36 / 448
光の入らない部屋と笑わない少女
参戦
しおりを挟む
「おはようございまーす!」
朝、疲れた顔をした私のいる部屋に入ってきた伊藤さんは、両手に沢山紙袋を持っていた。
リナちゃんたちと静かな朝食を取った後、控え室でぐったりしていた私の元に、迎えに行った九条さんと伊藤さんが顔を覗かせた。ちなみに九条さんは全然疲れているそぶりは見えない。
伊藤さんは相変わらずの癒しオーラをまとい笑顔で私を見た。それだけで心が安らぐ。あれだ、伊藤さんって動物の癒し動画と同じものを感じる。
「伊藤さん……! おはようございます……!」
「おはよー! あらら疲れてるねぇ光ちゃん。九条さんと光ちゃんにも差し入れ買ってきたよ、エナジードリンクでも飲んでおきな! 九条さんには着替えとかも持ってきましたよ、もう、光ちゃんみたいに自分で用意してくださいよー」
狭い部屋に一人男性が増えて更に狭くなるが、そんなこと何も気にならなかった。持っていた袋から、食べ物や飲み物などを取り出して並べる。勿論ポッキーはあって、九条さんは一番にそれを手に取って封を開けた。
「今回はエサ要員じゃないらしいから僕ウキウキで来ちゃったよ」
伊藤さんは笑顔で言う。彼はかなり『引き寄せやすい体質』らしく、霊を誘きよすために現場に来ることが時々ある。とてもよく効く御守りで普段は寄せ付けないようにしてるらしいのに、あえてそれを置いてくるらしい。体を張っている。
九条さんはポッキーをかじりながら言う。
「むしろ今回は相手がやや得体の知れない感じがありますから、決して御守りは離さないでください。危害が及ぶ可能性もありますから」
「はーい」
「伊藤さんには私と黒島さんがお手上げのコミュニケーションを」
「僕子供好きですよ~」
想像通りの言葉だった。勝手なイメージだけれど、好きであってほしいと思った。
伊藤さんは困ったように頬をかく。
「……とは言っても、今回は大分訳ありみたいですからねぇ。僕もお役に立てるかどうか。あ、お菓子は色々買ってきました! 経費で」
「はい、ありがとうございます」
「おもちゃとかも考えたけど、九条さん曰く興味なさそうっていうから。話せないっていうし、あんまり期待出来ないと思いますけど……」
自信なさげな伊藤さんに、私は微笑みかける。
「大丈夫ですよ、伊藤さんがダメならきっと人類みんなダメです」
「めちゃくちゃ大袈裟だね」
つい笑ってしまう。だって本当にそう思う、伊藤さんほど柔らかい人って見たことないもの。
……とは言っても、さすがにあのリナちゃん相手では伊藤さんのパワーも無駄になるかなぁ。そう私は思っていた。
この後、伊藤さんパワーに驚愕することとなる。
「うちのスタッフです、伊藤です」
「おはようございます! 伊藤です、岩田さん電話でお話ししましたよね」
リビングに入り、まず伊藤さんは岩田さんに挨拶をした。岩田さんは疲れた顔でダイニングテーブルに座っていた。立ち上がり、丁寧に頭を下げる。
「ああ。電話で対応して頂いた……岩田友子です」
「僕は全然視えないタイプなので雑用ですが、よろしくお願いします」
「はい、お願いします」
伊藤さんは簡単に挨拶だけを済ませると、早速奥の赤いソファに座るリナちゃんを見た。リナちゃんはいつものように犬のぬいぐるみを持ったまま、テレビのアニメを眺めていた。
伊藤さんは買ってきたお菓子を確認し、ゆっくりリナちゃんに近づいた。そして特に許可を取る事なく、彼女の隣にぽすんと腰掛けたのである。
岩田さんと九条さんと私は、それを無言で見ていた。岩田さんは特にハラハラしながら見ているようだった。
伊藤さんはしばらく何も言わずにリナちゃんの隣でアニメを眺めていた。そしてCMに入ったところで、隣のリナちゃんに笑いかけた。
「これ知ってるよ、確か真ん中の赤い女の子がロンドちゃん、だっけ? リボンが可愛いよね」
リナちゃんはゆっくりゆっくり、伊藤さんに振り返る。いつもの無表情で彼を見上げた。
「あ、初めまして。僕は伊藤陽太、九条さんたちのお友達だよ。よろしくねリナちゃん!」
屈託のない笑顔で告げた。リナちゃんは何も返さずただ伊藤さんを見上げている。
笑顔の伊藤さんに無表情のリナちゃん。大変チグハグなコンビがそこにいる。
「このお家で起こっている不思議なことを調べにきたよ。解決したくて。リナちゃんがもし困ってることがあるなら、助けられたらいいなぁ」
「…………」
「あ、僕青のマロンちゃん好きだなー。リナちゃんはやっぱり、ロンドちゃんが好き?」
アニメについて、調べてきたのだろうか。気がきく彼ならありえると思った。
そしてそのアニメトークに気が緩んだのだろうか。まさかのリナちゃんは、ほんのわずかにだが小さく頷いたのだ。
……え、今、頷いた!? フィナンシェないのに!?
