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次のバトルは
しおりを挟む玲と暮らし始めて、二か月以上が経っていた。
ここ最近は穏やかな日々を送っている。私は相変わらず畑山さんに色々学び、勉強する日々が続いている。それでも初めに比べれば知識も増えてきたので、学びに楽しみも見つけられる余裕が出てきていた。
食事会以降、マミーたちから何も連絡はなく静かだ。だが、これは嵐の前の静けさだと思っている。特にマミーとメロンが大人しくしているはずもなく、必ずどこかから私を攻撃するのだと覚悟しているからだ。
玲とは相変わらずの関係で、仕事に忙しい彼が帰宅後、夕食を食べてだらだらする、休日は時折買い物や食事に出かける、の繰り返しだ。何も大きく変わったことはない。
誕生日の時やけに素直で可愛かった奴は、翌日にはいつも通りの性悪男に戻っていたし、あれ以降手をつなぐなんてこともしていない。相変わらず仕事が忙しいのか、いくら言っても睡眠時間を増やそうとはせず、頑固な男だと困っているくらいだった。
その日、私は普段通り家で過ごしていた。畑山さんと勉強し、その後彼女が帰宅する。一人で本を読みながら学んでいる時、自分のスマホが鳴り響いた。見てみると玲からの着信で、珍しいこともあるもんだと思いつつ出てみる。
「もしもし?」
『今何してる?』
「別に、家でいつも通り勉強してますが」
『母親が、少しだけお前に会いたいって言うんだ。短時間で終わるって言うから、悪いけど来てくれないか。会社でいいらしい。俺ももちろん同席する』
「へえ……なんだろう」
やっと来たか、と思った。いつ動き出すか分からないとびくびくしていた。玲の会社で少しだけ会うだなんて、一体何を考えているんだろう。油断はならない。
「分かった、すぐに行く」
『急がなくていい。ちゃんと身だしなみは気を付けろ』
「さすがに分かってるよ」
『受付には言っておくから、名前を言え。タクシーを使えばいい。気を付けてこい』
玲はそれだけ言うと電話を切った。私は立ち上がり、まずはすっぴんの顔を何とかせねばと、慌てて寝室へ行く。平日は相変わらず適当な恰好なのだ。着替えなども終え、早速マンションから出た。言われた通りタクシーを捕まえて乗り込んだ。貧乏生活の頃は、タクシーなんて贅沢品だと思って使えなかったのになあ。
少し走らせると、玲の会社はすぐに見えた。実は会社に来るのは初めてのことなので、緊張してしまう。二階堂という会社は本当に大きく、別世界のように思えた。たくさんの人が行き交うこの会社を、玲がいつかは継ぐんだと思うと、今更ながら彼の凄さを思い知る。
言われた通り受付で名前を言うと、少しして圭吾さんがやってくる。見慣れた顔にほっとし、表情が緩んだ。
「舞香さん、お待たせしました!」
「いえ、圭吾さんお疲れ様です」
「こちらへどうぞ」
二人で歩き、エレベーターに乗り込む。そわそわして周りを観察したい気持ちだが、必死に抑えて平然と努める。私は玲の妻なのだから、周りから見られても恥ずかしくない言動を心掛けねば。初めて玲のマンションに行った時はアホ面してしまい彼に注意されたが、今はあんな失態は犯さない。
ピカピカに磨かれた廊下を進んでいくと、応接室に辿り着いた。圭吾さんが小声で言う。
「なんの用件か、教えてくれないんですよね奥様」
「うーん、喧嘩を売りに来てるとは思うんですけど」
「はは! 玲さんは先に中にいるので、どうぞ。頑張ってください」
圭吾さんが励ましてくれる。私は頷き、一つ深呼吸をすると、部屋の戸をノックした。
「どうぞ」
中から玲の声がする。それを聞いただけでも、緊張は少し落ち着いた。私は丁寧に戸を開く。すぐに視界に入ってきた光景に、内心舌打ちした。
またメロンつきか。
ゆっくりと頭を下げる。
「お義母さま、お待たせして申し訳ありません」
玲の向かいに腰かけているのは、勿論マミーだ。その横に、赤いリップで唇を彩らせている楓さんもいた。二人はセットらしい。
マミーは合い変わらず厳しい表情で私を見ていた。あの視線、浴びるの一か月ぶりだなあ。闘争心が燃えるってもんだ。
私は玲の隣りに移動し腰かける。マミーがふうとため息をついて言った。
「本当に待ちましたが、まあアポイントも取らず来てしまったのはこちらなので、仕方ないですね」
お、どうした? 常識人みたいな発言をしているぞ?
私は笑顔で問いかける。
「今日はどうなさったんですか? 楓さんもご一緒だなんて」
ちらりと見ると、楓さんは敵意を隠そうともせず、冷たい目で私を見ていた。そんな横で、マミーが鞄から何かを取り出す。白い紙のようだった。それを机の上に置き、私の方に滑らせる。
「二階堂の嫁ならば、それに参加しないといけませんからね」
「これは……?」
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