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手でも
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私たちの後ろにいた暁人さんも、同じように項垂れていた。
「井上さん、申し訳ありませんでした。怖い目にあわせて」
「暁人さんも……! あの、私も油断してたんです。二人ともそんなに気にしないでください。怖かったけど、無事ですし」
慌ててそう言った。暁人さんは顔を上げ、私の右肩をちらりと見ると、なおさら厳しい顔になる。
「井上さん、上着を脱いでいただけますか」
「え、あ、はい……」
言われるがまま、一旦ライトを外してパーカーを脱いだ。暁人さんに借りた白いパーカーだ。それを差し出すと、暁人さんが無言で広げた。
「あっ!」
無我夢中で全く気付かなかったが、パーカーの右肩には赤い手形がくっきりと残っていた。全身の身の毛がよだつ。
暁人さんが観察しながら言う。
「井上さんが見た手の仕業ですね」
「汚れたのが暁人の服でよかった!」
「柊一、そういう問題じゃないんだが……まあ、それもそうか」
頭を掻きながら納得した暁人さんは、自分が羽織っていた黒いジャケットを脱いだ。そしてそれを私に差し出す。
「こちらを着ていてください」
「え!? い、いや、それじゃあ暁人さんが寒いです!」
「俺は大丈夫なんで。冷えますよ」
ずいっとさらに差し出され、おずおずと受け取り、お言葉に甘えて羽織った。恐怖で心がいっぱいだったというのに、彼のジャケットを羽織ったことにより、別のことに意識が向く、おお、暁人さんが脱いだばかりなのでそのぬくもりが残っている……って、何を考えているんだ自分は。
またしても大きかったので、袖を軽く折り曲げておいた。
柊一さんが暁人さんに言う。
「やっぱり、遥さんは無理なんじゃないかな。今日は撤収しようか」
「……そうだな」
二人が相談しているのを見て、私は慌てる。それってもしや、私の浄化する仕事は無理ということだろうか。
「だ、大丈夫です! 怖かったけど、怪我とかそういうのは何もなかったし。私が油断したのもいけなかったんです。今日は最後まで付き合うって決めてきたので、このまま同行させてください」
離れるな、とさんざん言われたのに、部屋の中へ入って行ってしまったのは自分の落ち度だ。ほんの数歩でも離れてはいけないのだとこれで学んだ。次からは気を付ければいい。
確かにめちゃくちゃ怖くてたまらなかったし、どうやら自分も霊を見る能力があるらしいと分かってしまった。とはいえ、こんな中途半端なところで終えたくはない。あれだけ気遣ってくれた二人に申し訳ない。
柊一さんは眉尻を下げる。
「でも、今までの経過を見るに、遥さんはここの奴と相性がよさそうだよ。狙われてるかの」
「ねらっ……いえ、もう絶対に二人からは離れないので大丈夫です」
一瞬ビビってしまったが、しっかり自分を落ち着けて答えた。暁人さんがほっとしたように言う。
「強い人ですね。柊一、ここまで言ってくれるんだから、もう少し様子を見ようか」
「……まあ、遥さんがそういうならいいけどさ。んじゃあ、離れないように三人で手でもつなぐ?」
にっこり笑って私に手を差し出したので、ついのけ反ってしまった。な、なんだと? 三人で手をつなぐ!? こんなイケメン二人に囲まれてるだけで凄いのに、手なんか繋いだら、私の呼吸は止まってしまう。
暁人さんが呆れたように言う。
「それは無理だよ柊一」
「そ、そうですよ!」
「両手を繋がれたら、井上さんが懐中電灯を持てなくなる」
「……」
突っ込みどころはそこじゃないんだけど……もしかして、暁人さんも天然入ってる??
「井上さん、申し訳ありませんでした。怖い目にあわせて」
「暁人さんも……! あの、私も油断してたんです。二人ともそんなに気にしないでください。怖かったけど、無事ですし」
慌ててそう言った。暁人さんは顔を上げ、私の右肩をちらりと見ると、なおさら厳しい顔になる。
「井上さん、上着を脱いでいただけますか」
「え、あ、はい……」
言われるがまま、一旦ライトを外してパーカーを脱いだ。暁人さんに借りた白いパーカーだ。それを差し出すと、暁人さんが無言で広げた。
「あっ!」
無我夢中で全く気付かなかったが、パーカーの右肩には赤い手形がくっきりと残っていた。全身の身の毛がよだつ。
暁人さんが観察しながら言う。
「井上さんが見た手の仕業ですね」
「汚れたのが暁人の服でよかった!」
「柊一、そういう問題じゃないんだが……まあ、それもそうか」
頭を掻きながら納得した暁人さんは、自分が羽織っていた黒いジャケットを脱いだ。そしてそれを私に差し出す。
「こちらを着ていてください」
「え!? い、いや、それじゃあ暁人さんが寒いです!」
「俺は大丈夫なんで。冷えますよ」
ずいっとさらに差し出され、おずおずと受け取り、お言葉に甘えて羽織った。恐怖で心がいっぱいだったというのに、彼のジャケットを羽織ったことにより、別のことに意識が向く、おお、暁人さんが脱いだばかりなのでそのぬくもりが残っている……って、何を考えているんだ自分は。
またしても大きかったので、袖を軽く折り曲げておいた。
柊一さんが暁人さんに言う。
「やっぱり、遥さんは無理なんじゃないかな。今日は撤収しようか」
「……そうだな」
二人が相談しているのを見て、私は慌てる。それってもしや、私の浄化する仕事は無理ということだろうか。
「だ、大丈夫です! 怖かったけど、怪我とかそういうのは何もなかったし。私が油断したのもいけなかったんです。今日は最後まで付き合うって決めてきたので、このまま同行させてください」
離れるな、とさんざん言われたのに、部屋の中へ入って行ってしまったのは自分の落ち度だ。ほんの数歩でも離れてはいけないのだとこれで学んだ。次からは気を付ければいい。
確かにめちゃくちゃ怖くてたまらなかったし、どうやら自分も霊を見る能力があるらしいと分かってしまった。とはいえ、こんな中途半端なところで終えたくはない。あれだけ気遣ってくれた二人に申し訳ない。
柊一さんは眉尻を下げる。
「でも、今までの経過を見るに、遥さんはここの奴と相性がよさそうだよ。狙われてるかの」
「ねらっ……いえ、もう絶対に二人からは離れないので大丈夫です」
一瞬ビビってしまったが、しっかり自分を落ち着けて答えた。暁人さんがほっとしたように言う。
「強い人ですね。柊一、ここまで言ってくれるんだから、もう少し様子を見ようか」
「……まあ、遥さんがそういうならいいけどさ。んじゃあ、離れないように三人で手でもつなぐ?」
にっこり笑って私に手を差し出したので、ついのけ反ってしまった。な、なんだと? 三人で手をつなぐ!? こんなイケメン二人に囲まれてるだけで凄いのに、手なんか繋いだら、私の呼吸は止まってしまう。
暁人さんが呆れたように言う。
「それは無理だよ柊一」
「そ、そうですよ!」
「両手を繋がれたら、井上さんが懐中電灯を持てなくなる」
「……」
突っ込みどころはそこじゃないんだけど……もしかして、暁人さんも天然入ってる??
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