上 下
76 / 78

増えた家族

しおりを挟む


 あと別に知りたいと思っていなかったのだが、和人について。

 後々彼本人の口を割らせたところ、まず私と玲への失言をした直後、ぶちぎれた玲のおかげで彼は左遷させられそうになっていたらしい。まあ、取引先の後継ぎとその妻に暴言を吐いて怒らせたのだから、当然と言える。

 仕事にはプライドを持っていた彼が困っているとこに、メロン登場。どこかで全てをしっていたメロンは、私を誘惑してくれれば、金城家が良い条件で雇ってあげると言ったそうな。

 和人は乗る。私に近づく。

 それがバレる。玲、再度ご立腹。メロン、和人を庇わない。

 というわけで、結局やつは、やりがいのあった仕事を奪われ左遷されてしまったそうな。彼女? どうなったか興味はない。

 この二週間でこれだけの事が起きた。勇太の元に来るのが遅くなってしまったのもしょうがないだろう。



「なんか、あんまりびっくりしてないね?」

 私が不思議に思い言うと、勇太は頷いた。

「なんかそうなりそうな気がしてた」

「なんで!? エスパー!?」

「途中から二階堂さんが一緒に寝なくなったーって愚痴聞いた辺りで。意識されてるんじゃん、って」

「頭いいな勇太」

 彼は笑う。黙っていた玲が、勇太に言った。

「舞香の家族は弟だけだ、だから挨拶に来た」

「挨拶なんて。元々、借金のせいで連れていかれそうになった姉を助けてくれて。そりゃ最初はその代わりに結婚、なんて条件に驚きましたけど、姉から話を聞いて安心してたんです。ちゃんと大事にされてるっぽかったから。こうなってよかったと俺は思ってるんです」

 静かに勇太が言うと、玲が私に怪訝な顔をして囁いた。

「今更だけど本当にお前の弟? お前よりしっかりしてるし行儀もいい」

「よく言われる」

「ゴリラと人間って感じ」

 玲の頬を思いきりつねってやった。この口は結婚しても変わらないな、本当に。

 だが勇太が心配そうな顔をして言う。

「でも本当に姉で大丈夫ですか? 寝言めちゃくちゃうるさくないですか」

「あーうるさい」

「色気ないし口も悪いんですよ」

「よく分かってるな弟」

「料理はまあできますけど、基本雑ですよ」

「それもほんとそう」

 なぜ二人は私の悪口で盛り上がっているのだ。目を座らせて睨みつける。

「玲だって性格悪いし口も悪いんだよ! 家事出来ないしさあ! 人の事言える!?」

「お似合いってことだろうが」

 私達夫婦を見て、勇太が声をあげて笑った。そして、どこか安心したように言う。

「うん、本当に仲良さそうでよかったです。俺の家もこんないい所用意してもらってるし、感謝してもしきれません」

「勇太、一年後にはまた一緒に暮らすつもりだったよね!? 寂しくない? なんなら私たちの家に来ても」

「冗談。新婚の家になんて住みたくねーし。一人暮らし楽しいから。受験さえ終われば俺もバイトするから」

 寂しくないのか。私は頬を膨らませる。ブラコンの自分は、勇太と一緒に暮らせないのがちょっと寂しかったんだけどなあ。でもまあ、年頃の男の子からすれば姉と二人暮らしより、一人の方が楽しいに決まってるよね。

 私は頷いた。

「時々様子見にくるし、勇太も遊びにおいで」

「うん、受験終わったらゆっくり遊びに行くよ。二階堂さん」

 勇太は玲を見た。そして、ゆっくり頭を下げる。

「姉を選んでくれてありがとうございます。こんな姉ですけど、小さい頃から俺のせいで自分を後回しにしてきた人で、努力もたくさんしてきた大事な姉です。必ず幸せにしてください」

「勇太……」

「ちょっとがさつだけど、その分強いし優しいです。俺が保証します」

「やめてよお、泣いちゃうじゃん!!」

 ぶわっと涙が出てくる。幼い頃から肩を寄せ合って二人で生きてきた勇太が、大人になってるなと感じたのだ。それに、私をそんなふうに思ってくれたなんて。

 玲は茶化すことはせず、しっかりと答えた。

「絶対に舞香を裏切るようなことはしません」

「よろしくお願いします」

「勇太も、受験終わったらぱーっと羽を伸ばすぞ。三人で旅行とか」

「勘弁してください、新婚旅行についていきたくないですよ」

「俺らが新婚旅行できゃっきゃすると思うか? いつでもこのノリだから安心しろ」

 二人は楽しそうに話している。仲良くなってくれそうで安心した。まあ、元々玲は勇太の事も気にかけてくれていたし、大事にしてくれると思う。

 家族が増えた。
 
 勇太と二人きりだった家族に、玲が加わったのだ。私は目を細めて二人を眺める。

 今までの人生、思い出したくもないシーンがたくさんあったけれど、それでも今こうして幸せが目の前にあるのなら、全て必要なものだったとも思えた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜

長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。 幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。 そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。 けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?! 元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。 他サイトにも投稿しています。

シングルマザーになったら執着されています。

金柑乃実
恋愛
佐山咲良はアメリカで勉強する日本人。 同じ大学で学ぶ2歳上の先輩、神川拓海に出会い、恋に落ちる。 初めての大好きな人に、芽生えた大切な命。 幸せに浸る彼女の元に現れたのは、神川拓海の母親だった。 彼女の言葉により、咲良は大好きな人のもとを去ることを決意する。 新たに出会う人々と愛娘に支えられ、彼女は成長していく。 しかし彼は、諦めてはいなかった。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

処理中です...