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一章
番外編 兄と弟
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数年前家を出ていった大好きな兄さんと偶然再開。たまたま通りかかった道からお兄ちゃんの匂いがするから後をつけてみたら縁があって久しぶりに会うことが出来た。
ダンさんは兄さんの想い人らしいけどダンさんには好きな人がいるから兄さんは失恋したらしい。いつもと何も変わっていないように見えて何処か寂しそうだった。僕にはわかる。弟だから。
僕は兄さんが好きだからずっと一緒に居たいけど生憎、僕とお兄ちゃんが住んでいるところは山を挟んだ場所にあるので中々会いに行けなかった。
ダンさんにはカフェに兄さんが来たら連絡するようにお願いしてるけど、それ以降連絡が無いから兄さんは来てないのだろう。やっぱり失恋して落ち込んでるんだろうな・・・・
そんな兄さんに会いに行こうと思い立ったのが数日前。僕は今騎士団の練習場に居た。もちろん剣を使ったことなんてないから見様見真似で振ってるだけだけど・・・・
「こら!そこ!集中しろ!」
兄さんに怒鳴られ思わず顔が緩む。久しぶりの兄さん。しかも仕事中。いつもと違う雰囲気を纏っている姿に思わず見とれる。
「うん・・・・わかった」
返事をしてまた、剣を振り始めた。どうしてこうなっているのかというと話は数日戻る。
兄さんに会いに街まで来たものの、何処でどうやって会うかを全く考えておらず僕は街を徘徊していた。そうこうしていると、ふと掲示板が目に入った。『騎士団員募集中!皆でこの国を守ろう!』と書かれた紙。
そうか、騎士団に入れば毎日兄さんに会えるだけでなく一緒に働けるのか!
そう思いすぐさま応募。今は適性検査中だ。集団行動とか体力とかをテストしているらしい。元々農作業をしていたから体力や筋力にはそこそこ自信がある。集団行動は・・・・した事ないけど・・・・
「よし!今日はここまで!解散!」
『はい!』
兄さんがそう言うと僕と一緒に訓練をしていた人がその場にへたり込むのを見て貴族は体力がないんだなあと少し優越感に浸る。
「兄さん・・・・僕、どうだった・・・・?」
「エバンス騎士団長と呼べと再三言っているだろう」
「ご、ごめんなさい・・・・」
もう終わったから良いかと思ったのに・・・・怒られてしまった・・・・
「はぁ・・・・悪くなかったよ」
そう言うと兄さんは去り際、僕の頭を撫でた。その温もりだけで心が満たされる。僕は「ありがとうございます・・・・にい・・・エバンス騎士団長!」と言うと足取り軽く宿舎に戻った。
宿舎といっても騎士団が所有している宿舎のため部屋が狭かったり建物が少し古かったりもするが生活に問題はない。第一、食堂のご飯が美味しいので僕としては満足である。
今日は鳥の照り焼き定食だった。デザートはいちごゼリー。色鮮やかなご飯に胸を踊らせ、空いている席を探す。角の席が空いているのを見つけ向かおうとすると何かが足に引っかかりその場に転倒。当然だがご飯がひっくり返ってしまった。
顔を上げると笑みを浮かべて僕を見下ろしている人がいた。
「あぁ、悪い。俺の足が長くて引っかかっちまったらしい」
そう話す人の腕に騎士団の腕章が付いていた。こんな人が兄さんと一緒に働いてるのか。信じられないな・・・・
「わざとじゃ・・・・ないなら・・・・・仕方ないよ・・・・次からは・・・・気をつけてね・・・・」