私は目を擦って二人を見つめ直した。嘘だ、まさかそんな!
伊藤さんはニコニコしながら続けた。
「そっかー可愛いよね! あ、そうそう、お土産持ってきたんだ。甘いものは好き?」
リナちゃんは再び小さく頷いた。
「よかった! チョコレートとかケーキとか、僕も好きだからたくさん買っちゃった。一緒に食べていい?」
頷く。
「あ、食べ過ぎはダメだよね、あとで歯磨きしようね~」
しっかり頷いた。
……信じられない。
私は驚愕の目で彼を見た。
伊藤さんは凄い人だ、優しいし可愛らしいし、気がきくし温かいオーラだし。大体の人は彼に会うとほほが緩むはずだと分かってはいる。
でもでも、まさかあのリナちゃんもこんな短時間で打ち解ける!? まだ会って数分じゃない、せめて時間かかって打ち解けるなら分かるけど!
朝、疲れた顔をした私のいる部屋に入ってきた伊藤さんは、両手に沢山紙袋を持っていた。
リナちゃんたちと静かな朝食を取った後、控え室でぐったりしていた私の元に、迎えに行った九条さんと伊藤さんが顔を覗かせた。ちなみに九条さんは全然疲れているそぶりは見えない。
伊藤さんは相変わらずの癒しオーラをまとい笑顔で私を見た。それだけで心が安らぐ。あれだ、伊藤さんって動物の癒し動画と同じものを感じる。
「伊藤さん……! おはようございます……!」
「おはよー! あらら疲れてるねぇ光ちゃん。九条さんと光ちゃんにも差し入れ買ってきたよ、エナジードリンクでも飲んでおきな! 九条さんには着替えとかも持ってきましたよ、もう、光ちゃんみたいに自分で用意してくださいよー」
狭い部屋に一人男性が増えて更に狭くなるが、そんなこと何も気にならなかった。持っていた袋から、食べ物や飲み物などを取り出して並べる。勿論ポッキーはあって、九条さんは一番にそれを手に取って封を開けた。
「今回はエサ要員じゃないらしいから僕ウキウキで来ちゃったよ」
伊藤さんは笑顔で言う。彼はかなり『引き寄せやすい体質』らしく、霊を誘きよすために現場に来ることが時々ある。とてもよく効く御守りで普段は寄せ付けないようにしてるらしいのに、あえてそれを置いてくるらしい。体を張っている。
九条さんはポッキーをかじりながら言う。
「むしろ今回は相手がやや得体の知れない感じがありますから、決して御守りは離さないでください。危害が及ぶ可能性もありますから」
「はーい」
「伊藤さんには私と黒島さんがお手上げのコミュニケーションを」
「僕子供好きですよ~」
想像通りの言葉だった。勝手なイメージだけれど、好きであってほしいと思った。
伊藤さんは困ったように頬をかく。
「……とは言っても、今回は大分訳ありみたいですからねぇ。僕もお役に立てるかどうか。あ、お菓子は色々買ってきました! 経費で」
「はい、ありがとうございます」
「おもちゃとかも考えたけど、九条さん曰く興味なさそうっていうから。話せないっていうし、あんまり期待出来ないと思いますけど……」
自信なさげな伊藤さんに、私は微笑みかける。
「大丈夫ですよ、伊藤さんがダメならきっと人類みんなダメです」
「めちゃくちゃ大袈裟だね」
つい笑ってしまう。だって本当にそう思う、伊藤さんほど柔らかい人って見たことないもの。
……とは言っても、さすがにあのリナちゃん相手では伊藤さんのパワーも無駄になるかなぁ。そう私は思っていた。
この後、伊藤さんパワーに驚愕することとなる。
「うちのスタッフです、伊藤です」
「おはようございます! 伊藤です、岩田さん電話でお話ししましたよね」
リビングに入り、まず伊藤さんは岩田さんに挨拶をした。岩田さんは疲れた顔でダイニングテーブルに座っていた。立ち上がり、丁寧に頭を下げる。
「ああ。電話で対応して頂いた……岩田友子です」
「僕は全然視えないタイプなので雑用ですが、よろしくお願いします」
「はい、お願いします」
伊藤さんは簡単に挨拶だけを済ませると、早速奥の赤いソファに座るリナちゃんを見た。リナちゃんはいつものように犬のぬいぐるみを持ったまま、テレビのアニメを眺めていた。
伊藤さんは買ってきたお菓子を確認し、ゆっくりリナちゃんに近づいた。そして特に許可を取る事なく、彼女の隣にぽすんと腰掛けたのである。
岩田さんと九条さんと私は、それを無言で見ていた。岩田さんは特にハラハラしながら見ているようだった。
伊藤さんはしばらく何も言わずにリナちゃんの隣でアニメを眺めていた。そしてCMに入ったところで、隣のリナちゃんに笑いかけた。
「これ知ってるよ、確か真ん中の赤い女の子がロンドちゃん、だっけ? リボンが可愛いよね」
