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増えた家族
しおりを挟むあと別に知りたいと思っていなかったのだが、和人について。
後々彼本人の口を割らせたところ、まず私と玲への失言をした直後、ぶちぎれた玲のおかげで彼は左遷させられそうになっていたらしい。まあ、取引先の後継ぎとその妻に暴言を吐いて怒らせたのだから、当然と言える。
仕事にはプライドを持っていた彼が困っているとこに、メロン登場。どこかで全てをしっていたメロンは、私を誘惑してくれれば、金城家が良い条件で雇ってあげると言ったそうな。
和人は乗る。私に近づく。
それがバレる。玲、再度ご立腹。メロン、和人を庇わない。
というわけで、結局やつは、やりがいのあった仕事を奪われ左遷されてしまったそうな。彼女? どうなったか興味はない。
この二週間でこれだけの事が起きた。勇太の元に来るのが遅くなってしまったのもしょうがないだろう。
「なんか、あんまりびっくりしてないね?」
私が不思議に思い言うと、勇太は頷いた。
「なんかそうなりそうな気がしてた」
「なんで!? エスパー!?」
「途中から二階堂さんが一緒に寝なくなったーって愚痴聞いた辺りで。意識されてるんじゃん、って」
「頭いいな勇太」
彼は笑う。黙っていた玲が、勇太に言った。
「舞香の家族は弟だけだ、だから挨拶に来た」
「挨拶なんて。元々、借金のせいで連れていかれそうになった姉を助けてくれて。そりゃ最初はその代わりに結婚、なんて条件に驚きましたけど、姉から話を聞いて安心してたんです。ちゃんと大事にされてるっぽかったから。こうなってよかったと俺は思ってるんです」
静かに勇太が言うと、玲が私に怪訝な顔をして囁いた。
「今更だけど本当にお前の弟? お前よりしっかりしてるし行儀もいい」
「よく言われる」
「ゴリラと人間って感じ」
玲の頬を思いきりつねってやった。この口は結婚しても変わらないな、本当に。
だが勇太が心配そうな顔をして言う。
「でも本当に姉で大丈夫ですか? 寝言めちゃくちゃうるさくないですか」
「あーうるさい」
「色気ないし口も悪いんですよ」
「よく分かってるな弟」
「料理はまあできますけど、基本雑ですよ」
「それもほんとそう」
なぜ二人は私の悪口で盛り上がっているのだ。目を座らせて睨みつける。
「玲だって性格悪いし口も悪いんだよ! 家事出来ないしさあ! 人の事言える!?」
「お似合いってことだろうが」
私達夫婦を見て、勇太が声をあげて笑った。そして、どこか安心したように言う。
「うん、本当に仲良さそうでよかったです。俺の家もこんないい所用意してもらってるし、感謝してもしきれません」
「勇太、一年後にはまた一緒に暮らすつもりだったよね!? 寂しくない? なんなら私たちの家に来ても」
「冗談。新婚の家になんて住みたくねーし。一人暮らし楽しいから。受験さえ終われば俺もバイトするから」
寂しくないのか。私は頬を膨らませる。ブラコンの自分は、勇太と一緒に暮らせないのがちょっと寂しかったんだけどなあ。でもまあ、年頃の男の子からすれば姉と二人暮らしより、一人の方が楽しいに決まってるよね。
私は頷いた。
「時々様子見にくるし、勇太も遊びにおいで」
「うん、受験終わったらゆっくり遊びに行くよ。二階堂さん」
勇太は玲を見た。そして、ゆっくり頭を下げる。
「姉を選んでくれてありがとうございます。こんな姉ですけど、小さい頃から俺のせいで自分を後回しにしてきた人で、努力もたくさんしてきた大事な姉です。必ず幸せにしてください」
「勇太……」
「ちょっとがさつだけど、その分強いし優しいです。俺が保証します」
「やめてよお、泣いちゃうじゃん!!」
ぶわっと涙が出てくる。幼い頃から肩を寄せ合って二人で生きてきた勇太が、大人になってるなと感じたのだ。それに、私をそんなふうに思ってくれたなんて。
玲は茶化すことはせず、しっかりと答えた。
「絶対に舞香を裏切るようなことはしません」
「よろしくお願いします」
「勇太も、受験終わったらぱーっと羽を伸ばすぞ。三人で旅行とか」
「勘弁してください、新婚旅行についていきたくないですよ」
「俺らが新婚旅行できゃっきゃすると思うか? いつでもこのノリだから安心しろ」
二人は楽しそうに話している。仲良くなってくれそうで安心した。まあ、元々玲は勇太の事も気にかけてくれていたし、大事にしてくれると思う。
家族が増えた。
勇太と二人きりだった家族に、玲が加わったのだ。私は目を細めて二人を眺める。
今までの人生、思い出したくもないシーンがたくさんあったけれど、それでも今こうして幸せが目の前にあるのなら、全て必要なものだったとも思えた。
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