みえる彼らと浄化係

橘しづき

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考えた結論

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「私は紅茶で」

「はい。俺はコーヒー、柊一は?」

「おにぎり、ある?」

 そんな小さな声が聞こえてきて、つい二度見してしまった。おにぎり? こんなおしゃれなカフェに、おにぎりを求めてるの?

 呆れた片瀬さんの声がする。

「おにぎりはない」

「じゃあいらない」

「一つはオーダーしろ。じゃ、オレンジジュースにしといてやる」

 そういった片瀬さんは、店員に注文してくれる。店員が去っていくと、片瀬さんが改めて私に頭を下げた。

「今回は本当に、色々ご迷惑をおかけした挙句、突然変なお願いをしてしまって……」

 そんな彼を、黒崎さんが止めた。どこかふわりとした柔らかな声で言う。

「もう、暁人は固いな。そんなんじゃ、遥さん緊張しちゃうでしょ」

「お前は自由すぎるんだよ」

「ねえ、好きな食べ物はなに?」

 黒崎さんがにこにこした様子で聞いてくるので面喰う。確かに片瀬さんの言う通り、この人は自由人みたいだ。と、いうか天然?

「えーっと……ケーキ、ですかね」

「わあ、女の子って感じ。甘い物美味しいよね」

「黒崎さんはおにぎりが好きなんですか?」

「すごい! なんでわかったの、読心術?」

 目を見開いて驚いているので、天然確定した。何だこの人、変わった人すぎる。

 頭を抱えた片瀬さんが、咳ばらいをして話を本題に戻した。

「好きな食べ物は置いといて。これは先日お世話になったお礼です、ほんの気持ちですが」

「え! ありがとうございます!」

 菓子折りらしきものを差し出される。自由人な黒崎さんとは反対に、片瀬さんはしっかりしてるなあ。彼は背筋をピンと伸ばし、姿勢よく座っている。一方黒崎さんは、軽く背もたれにもたれ、ぼんやりと天井にあるシーリングファンを見ていた。

 そんな彼は放っておいて、私はさっそく、母と電話した内容を告げた。

 私の家系の能力についてや、母も昔仕事を手伝っていたこと。そして、時間が経てば浄化の成功率も下がってしまうことも。

 二人は興味深そうに聞いていた。黒崎さんも、感心したように私を見ている。タイプの違う男性二人に見つめられ、恥ずかしく思っていると、注文したドリンクが運ばれてきた。

 私はストレートティーを、片瀬さんはブラックコーヒー、そして黒崎さんは、オレンジジュースを飲む。

「……というわけで、昨日はたまたま成功しただけみたいなんです」

 片瀬さんが腕を組んで考える。

「そうか、食べてすぐじゃないと効果が薄れる……井上さんはそうなのか」

「私は?」

「ああ、今までも井上さんみたいな能力を持った人に浄化を手伝ってもらったことがありまして。その人はとても強い霊力を持っていたので、時間が経っても浄化出来たのですが、思えば俺たちより強い人だったので、特殊だったんだな、と」

 聞いてなるほど、と思った。母も、慣れるまで浄化できる人間と行動を共にすることが多いはずと言っていた。やはり黒崎さんたちには、元々浄化できる人間がそばにいたのだろう。何か理由があって辞めてしまったのかな、と想像する。

 片瀬さんは困ったように眉尻を下げた。

「今まで知りませんでした、時間が経つと成功率が落ちることもあるなんて。そうなると、先日のように部屋で手を握ってもらうという形ではなくなるのですね」

 そういいながら静かに肩を落とす。せっかく黒崎さんの苦痛を和らげる方法を見つけたのに、希望が無くなってしまったと落ち込んでいるのだろう。

 だがその隣にいる黒崎さんは、特にショックを受ける様子もなく口を開いた。

「じゃあ、しょうがない。僕がもっと頑張ればいい話なんだよ」

「……俺も浄化か、食う能力があれば」

「暁人は暁人で、他の霊を祓ってくれたり頑張ってるじゃない。いいんだよ」

 そんな会話を交わす二人に、私は割って入った。この三日間考えた自分の答えを、今伝えるべきだ。

「あの、一度仕事に同行させてもらえませんか?」

 二人が同時に目を見開いた。予想外の答えだったのだろう、沈黙が流れる。私はさらに言った。

「どんな感じなのか、一度試してみよう、と思って……よければ、黒崎さんが食べた直後すぐに浄化できるように、お仕事についていってみたいんです」
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