俺の言葉はどうやらこの人の逆鱗に触れたらしい。男性は椅子から立ち上がると僕の胸ぐらを掴んだ。僕と身長差が無いから掴まれたところで別に何も無いけど。
「お前ちょっと騎士団長に褒められたからって調子に乗ってんなよ」
「・・・・」
「あ?なんか言ったらどうだ?」
「・・・・僕の方が・・・・腰の位置・・・・高いね」
男性の顔が紅潮していく。すぐに顔を赤くするなら最初から喧嘩なんか吹っかけなきゃ良いのに。
「お前達何をしてる!業務時間外における隊員同士での喧嘩は禁止されているはずだ!」
「・・・・エバンス騎士団長」
「兄さん・・・」
「何があったんだ・・・・両名とも後で俺の部屋に来い」
兄さんはそう言うと踵を返して食堂の列に並んだ。僕は胸がいっぱいになり何も食べずに自室に戻った。
また、怒らせてしまった・・・・。兄さんを怒らせたくてここに来たわけじゃないのに・・・・
お風呂から上がった後、兄さんと一緒にいた人に案内されて騎士団長室と書かれた部屋へ向かった。
「失礼・・・・します・・・・」
「お、来たか」
「・・・・」
「食堂の話は大方聞いた。手を出さなかったのは偉いが煽ったのは良くなかったな」
「・・・・ごめんなさい」
「別に俺に謝る問題じゃない」
兄さんは腰を下ろすとため息をついた。疲れていそうな表情。ちゃんと眠れているのだろうか・・・・
「どう・・・・するのが・・・正解だった・・・・?」
「んー俺なら殴ってた」
予想外の答えに目を見開く。そんな僕をみて兄さんは口を大きく開けて笑った。
「まぁ、人間そんなもんだろ。次からは無視しとけよ」
僕は無言で頷いた。
「ところで、お前なんで騎士団に志望してるんだ?そんな雰囲気ひとつも無かったのに」
「・・・・それは・・・・あ、憧れの・・・・人が・・・・いるから」
「ふ~ん。まあ、入るからにはビシバシ扱くけどな」
「・・・・入れる・・・・かな・・・・?」
「きっと入れるよ。お前は俺の弟なんだから」
「・・・・うん!」
いつか、貴方の隣に立って貴方を守れるように努力するからその時まで待っていてね。胸の中でそんなことを想って一人で笑った。
ダンさんは兄さんの想い人らしいけどダンさんには好きな人がいるから兄さんは失恋したらしい。いつもと何も変わっていないように見えて何処か寂しそうだった。僕にはわかる。弟だから。
僕は兄さんが好きだからずっと一緒に居たいけど生憎、僕とお兄ちゃんが住んでいるところは山を挟んだ場所にあるので中々会いに行けなかった。
ダンさんにはカフェに兄さんが来たら連絡するようにお願いしてるけど、それ以降連絡が無いから兄さんは来てないのだろう。やっぱり失恋して落ち込んでるんだろうな・・・・
そんな兄さんに会いに行こうと思い立ったのが数日前。僕は今騎士団の練習場に居た。もちろん剣を使ったことなんてないから見様見真似で振ってるだけだけど・・・・
「こら!そこ!集中しろ!」
兄さんに怒鳴られ思わず顔が緩む。久しぶりの兄さん。しかも仕事中。いつもと違う雰囲気を纏っている姿に思わず見とれる。
「うん・・・・わかった」
返事をしてまた、剣を振り始めた。どうしてこうなっているのかというと話は数日戻る。
兄さんに会いに街まで来たものの、何処でどうやって会うかを全く考えておらず僕は街を徘徊していた。そうこうしていると、ふと掲示板が目に入った。『騎士団員募集中!皆でこの国を守ろう!』と書かれた紙。
そうか、騎士団に入れば毎日兄さんに会えるだけでなく一緒に働けるのか!
