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真夜中に来る女
実力は確か
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「が。流石に家も限界が来てるってところね。こんだけの気に襲われれば無理もない」
一人納得したように言うと、彼女は近くの白い壁に手を当てた。我々はただその姿を見つめるしかできない。みんなの視線が麗香さんの手先に集中する。ゴールドの細い指輪がはめられた綺麗は手は、愛おしそうに壁を優しく撫でた。
なんとなく誰も言葉を発さないまま麗香さんの次の行動を待った。しんとした静けさの中、彼女は壁に触れていた手をスーツのポケットに伸ばす。はっとしてその姿に注目した。中から出てくるのは数珠か、お札か……
そう脳内で想像していた私たちは目が点になる。彼女が取り出したのは、オシャレな小瓶だった。香水を入れるものだ。
恐る恐る八重さんが尋ねる。
「あのう、朝比奈さん、それは……?」
「え? ああ、塩水よ」
「塩、水ですか? 塩なら分かりますが……」
「塩を撒き散らしたら掃除が面倒じゃない」
あっけらかんと麗香さんはそう言い放ち私たちは唖然とする。塩とは悪しきものを祓う王道の道具だから理解できるが、それがまさかこんなオシャレな小瓶に入って登場するだなんて。
持っている小瓶の蓋を外し、鼻歌でも歌い始めそうな様子でそれを掲げる。もはや美人が香水を振り撒くシーンにしか見えない。
白い壁に向かってほんの僅か、シュッと吹きかけた。それを親指で擦り付ける。優しく壁に染み込ませるように何度か繰り返すと、手に持つ小瓶を再びポケットにいれた。
そして一度彼女は背筋をまっすぐ伸ばした。じっと白い壁紙を見つめたかと思うと、両手を打ち合わせて大きく音を鳴らした。
パン、と手を叩く音が鳴り響く。それはやけに大きく家中に渡ったように思えた。
するとその瞬間、私は異変に気がつく。先ほどまで顔をしかめるほどだったあの匂いが一瞬にして消えたのだ。
「! ……あ、れ?」
言葉に言い表せられない不思議な感覚に包まれる。家中を纏っていた不気味な何かが消え失せ、そこは普通の家のように感じた。その変化は私だけではなく、大川さん親子も感じ取った様子だった。
「え? なんか……」
「家が明るくなったような……?」
戸惑うように呟いたお二人だが、すぐに麗香さんを見つめる。変化の原因に驚愕しているようだった。
麗香さんは満足げに微笑んでいた。
……凄い! あっけに取られる。
私だけではなく、特に何の能力もないはずのお二人すら感じ取れるほどの変化だ。まさか映画や小説で見たような事が現実に起こるだなんて。本当にこんな能力を持った人がいるんだ……。
「一時的に祓っただけです。結界を張ったわけじゃないから女が来たらまたすぐ淀んでくるでしょうよ。でもまあ、これで少しは過ごしやすい家になったでしょ」
「れ、麗香さん凄いです……! 信じられない、私驚いて言葉も出ませんでした!」
興奮を伝えるように鼻息荒くして言うと、九条さんが振り返る。
「彼女の実力は保証すると言ったでしょう」
「そ、そうですけど……こんな場面初めて見るんですもん、びっくりして……」
信じてなかったわけじゃないけど、いざ目の前にすると驚いた。まるで見かけと違う。
麗香さんは笑って私を見る。
「まあこれが私の仕事だからね。でもナオが私についてそんなふうに言っててくれたのは嬉しいなー」
「何年の付き合いだと思ってるんです。実力はこの目で見てきました、私は正直に評価しているだけです」
「あはは、ありがとー」
言い合う二人の話を、私は少し俯いて聞いた。私と九条さんなんて知り合ってまだ一ヶ月少しだし、麗香さんとは長い付き合いなんだから二人の間に入れないことは当然だった。それでも、一人で勝手に感じる疎外感は拭えなかった。
二人は一体今までどんな歴史を歩んできたんだろう。何があったんだろう。
仕事中だと言うのに、こんなことばかり考えてしまう私はまだまだ未熟だ。
「あ、朝比奈さんの実力はよく分かりました……なんとか助けていただけませんか、娘だけでも!」
「あー落ち着いてください。除霊って言ってもね、やっぱり相手の事は知らなきゃ。攻める方法も変わってくるからね。今晩すぐ祓ってすぐさようならは流石に私も無理ですよ。ちょっと時間いただけるかしら」
「ええ、ええ、よろしくお願いします……!」
もはやまさこさんと八重さんは拝むようにして麗香さんに手を合わせた。私がお二人の立場でもそうなるだろうなあと思う。
九条さんが颯爽と言った。
「昨晩玄関を映すように撮影しています。まずその確認をしましょう。光さん行きますよ」
「あ、は、はい!」
「私はちょっと家の中見させてもらうわね。失礼しますーっと」
麗香さんはそのまま自分の家のように廊下を進んでいった。まさこさんと八重さんが慌てて追いかける。私と九条さんはモニターが設置してある控室に足を運ぶ。
狭い和室に高性能なモニターは少し浮いているように感じた。私たちはすぐにその前にしゃがみ込み、電源をつける。
