みえる彼らと浄化係

橘しづき

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風呂場

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 ぞわぞわと言葉に説明できない何かを感じる。完全に雰囲気にのまれてしまった。

「井上さん、足元に気を付けてください」

 私は返事も返せないまま、とりあえず中に足を踏み入れてみる。外よりずっとひんやりしていた。後悔の嵐だ、やっぱり来るんじゃなかった。こんな中を散策するなんて、普通の神経の持ち主なら無理に決まっている。

 両隣を見てみると、平然とした顔の二人がいたので、やっぱり慣れているらしい。暁人さんが言った。

「とりあえず回って観察してみようと思います。一階から行きましょう」

「はい……」

 私は小さく返事をしながらふらふらと二人についていく。寒気が強くなり、腕をさすった。三人が持つライトで視界はそれなりに明るいとはいえ、遠くの闇までは照らすことが出来ない。あの真っ暗な部分から、誰かが出てきたらどうしよう、と想像してはぶるぶると震える。

 フロントを抜けていくと、ゲームコーナーがあった。当時使われていたであろうゲーム機がそのまま置いてあり、埃を被っている。古い形のクレーンゲームや、ドライブゲームなどが当時の状態でひっそりと私たちを出迎える。私が幼い頃に遊んだスウィートランドと呼ばれるものもあった。ドーム型のマシンで、お菓子や小さなおもちゃが積まれており、上手くやればお菓子をゲットできるあれだ。

 細かい所まで懐中電灯を当ててみるが、今のところ幽霊らしきものはいない。

「こっちはお風呂みたいですよ」

 暁人さんがゲームコーナーを通り過ぎ、指をさした。見てみれば、大きなのれんのようなものがぶら下がっている。汚れと劣化でよく読めないが、おそらく『湯』と一文字書かれているようだ。

 お風呂、ってなんか嫌だなあ。水があるところって幽霊が寄ってきやすいと聞いたことがあるけど、実際はどうなんだろう。

 三人でゆっくり足を進め、風呂場までたどり着く。広々とした脱衣所があった。着替えなどを置く木製の棚と籠がある。大きなその奥には大きな鏡があり、汚れや傷があるものの私たちを映していた。なんとなく見るのが怖くて、視線を逸らす。

「こっちが浴槽だね」

 柊一さんがじっと見つめている先には、確かにお風呂と思しきものがあった。六個の洗い場と、中央にある大きな湯舟。そこまで大きいとは言えない大きさだが、数人で浸かるには十分な広さがある。

 柊一さんはためらわずに中へと入った。可愛らしい顔とはまるで違い、ずかずかと平気で進んでいく。

 その背中を追って私もそっと足を踏み入れてみた。昔はお風呂だったようだが、今は無論水一滴もないし、むしろ乾燥している。

 カエルが描かれた桶が足元に転がっていた。なんとなくそれに明かりを当て、ぼんやりと見る。場にそぐわぬ明るい声で、柊一さんが言う。

「しかしこんなところに入らされる芸能人たちも可哀そうだねー。僕たちみたいに攻撃できる能力があるならともかく、素人は相当怖いでしょ」

「だろうなあ。大概芸人とか、アイドルとかが多いよな」

「ねえ夏にやってた番組見た? 今回の依頼元じゃないテレビ局だったんだけど、すごい場所に入ってたよ。僕憐れんじゃったもん」

「お前プライベートでそんなの見てるの? 俺、仕事以外でそんなの見たくないわ」

 緊張感のない二人の会話が救いだった。仲のよさそうな様子に微笑み、少し肩の力が抜ける。もしかしたら、私のためにあえて明るい声を出してくれてるのかもしれない。あとはやっぱり、仲いいなあ。二人の恋路は私がしっかり応援します。
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