そう思いすぐさま応募。今は適性検査中だ。集団行動とか体力とかをテストしているらしい。元々農作業をしていたから体力や筋力にはそこそこ自信がある。集団行動は・・・・した事ないけど・・・・
「よし!今日はここまで!解散!」
『はい!』
兄さんがそう言うと僕と一緒に訓練をしていた人がその場にへたり込むのを見て貴族は体力がないんだなあと少し優越感に浸る。
「兄さん・・・・僕、どうだった・・・・?」
「エバンス騎士団長と呼べと再三言っているだろう」
「ご、ごめんなさい・・・・」
もう終わったから良いかと思ったのに・・・・怒られてしまった・・・・
「はぁ・・・・悪くなかったよ」
そう言うと兄さんは去り際、僕の頭を撫でた。その温もりだけで心が満たされる。僕は「ありがとうございます・・・・にい・・・エバンス騎士団長!」と言うと足取り軽く宿舎に戻った。
宿舎といっても騎士団が所有している宿舎のため部屋が狭かったり建物が少し古かったりもするが生活に問題はない。第一、食堂のご飯が美味しいので僕としては満足である。
今日は鳥の照り焼き定食だった。デザートはいちごゼリー。色鮮やかなご飯に胸を踊らせ、空いている席を探す。角の席が空いているのを見つけ向かおうとすると何かが足に引っかかりその場に転倒。当然だがご飯がひっくり返ってしまった。
顔を上げると笑みを浮かべて僕を見下ろしている人がいた。
「あぁ、悪い。俺の足が長くて引っかかっちまったらしい」
そう話す人の腕に騎士団の腕章が付いていた。こんな人が兄さんと一緒に働いてるのか。信じられないな・・・・
「わざとじゃ・・・・ないなら・・・・・仕方ないよ・・・・次からは・・・・気をつけてね・・・・」
俺の言葉はどうやらこの人の逆鱗に触れたらしい。男性は椅子から立ち上がると僕の胸ぐらを掴んだ。僕と身長差が無いから掴まれたところで別に何も無いけど。
「お前ちょっと騎士団長に褒められたからって調子に乗ってんなよ」
「・・・・」
「あ?なんか言ったらどうだ?」
「・・・・僕の方が・・・・腰の位置・・・・高いね」
男性の顔が紅潮していく。すぐに顔を赤くするなら最初から喧嘩なんか吹っかけなきゃ良いのに。
「お前達何をしてる!業務時間外における隊員同士での喧嘩は禁止されているはずだ!」
「・・・・エバンス騎士団長」
「兄さん・・・」
「何があったんだ・・・・両名とも後で俺の部屋に来い」
兄さんはそう言うと踵を返して食堂の列に並んだ。僕は胸がいっぱいになり何も食べずに自室に戻った。
また、怒らせてしまった・・・・。兄さんを怒らせたくてここに来たわけじゃないのに・・・・
お風呂から上がった後、兄さんと一緒にいた人に案内されて騎士団長室と書かれた部屋へ向かった。
「失礼・・・・します・・・・」
「お、来たか」
「・・・・」
「食堂の話は大方聞いた。手を出さなかったのは偉いが煽ったのは良くなかったな」
「・・・・ごめんなさい」
「別に俺に謝る問題じゃない」
兄さんは腰を下ろすとため息をついた。疲れていそうな表情。ちゃんと眠れているのだろうか・・・・
「どう・・・・するのが・・・正解だった・・・・?」
「んー俺なら殴ってた」
予想外の答えに目を見開く。そんな僕をみて兄さんは口を大きく開けて笑った。
「まぁ、人間そんなもんだろ。次からは無視しとけよ」
僕は無言で頷いた。
「ところで、お前なんで騎士団に志望してるんだ?そんな雰囲気ひとつも無かったのに」
「・・・・それは・・・・あ、憧れの・・・・人が・・・・いるから」
「ふ~ん。まあ、入るからにはビシバシ扱くけどな」
「・・・・入れる・・・・かな・・・・?」
「きっと入れるよ。お前は俺の弟なんだから」
「・・・・うん!」
いつか、貴方の隣に立って貴方を守れるように努力するからその時まで待っていてね。胸の中でそんなことを想って一人で笑った。
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