22 / 78
元婚約者登場
しおりを挟む
目が回るくらいの忙しさだがなんとか堪える。次から次へと人が沸き私たちを興味津々の顔で見てくる。挨拶がまだまだ続くと思われたが、玲が一旦流れを切った。そして私の手を引き会場にセットしてあったマイクを手に取る。彼はそのまま、突然スピーカー越しに挨拶をした。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。もうお聞きになられたかと思いますが、私は大切な女性と入籍いたしました。妻の舞香です」
私はとりあえず頭を深々と下げた。玲は続ける。
「かなり無理やりな結婚だった自覚はあります。彼女は私の小学生の頃の同級生で、実は初恋の人なのです」
おおっと会場が沸いた。なんと、そういう設定で行くか。ここの人たちに教えてあげたいよ、私の事をゴリラだの貧乳だのと貶してくる姿を。
「再会に心躍りました。どうしても舞香と結婚したかった。反対される道だと分かり切っていました、でも私は舞香に幸せにすると約束しました。彼女も同じように、私を支えると約束してくれました。まだまだ未熟な私達ですが、二階堂を担う身としてこれから精進いたします。皆様のお力を貸していただければと思います」
どこからともなく拍手が沸き起こった。私はゆっくり目玉を転がせて人々の表情を盗み見る。なるほど、風早さんを筆頭に本当に祝福してくれてる人、それにつられてなんとなく拍手している人、あまり快く思っていないけどとりあえず手を叩いてる人の三種類に分けられた。まあ妥当な反応だろう。
玲はそのまま乾杯の挨拶へと移った。私は隣ですました顔をしているが、隣の男が家とはまるで違い、取り仕切るのも人と関わるのも格段に上手いことに素直に感心していた。やっぱり小さな頃から跡取りとして教育された人間は違うな、と思ったのだ。
家での様子とはまるで別人だよ、ほんとに……。
挨拶が終わると和やかに自由な時間が流れた。とはいえ、やはり私たちに挨拶しに来てくれる人たちの対応に追われ続けた。一人一人必死に誰なのか資料を思い出し、丁寧に返事を返した。その様子を、じっと後ろから玲のご両親が見ていることには気がついていた。
そのままどれくらい時間が経ったのか分からなかったが、疲労感が出てきて頬も引きつりだしたころ。繰り返し挨拶をしている中で、突然玲が私の腰を抱き寄せる場面があった。
本当に突然の事なので驚いたが、まさかここで嫌がるそぶりなど見せられるわけがない。不思議に思いながらそっと隣を見上げてみると、玲の目が厳しく光っていることに気が付いた。
「玲?」
声を掛けたとき、向こうから私たちを呼ぶ声がした。
「玲さん、まさかご結婚されたとは」
「ええ、とーっても驚きましたよ」
見てみると、上品そうな夫婦が立っていた。女性は着物を着ている。優しそうで穏やかそうな人だ。男性も、殆ど目の奥が見えないほど細い目をした、柔らかな表情をしている。
「金城さん、今日は出席できないと伺っておりましたが」
「ええ、予定があったんですがキャンセルしました。来ないわけにはいかないでしょう、まさか玲さんの結婚報告パーティーになるなんてね」
着物のおばさんがふふふっと笑う。細目の男性も同意した。
「ああ、本当にびっくりした。先週あなたのご両親から連絡を貰うまで寝耳に水で」
「ええ、本当に信じられないわ」
口をそろえてそう言った夫婦は笑いながらそう言ったが、私はその光景に何やら得体のしれぬ恐怖を感じた。
こんなに穏やかに、にこやかに喋っているのに、二人ともどこかおかしい。上手く説明できないが、言葉の裏に何か冷たい物を感じるのだ。それは私の心がひやっと冷えてくるほどの。
この二人は確か……金城さんって言ったっけ。そんな人たちいただろうか? 玲の発言から聞くに、元々来れなかったはずの人達が急遽参加したらしいから、私に渡された資料にはいなかったのかもしれない。それにしても、玲もどことなく緊張しているような……
「娘も来ていますよ。楓!」
おばさんが言ったのを聞いてハッとする。楓? 楓って、まさか。
すっと誰かがこちらに歩み寄った。赤いドレスを着た、非常に目を引く女性だった。
しっかり巻いた髪に伸ばされたまつ毛。光る唇の横に、ホクロがあるのが印象的だった。それに、着ているドレスの胸元は派手に開いている。
甘たるい声で、楓と呼ばれた人は玲に挨拶をした。
「玲さん。ご無沙汰しております、あなたと結婚するはずだった楓です」
このまま意識を失って倒れたい、と思った。
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。もうお聞きになられたかと思いますが、私は大切な女性と入籍いたしました。妻の舞香です」
私はとりあえず頭を深々と下げた。玲は続ける。
「かなり無理やりな結婚だった自覚はあります。彼女は私の小学生の頃の同級生で、実は初恋の人なのです」
おおっと会場が沸いた。なんと、そういう設定で行くか。ここの人たちに教えてあげたいよ、私の事をゴリラだの貧乳だのと貶してくる姿を。
「再会に心躍りました。どうしても舞香と結婚したかった。反対される道だと分かり切っていました、でも私は舞香に幸せにすると約束しました。彼女も同じように、私を支えると約束してくれました。まだまだ未熟な私達ですが、二階堂を担う身としてこれから精進いたします。皆様のお力を貸していただければと思います」
