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目覚めない少女たち

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『もしも~し! 伊藤です、九条さんですか?』

 その声を聞いただけで頬が緩むようだった。伊藤さんの明るい笑顔が目に浮かぶ。

「お疲れ様です」

『メールでも送りましたけど中間報告です。時間なかったからまだ全然調べ切れてないですけどー』

「構いません」

『まず学校自体ですが、再度調べてもやっぱりここ最近自殺者はいませんねえ。変な噂とかもありませんでした、古い歴史のある学校だから土地の問題もなさそうですし?
 少し前建て替えしてますけど、工事中も事故などはまるでありませんでした。スムーズそのもの』

「ふむ……」

『あと、ちょっと前に三木田さんから目覚めない子達の簡単な情報をもらいました。明日はこっちを攻めますねー。
 まず一人目、最初の被害者は木下ちか、高校一年。その二日後に江南麻里二年。四日後に佐伯由香一年。最後の被害者は一週間後に植田綾香二年。

 一気にみんな眠って、今は新しい被害者が出るのが止まってる状態ですねー』

「全員女性なのですね」

『ですねえ。たまたまなのか何かあるのか。
 とりあえずこの四人の共通点をなんとか見つけ出したいですが……』

 ほんの数時間でそこまで調べられている伊藤さんの仕事ぶりはさすがと言う感じだ。私は素直に感心する。

 九条さんも一つ頷いてみせる。

「それと伊藤さん、調べ物が一段落したら事務所は閉めていいのでこっちの人手が欲しいのですが」

 九条さんの提案に、伊藤さんの声が不機嫌そうに変わる。

『ええ……? もしや現場ですかあ……?』

「いいえ。生徒たちがいない間しか撮影ができないので、夜設置して朝回収をせねばならないので、中々重労働なのです。お守りはちゃんと持っててくださいね、あなたが眠って目覚めなくなってしまっては困ります」

 伊藤さんは霊を寄せ付けやすいという嫌な体質の持ち主だ。それを利用して調査を進めることも時々あるらしいのだが、今回はその能力は使わないようだ。

 私は九条さんが言った台詞に、一人微笑む。伊藤さんが眠って目覚めなくなったら困る、か。人に無関心に見えるけど、ちゃんと考えてるんだよなあ。

 伊藤さんも電話越しに、やや嬉しそうに声を弾ませた。

『あーそういうことですか! そんなの喜んで! 光ちゃんは女の子ですしねー首吊り会えました?』

「ええたった今。出現場所がバラバラなのでカメラにおさまるかどうか……。窓から飛び降りながら首を吊るという派手なやり方でしたよ」

『ひえ。そんなの鮮明に見ちゃう光ちゃん、ちゃんとフォローしてあげてくださいよ! いつも言ってますけど、怖い思いしながら泊まり込みで調査するなんて逃げ出さないの光ちゃんくらいですよ!』

 伊藤さんの心配そうな声が聞こえる。その声を聞いただけで、胸が温かくなるのを感じた。いつだって優しい気遣いの神様、もうほんとに伊藤さんいい人。

 私は嬉しくなって声を出す。

「ありがとうございます伊藤さん」

『あれ!? 何これスピーカーだったの? 言ってくださいよ九条さーん!』

 どこか恥ずかしそうに慌てた伊藤さんに笑う。さっきのショッキングな映像が吹き飛ぶくらい、彼の癒しパワーに当てられた。
 
『というわけで今日の報告でした! とりあえずこのまま四人について調べ倒しますね、一段落ついたらそっちのヘルプに行きます!』

「ええ、よろしくお願いします」

 九条さんが電話を切り、そのまま無表情で携帯を操作する。そしてしばらくし、私に画面を見せた。

「今眠っている女子達です」

 伊藤さんから添付されてきた情報だった。名前に顔写真、年齢、眠ってしまう前の言動などが書かれていた。私はじっと無言でそれを読み込む。

 四人は至って普通の女子高生という感じだった。眠りにつく前も、登校し習い事にも通い、家族に挨拶を告げて眠りについた、という普段となんら変わりない生活態度であったと記されている。

「光さんから見て何か思うことはありますか」

「え、私ですか……九条さんの方が絶対感も鋭いし細いことにも気付くと思うんですけど」

「いえ、同じ女性同士何か感じることがあるかもしれませんから」

 ずいっと携帯を差し出される。私は困りながら渋々それを再び見直す。私に洞察力ないって前言ったくせに……。

「まあ、あえて言うなら」

「ええ」

 四人それぞれの写真を見比べる。

「どちらかというと、みんな大人しそうな子ですよね」

 自分で言って、なんてくだらない感想を言ってしまったんだろうと後悔した。これじゃあまた呆れられてしまう。

 そう思ったのだが、意外にも九条さんは食いついた。

「大人しそう、ですか? どこを見て?」

「へ? どこ、って言われましても……」

「みな同じ制服で黒髪ではないですか」

「えーと、同じ制服でも着方だったり髪型だったり……。
 ほら、うちに首吊りの証言をしにきた子達。調理部の山田さんと明るい澤井さん、印象全然違うでしょう? 澤井さんはキラキラグループにいそうな。山田さんは真面目そうな子じゃないですか」

「キラキラグループ??」

 少し首を傾げた。あれ、いまいち伝わらない。男の人たちはあまり群れることをしないから想像しにくいのだろうか、それとも単に九条さんが人間関係に疎いからか。

 ……後者かな。

「女はそういうタイプ別に群がる習性があるんですよ。同性から見ればぱっと見でどんなタイプか分かることが多いんです。外れることもありますけど、この四人の子達はとにかく大人しそうな子達だなあって印象です」

「はあ、女性は難しいですね」

 感心したように九条さんが言った。多分この話、伊藤さんなら共感してくれるんだろうけどなあ。九条さん確かにグループだとか気にしなさそうだし。

「……で、今日はどこにカメラを設置するんですか?」

 私は携帯を彼に押し返して尋ねた。機材はあまり多くない、せいぜい四、五ヶ所がいいとこだ。

 携帯をポケットにしまうと、困ったように眉を下げて言う。

「そこですね。これだけ広い校舎で不定期に現れる霊を捉えるのはかなり難しいでしょう。とりあえず、先ほど外から見たように一台は校舎全体を外から映しましょうか。
 あとは……」

「あとは?」

 私が前のめりになってきく。キッパリ断言した。

「適当です」

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