みえる彼らと浄化係

橘しづき

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恐ろしい光景

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 それにも全く動じない柊一さんと暁人さんは、淡々と言う。

「怖い顔だねー。でも、その方が似合ってる。悪霊って感じの顔。そりゃ相手に嫌われるよ」

「相手を苦しめてまで自分の手に入れたいと思うのはとんだエゴだ、地獄に落ちた方がいい」

 二人の言葉に、佳子さんが甲高い叫び声をあげた。悲鳴のような、威嚇のような声だった。

 再び寒気と、頭痛に襲われ頭を抱える。負のオーラに当てられ、体が辛い。西雄さんの霊を閉じ込めていたくらい強い霊なのだから、私の体調に不調を及ぼすぐらい何てことないだろう。

 しかし柊一さんは、全くおびえるそぶりはなく、むしろ相手を睨みつけた。冷たい視線から、彼の怒りが伝わってくる。

 そして静かな声で言った。

「僕はね……人の命を奪うような最低な霊は、容赦しない」

 そう言った途端、彼の髪の毛がぶわっと舞い上がった。風なんて私はちっとも感じないのに、だ。そしてその体から、何かが再び出てくる。皮膚からざわざわと蜃気楼のように揺れながら、少し白みがかった不思議な空気が揺れている。それはどこかキラキラと輝いているように見え、一瞬綺麗だ、と思った。

 だがそう思ったのも束の間で、私はすぐに恐怖に慄いた。なぜかは分からない、柊一さんの体から出てくるそれらが、あまりに強い力で恐ろしかった。神々しさを感じつつも、私には決して手に負えない、近づいてはいけないものだと思ったのだ。佳子さんにしがみつかれた時や、部屋に閉じ込められた時とまた別の感覚だ。

 体の震えが止まらない私を、暁人さんが支えるようにしてくれる。柊一さんの髪がなお大きく靡き、同時にあのモヤみたいなものが巨大化し、彼の全身を包んだ。色のない炎のようだった。柊一さんが燃えてしまうような錯覚に陥って、叫びそうになるも、声すら出なかった。

 少しだけ見えた柊一さんの横顔は、苦しそうでもあり、楽しそうでもあった。眉間に皺をよせ、額に汗をかいているかと思えば、口元は笑っている。そんな複雑な表情をして佳子さんをじっと見つめていた。

「喰え」

 柊一さんが、誰かにそう命令した。

 その途端、彼の体から出ている白い炎のようなものが、一斉に佳子さんを襲った。ものすごいスピードで、彼女は逃げる暇もなく、一瞬で包まれる。

 とてつもない悲鳴が上がった。腹の底から出されたような、あまりに苦しそうな声で、私はつい耳を塞いだ。

 白いやつらは意思を持っているのか、佳子さんを確実に包んでいる。まるで普通の人間が火事で苦しむように、彼女は全身をバタバタさせ痛がった。そして呼吸苦になるように喉を押さえ、舌を長く出しながら暴れる。その皮膚がどろりと溶け出したのに気が付き、私はただ震えを大きくさせた。異臭までしてくる。

 そのまま佳子さんはどんどん溶けた。溶けたあとは何も残らず、あの白い炎たちに吸収されているようだった。ほんの数秒で全身が溶け切ったかと思うと、白い炎が完了したとばかりに柊一さんの元へと戻ってくる。彼の体に染み込んでいく。

 皮膚から入ってくるたび、柊一さんの表情が歪んだ。その綺麗な顔が苦痛に満ち、ああ溶けた佳子さんが今、柊一さんの中へ入っているんだと分かった。

 すべてが消えた瞬間、柊一さんががくっと膝を折った。暁人さんが慌てて駆け寄る。私はただ今見た光景が衝撃的過ぎて、その場からすぐに動けなかった。

「柊一!」

 柊一さんは意識を保っているようだった。そして西雄の方をゆっくり見る。

「まだ……あっちが、終わってない……」

 すっかり西雄……いや、西雄さんの存在を忘れていた。そっちを見ると、彼は血だらけのまま立ってこちらを見ている。暁人さんが立ちあがり、数珠を握りしめる。そしてじっと西雄さんを見つめる。

「……ずっとここに閉じ込められていたんですか」

 彼の問いに、西雄さんが少し俯いた。暁人さんは優しい口調で話しかけ続ける。

「あなたの方が被害者だったんですね。見た通り、あの女はもう消えました。動けますか?」

 西雄さんはゆっくり辺りを見回す。痛々しいその体で、彼はやっと口を開いた。

『情けない……長かった……』
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