どこからともなく拍手が沸き起こった。私はゆっくり目玉を転がせて人々の表情を盗み見る。なるほど、風早さんを筆頭に本当に祝福してくれてる人、それにつられてなんとなく拍手している人、あまり快く思っていないけどとりあえず手を叩いてる人の三種類に分けられた。まあ妥当な反応だろう。
玲はそのまま乾杯の挨拶へと移った。私は隣ですました顔をしているが、隣の男が家とはまるで違い、取り仕切るのも人と関わるのも格段に上手いことに素直に感心していた。やっぱり小さな頃から跡取りとして教育された人間は違うな、と思ったのだ。
家での様子とはまるで別人だよ、ほんとに……。
挨拶が終わると和やかに自由な時間が流れた。とはいえ、やはり私たちに挨拶しに来てくれる人たちの対応に追われ続けた。一人一人必死に誰なのか資料を思い出し、丁寧に返事を返した。その様子を、じっと後ろから玲のご両親が見ていることには気がついていた。
そのままどれくらい時間が経ったのか分からなかったが、疲労感が出てきて頬も引きつりだしたころ。繰り返し挨拶をしている中で、突然玲が私の腰を抱き寄せる場面があった。
本当に突然の事なので驚いたが、まさかここで嫌がるそぶりなど見せられるわけがない。不思議に思いながらそっと隣を見上げてみると、玲の目が厳しく光っていることに気が付いた。
「玲?」
声を掛けたとき、向こうから私たちを呼ぶ声がした。
「玲さん、まさかご結婚されたとは」
「ええ、とーっても驚きましたよ」
見てみると、上品そうな夫婦が立っていた。女性は着物を着ている。優しそうで穏やかそうな人だ。男性も、殆ど目の奥が見えないほど細い目をした、柔らかな表情をしている。
「金城さん、今日は出席できないと伺っておりましたが」
「ええ、予定があったんですがキャンセルしました。来ないわけにはいかないでしょう、まさか玲さんの結婚報告パーティーになるなんてね」
着物のおばさんがふふふっと笑う。細目の男性も同意した。
「ああ、本当にびっくりした。先週あなたのご両親から連絡を貰うまで寝耳に水で」
「ええ、本当に信じられないわ」
口をそろえてそう言った夫婦は笑いながらそう言ったが、私はその光景に何やら得体のしれぬ恐怖を感じた。
こんなに穏やかに、にこやかに喋っているのに、二人ともどこかおかしい。上手く説明できないが、言葉の裏に何か冷たい物を感じるのだ。それは私の心がひやっと冷えてくるほどの。
この二人は確か……金城さんって言ったっけ。そんな人たちいただろうか? 玲の発言から聞くに、元々来れなかったはずの人達が急遽参加したらしいから、私に渡された資料にはいなかったのかもしれない。それにしても、玲もどことなく緊張しているような……
「娘も来ていますよ。楓!」
おばさんが言ったのを聞いてハッとする。楓? 楓って、まさか。
すっと誰かがこちらに歩み寄った。赤いドレスを着た、非常に目を引く女性だった。
しっかり巻いた髪に伸ばされたまつ毛。光る唇の横に、ホクロがあるのが印象的だった。それに、着ているドレスの胸元は派手に開いている。
甘たるい声で、楓と呼ばれた人は玲に挨拶をした。
「玲さん。ご無沙汰しております、あなたと結婚するはずだった楓です」
このまま意識を失って倒れたい、と思った。
2
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
シングルマザーになったら執着されています。
金柑乃実
恋愛
佐山咲良はアメリカで勉強する日本人。
同じ大学で学ぶ2歳上の先輩、神川拓海に出会い、恋に落ちる。
初めての大好きな人に、芽生えた大切な命。
幸せに浸る彼女の元に現れたのは、神川拓海の母親だった。
彼女の言葉により、咲良は大好きな人のもとを去ることを決意する。
新たに出会う人々と愛娘に支えられ、彼女は成長していく。
しかし彼は、諦めてはいなかった。
迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?
ふゆ
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。
衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得!
だけど……?
※過去作の改稿・完全版です。
内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
ふたりは片想い 〜騎士団長と司書の恋のゆくえ〜
長岡更紗
恋愛
王立図書館の司書として働いているミシェルが好きになったのは、騎士団長のスタンリー。
幼い頃に助けてもらった時から、スタンリーはミシェルのヒーローだった。
そんなずっと憧れていた人と、18歳で再会し、恋心を募らせながらミシェルはスタンリーと仲良くなっていく。
けれどお互いにお互いの気持ちを勘違いしまくりで……?!
元気いっぱいミシェルと、大人な魅力のスタンリー。そんな二人の恋の行方は。
他サイトにも投稿しています。
陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました
夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、
そなたとサミュエルは離縁をし
サミュエルは新しい妃を迎えて
世継ぎを作ることとする。」
陛下が夫に出すという条件を
事前に聞かされた事により
わたくしの心は粉々に砕けました。
わたくしを愛していないあなたに対して
わたくしが出来ることは〇〇だけです…
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる