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当日

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 死に物狂いで一週間を超えた。

 勉強だけではなく身だしなみも必死に手入れをさせられた。パーティーに参加すると聞いた圭吾さんは白目をむきそうになりながら、私に多くの情報をくれた。参加するであろう人たちの顔と名前、会社についてまとめられた資料を無我夢中で覚え、夢にまでおっさんたちが出てきたくらいだ。

 まだ知識不足は否めない。だが、今回はパーティーだから誰も深い話はしてこないだろうから安心しろ、と玲は言っていた。恐らく挨拶ぐらいで時間の終わりが来るだろうと。

 あの横暴男はそう簡単に言ってくれるけど、私は胃が痛い。周りから固めたいという気持ちも分かるが、思えばそのやり方は玲のご両親から反感を買うだけだと思うからだ。自分たちに隠れて入籍、それをいろんな人の前で発表って……私ならぶちぎれる。

 だがもう今更なので、私は死に物狂いで残り一週間を過ごすしかなかったのだ。




「凄いですね、二週間前とは別人みたいですよ」

 圭吾さんが感嘆のため息を漏らした。

 決戦の日、私は全身を抜かりなく着飾った。玲に全て揃えて貰ったものを身に着け、髪の先まで手入れを尽くした。鏡の前に立ってみると、なるほど確かに二週間前の自分とはまるで違う。

 私は不安の声を漏らした。

「大丈夫ですかね」

「凄く綺麗ですよ! 舞香さんは元々お綺麗な人でしたけど、いで立ちやオーラが変わりました。化粧映えもしますね、正直驚いてます。これなら大丈夫ですよ!」

 ニコニコと優しく言ってくれる圭吾さんに、私はうっとりと拝んだ。この家で私を褒めてくれるのは圭吾さんだけだ。畑山さんは厳しいし玲は貧乳って馬鹿にしやがるから。

「私圭吾さんと結婚したかったです」

「あはは、玲さんに聞かれたら叱られます」

「圭吾さんの爪の垢を煎じて飲ませたい」

「大げさな」

 笑ってるけど、これ結構本心なんだけどなあ。圭吾さんってなんでも出来るし優しいし、横暴男とは正反対な人間だ。結婚するならこういう男がいい。自分は元カレは浮気するやつだったし、実際結婚したのは性格悪い男だし、男運がないと見た。

 いやいや、三千万。玲は三千万の恩があるんだから。

 ため息をついていると、リビングのドアが開かれた。スーツを着た玲が中に入ってくる。彼は私の存在に気が付くと、腕を組んで上から下まで観察する。やや緊張しながら評価を待った。

 玲は一つ頷く。

「まあ、合格点」

 胸を撫でおろす。まあ一流のエステや美容室に連れて行ってもらい、金のかかったドレスやアクセサリーを身にまとっているのだ、不合格では困る。

 だが多分、一番自分を変えたのはやはり畑山さんのレッスンだと思っている。立ち方一つでもここまで印象を変えるのかと驚いた。あの人の教えはさすが凄い。

「よし舞香、準備はいいよな。行くぞ」

「わ、わかった」

「圭吾に運転してもらうから。まず車に行くぞ」

 私は慌てて最後に洗面所に入り最終確認を行う。メイクは大丈夫だよね、持ち物もいいかな。髪型も崩れていない。

 あわあわする私に、圭吾さんがひょいっと顔を出す。そして笑顔で言ってくれた。

「大丈夫ですよ、本当に完璧ですから。自信持ってください」

 優しい笑みに、ほっと力が抜ける。これ、普通夫である玲の役割ではないのか。緊張してる妻をフォローしやがれや。私は頷き、ついに鏡の前から離れた。
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