リナちゃんはゆっくりゆっくり、伊藤さんに振り返る。いつもの無表情で彼を見上げた。
「あ、初めまして。僕は伊藤陽太、九条さんたちのお友達だよ。よろしくねリナちゃん!」
屈託のない笑顔で告げた。リナちゃんは何も返さずただ伊藤さんを見上げている。
笑顔の伊藤さんに無表情のリナちゃん。大変チグハグなコンビがそこにいる。
「このお家で起こっている不思議なことを調べにきたよ。解決したくて。リナちゃんがもし困ってることがあるなら、助けられたらいいなぁ」
「…………」
「あ、僕青のマロンちゃん好きだなー。リナちゃんはやっぱり、ロンドちゃんが好き?」
アニメについて、調べてきたのだろうか。気がきく彼ならありえると思った。
そしてそのアニメトークに気が緩んだのだろうか。まさかのリナちゃんは、ほんのわずかにだが小さく頷いたのだ。
……え、今、頷いた!? フィナンシェないのに!?
私は目を擦って二人を見つめ直した。嘘だ、まさかそんな!
伊藤さんはニコニコしながら続けた。
「そっかー可愛いよね! あ、そうそう、お土産持ってきたんだ。甘いものは好き?」
リナちゃんは再び小さく頷いた。
「よかった! チョコレートとかケーキとか、僕も好きだからたくさん買っちゃった。一緒に食べていい?」
頷く。
「あ、食べ過ぎはダメだよね、あとで歯磨きしようね~」
しっかり頷いた。
……信じられない。
私は驚愕の目で彼を見た。
伊藤さんは凄い人だ、優しいし可愛らしいし、気がきくし温かいオーラだし。大体の人は彼に会うとほほが緩むはずだと分かってはいる。
でもでも、まさかあのリナちゃんもこんな短時間で打ち解ける!? まだ会って数分じゃない、せめて時間かかって打ち解けるなら分かるけど!
22
お気に入りに追加
532
あなたにおすすめの小説
小説家になるための戦略ノート
坂崎文明
エッセイ・ノンフィクション
小説家になるための戦略ノートです。『弱者のランチェスター戦略』を中心にして、小説を読んでもらうための『ウェブ戦略』なども交えて書いていきます。具体的な実践記録や、創作のノウハウ、人生戦略なども書いていきたいと思います。最近では、本を売るためのアマゾンキャンペーン戦略のお話、小説新人賞への応募、人気作品のネタ元考察もやってます。面白い小説を書く方法、「小説家になろう」のランキング上位にいく方法、新人賞で大賞を取る方法を考えることがこのエッセイの使命なんでしょうね。
小説家になろうに連載されてた物に『あとがき』がついたものです。
https://ncode.syosetu.com/n4163bx/
誤字脱字修正目的の転載というか、周りが小説家デビューしていくのに、未だにデビューできてない自分への反省を込めて読み直してみようかと思います。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?
悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました!
スパダリ(本人の希望)な従者と、ちっちゃくて可愛い悪役令息の、溺愛無双なお話です。
ハードな境遇も利用して元気にほのぼのコメディです! たぶん!(笑)
今さら、私に構わないでください
ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。
彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。
愛し合う二人の前では私は悪役。
幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。
しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……?
タイトル変更しました。
噂好きのローレッタ
水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。
ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。
※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです)
※小説家になろうにも掲載しています
◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました
(旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。