玄関には二台、撮影機材を置いておいた。昨晩すりガラス越しにしか分からなかったその姿を鮮明にみるときが来た。
一人納得したように言うと、彼女は近くの白い壁に手を当てた。我々はただその姿を見つめるしかできない。みんなの視線が麗香さんの手先に集中する。ゴールドの細い指輪がはめられた綺麗は手は、愛おしそうに壁を優しく撫でた。
なんとなく誰も言葉を発さないまま麗香さんの次の行動を待った。しんとした静けさの中、彼女は壁に触れていた手をスーツのポケットに伸ばす。はっとしてその姿に注目した。中から出てくるのは数珠か、お札か……
そう脳内で想像していた私たちは目が点になる。彼女が取り出したのは、オシャレな小瓶だった。香水を入れるものだ。
恐る恐る八重さんが尋ねる。
「あのう、朝比奈さん、それは……?」
「え? ああ、塩水よ」
「塩、水ですか? 塩なら分かりますが……」
「塩を撒き散らしたら掃除が面倒じゃない」
あっけらかんと麗香さんはそう言い放ち私たちは唖然とする。塩とは悪しきものを祓う王道の道具だから理解できるが、それがまさかこんなオシャレな小瓶に入って登場するだなんて。
持っている小瓶の蓋を外し、鼻歌でも歌い始めそうな様子でそれを掲げる。もはや美人が香水を振り撒くシーンにしか見えない。
白い壁に向かってほんの僅か、シュッと吹きかけた。それを親指で擦り付ける。優しく壁に染み込ませるように何度か繰り返すと、手に持つ小瓶を再びポケットにいれた。
そして一度彼女は背筋をまっすぐ伸ばした。じっと白い壁紙を見つめたかと思うと、両手を打ち合わせて大きく音を鳴らした。
パン、と手を叩く音が鳴り響く。それはやけに大きく家中に渡ったように思えた。
するとその瞬間、私は異変に気がつく。先ほどまで顔をしかめるほどだったあの匂いが一瞬にして消えたのだ。
「! ……あ、れ?」
言葉に言い表せられない不思議な感覚に包まれる。家中を纏っていた不気味な何かが消え失せ、そこは普通の家のように感じた。その変化は私だけではなく、大川さん親子も感じ取った様子だった。
「え? なんか……」
「家が明るくなったような……?」
戸惑うように呟いたお二人だが、すぐに麗香さんを見つめる。変化の原因に驚愕しているようだった。
麗香さんは満足げに微笑んでいた。
……凄い! あっけに取られる。
私だけではなく、特に何の能力もないはずのお二人すら感じ取れるほどの変化だ。まさか映画や小説で見たような事が現実に起こるだなんて。本当にこんな能力を持った人がいるんだ……。
「一時的に祓っただけです。結界を張ったわけじゃないから女が来たらまたすぐ淀んでくるでしょうよ。でもまあ、これで少しは過ごしやすい家になったでしょ」
「れ、麗香さん凄いです……! 信じられない、私驚いて言葉も出ませんでした!」
興奮を伝えるように鼻息荒くして言うと、九条さんが振り返る。
「彼女の実力は保証すると言ったでしょう」
「そ、そうですけど……こんな場面初めて見るんですもん、びっくりして……」
信じてなかったわけじゃないけど、いざ目の前にすると驚いた。まるで見かけと違う。
麗香さんは笑って私を見る。
「まあこれが私の仕事だからね。でもナオが私についてそんなふうに言っててくれたのは嬉しいなー」
「何年の付き合いだと思ってるんです。実力はこの目で見てきました、私は正直に評価しているだけです」
「あはは、ありがとー」
言い合う二人の話を、私は少し俯いて聞いた。私と九条さんなんて知り合ってまだ一ヶ月少しだし、麗香さんとは長い付き合いなんだから二人の間に入れないことは当然だった。それでも、一人で勝手に感じる疎外感は拭えなかった。
二人は一体今までどんな歴史を歩んできたんだろう。何があったんだろう。
仕事中だと言うのに、こんなことばかり考えてしまう私はまだまだ未熟だ。
「あ、朝比奈さんの実力はよく分かりました……なんとか助けていただけませんか、娘だけでも!」
「あー落ち着いてください。除霊って言ってもね、やっぱり相手の事は知らなきゃ。攻める方法も変わってくるからね。今晩すぐ祓ってすぐさようならは流石に私も無理ですよ。ちょっと時間いただけるかしら」
「ええ、ええ、よろしくお願いします……!」
もはやまさこさんと八重さんは拝むようにして麗香さんに手を合わせた。私がお二人の立場でもそうなるだろうなあと思う。
九条さんが颯爽と言った。
「昨晩玄関を映すように撮影しています。まずその確認をしましょう。光さん行きますよ」
「あ、は、はい!」
「私はちょっと家の中見させてもらうわね。失礼しますーっと」
麗香さんはそのまま自分の家のように廊下を進んでいった。まさこさんと八重さんが慌てて追いかける。私と九条さんはモニターが設置してある控室に足を運ぶ。
狭い和室に高性能なモニターは少し浮いているように感じた。私たちはすぐにその前にしゃがみ込み、電源をつける。
玄関には二台、撮影機材を置いておいた。昨晩すりガラス越しにしか分からなかったその姿を鮮明にみるときが来た。
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