ができなかったんです」

「え……」

「ですので、彼女がなぜこの世にとどまっているのか答えを聞き出せない状態です」

「そんな……じゃあやっぱり、他に除霊を頼んだ方が……?」

 菊池さんが困ったように呟いた。

 私も唸って考え込む。霊の声が聞こえない、そして顔も見えない。これはなかなか手強いパターンだと思った。

 せめてどんな人か私が顔でも見れれば身元を割れる。でもそれすら不可能となれば、浄霊はあまりに厳しい。

 しばらく考えた九条さんが言った。

「正直、かなり難しいパターンだとは思います。あまり時間をかけたくないという菊池さんの意思もありますから、他へ依頼されるなら私たちに止める権利はありません」

 その意見に反論はできなかった。致し方ない、と私も思う。

 聞いた菊池さんは俯いて悩んでいるようだった。それを少し意外に思う。菊池さんから見れば、少しでも早く解決してほしいはず。私たちを断って、他へ除霊を依頼するのに迷うことなんてあるだろうか。

 視線を泳がせながら菊池さんは迷い、そして口を開いた。

「もしこのまま調査をお願いするとなれば、九条さんたちはどう調査を続けるおつもりなんですか」

 私は隣の九条さんを見上げる。私の頭では全然思い付かなかったからだ。でも九条さんは困る様子もなくすぐに答えた。相変わらず仕事に関しては頭が回る人だ。

「一つ言えるのは、首がない霊というのは非常に珍しいということです」

「へえ……」

「光さん。あなたははっきり見えたはずですよね。首なしはどのような姿でしたか」

 突然聞かれてうっと困る。今更だが、確かに首のないあの姿はなかなかインパクトが強い。私はなんとか頑張って思い出し伝えた。

「えっと、紺色のワンピースをきていました。細身の手足。首もとは出血でしょうか、どす黒く変色していました」

「そこです」

 九条さんはやはり、というように呟く。

「首からの出血の痕があり、そして頭部がない。つまりは今回の場合、他殺で首を切られた可能性が非常に高いのではにないでしょうか」

「え!!?」

 菊池さんと同時に私も声をあげてしまった。いやでもそうだ、普通に考えればそうなる。

「百パーセントとはいえません、霊も様々ですので。ですがスムーズに考えればそうなります。菊池さん、お知り合いに頭部が切断されて亡くなった方は」

「い、いるわけないですよ!」

「となれば、今回は不運にもあなたが拾ってきてしまったことになる。そういうパターンもありますからね。
 この霊障が出始めた頃、どこへ行ったか事細かに教えて頂きます。心霊スポットへの肝試し、山登り、キャンプ、ドライブ。あなたが通った場所や行った場所を調べるうちに、これまでバラバラ殺人の遺体が発見された場所があるかもしれない。もしそうなれば、あの霊の身元は割り出せる」

 なんとも根気の必要なやり方だ。私は軽く目眩を覚える。いや、目眩がするのは多分そんな調べ物をさせられる伊藤さんだろう。

 私はつい口を挟んだ。

「でも、もしうまくいって身元が割れたとしても、霊の思い残したことがわかるとは限りませんよ。もし未解決の事件だったら、多分思い残しなんて高い確率で犯人の逮捕じゃないですか。そんなの叶えられっこありません」

 私の意見に、九条さんは素直に同意した。

「その通りです。正直骨の折れるやり方ですし、解決できる可能性は低いといえます。ですがもし我々が調査を続けるとしたら、そういう方法しか残っていないということです」

 三人で黙り込んだ。こんなに難しい相手も初めてだと思った。さすがに今回は他の人へ依頼を回すだろうか。あの霊は除霊されるということ。仕方のないことだ、毎日訪問される菊池さんの苦痛もわかるし、どうしようもない。
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