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元婚約者登場

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 目が回るくらいの忙しさだがなんとか堪える。次から次へと人が沸き私たちを興味津々の顔で見てくる。挨拶がまだまだ続くと思われたが、玲が一旦流れを切った。そして私の手を引き会場にセットしてあったマイクを手に取る。彼はそのまま、突然スピーカー越しに挨拶をした。

「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。もうお聞きになられたかと思いますが、私は大切な女性と入籍いたしました。妻の舞香です」

 私はとりあえず頭を深々と下げた。玲は続ける。

「かなり無理やりな結婚だった自覚はあります。彼女は私の小学生の頃の同級生で、実は初恋の人なのです」

 おおっと会場が沸いた。なんと、そういう設定で行くか。ここの人たちに教えてあげたいよ、私の事をゴリラだの貧乳だのと貶してくる姿を。

「再会に心躍りました。どうしても舞香と結婚したかった。反対される道だと分かり切っていました、でも私は舞香に幸せにすると約束しました。彼女も同じように、私を支えると約束してくれました。まだまだ未熟な私達ですが、二階堂を担う身としてこれから精進いたします。皆様のお力を貸していただければと思います」

 どこからともなく拍手が沸き起こった。私はゆっくり目玉を転がせて人々の表情を盗み見る。なるほど、風早さんを筆頭に本当に祝福してくれてる人、それにつられてなんとなく拍手している人、あまり快く思っていないけどとりあえず手を叩いてる人の三種類に分けられた。まあ妥当な反応だろう。

 玲はそのまま乾杯の挨拶へと移った。私は隣ですました顔をしているが、隣の男が家とはまるで違い、取り仕切るのも人と関わるのも格段に上手いことに素直に感心していた。やっぱり小さな頃から跡取りとして教育された人間は違うな、と思ったのだ。

 家での様子とはまるで別人だよ、ほんとに……。

 挨拶が終わると和やかに自由な時間が流れた。とはいえ、やはり私たちに挨拶しに来てくれる人たちの対応に追われ続けた。一人一人必死に誰なのか資料を思い出し、丁寧に返事を返した。その様子を、じっと後ろから玲のご両親が見ていることには気がついていた。

 そのままどれくらい時間が経ったのか分からなかったが、疲労感が出てきて頬も引きつりだしたころ。繰り返し挨拶をしている中で、突然玲が私の腰を抱き寄せる場面があった。

 本当に突然の事なので驚いたが、まさかここで嫌がるそぶりなど見せられるわけがない。不思議に思いながらそっと隣を見上げてみると、玲の目が厳しく光っていることに気が付いた。

「玲?」

 声を掛けたとき、向こうから私たちを呼ぶ声がした。

「玲さん、まさかご結婚されたとは」

「ええ、とーっても驚きましたよ」

 見てみると、上品そうな夫婦が立っていた。女性は着物を着ている。優しそうで穏やかそうな人だ。男性も、殆ど目の奥が見えないほど細い目をした、柔らかな表情をしている。

「金城さん、今日は出席できないと伺っておりましたが」

「ええ、予定があったんですがキャンセルしました。来ないわけにはいかないでしょう、まさか玲さんの結婚報告パーティーになるなんてね」

 着物のおばさんがふふふっと笑う。細目の男性も同意した。

「ああ、本当にびっくりした。先週あなたのご両親から連絡を貰うまで寝耳に水で」

「ええ、本当に信じられないわ」

 口をそろえてそう言った夫婦は笑いながらそう言ったが、私はその光景に何やら得体のしれぬ恐怖を感じた。

 こんなに穏やかに、にこやかに喋っているのに、二人ともどこかおかしい。上手く説明できないが、言葉の裏に何か冷たい物を感じるのだ。それは私の心がひやっと冷えてくるほどの。

 この二人は確か……金城さんって言ったっけ。そんな人たちいただろうか? 玲の発言から聞くに、元々来れなかったはずの人達が急遽参加したらしいから、私に渡された資料にはいなかったのかもしれない。それにしても、玲もどことなく緊張しているような……

「娘も来ていますよ。楓!」

 おばさんが言ったのを聞いてハッとする。楓? 楓って、まさか。

 すっと誰かがこちらに歩み寄った。赤いドレスを着た、非常に目を引く女性だった。

 しっかり巻いた髪に伸ばされたまつ毛。光る唇の横に、ホクロがあるのが印象的だった。それに、着ているドレスの胸元は派手に開いている。

 甘たるい声で、楓と呼ばれた人は玲に挨拶をした。

「玲さん。ご無沙汰しております、あなたと結婚するはずだった楓です」


 このまま意識を失って倒れたい、と思った。

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