上 下
47 / 52
一章

責任

しおりを挟む
 廊下に沈黙が流れる。多分今回が最後になる。腹を括れ。覚悟したから来たんだろ

「俺は・・・・カイルが好きです」

 点滴を引き連れた弱々しいカイルが俺に抱きついた。

「僕は貴方がいないとダメなんですよ。貴方がいないと何も出来ないんだ」

「ずっと一緒にいます。もう二度と離れません」

「ふふふ。甘いですね。もう二度と逃がしませんよ」

 抱きしめる手に、より一層力が篭もる。失っていた温もりを感じる。優しい匂いに包まれる。

「ねぇ、ダン、もう一度言ってください」

「い、嫌ですよ!あんな恥ずかしいこと!」

「ね!お願いです!ダンが言ってくれたら元気が出ますから」

 顔が燃えているんじゃないかと思うくらい熱くなる。世の中の恋人達はこんな恥ずかしいことを言っているのか。

「カイルが好きです」

 俺が羞恥心に耐えながら言う姿をカイルは凝視していた。視線を外すタイミングを失って身体中が熱くなる。

「あー!本当に可愛いです!可愛すぎます!世界一ですよ!」

 もう一度強く抱きしめられる。俺もそれに応えるように抱きしめる。それを見ていた王妃様が気まずそうに咳払いをした。

 我に返り、カイルを引き剥がそうとするがカイルは俺を手の中に収めたまま話し始めた。

「お母様、僕のことを大切に思ってくれるのは大変喜ばしいことですが僕の大切な人のことも大切にしてくださると嬉しいです」

「・・・・私は認めないわよ!」

 王妃様は吐き捨てるように言うと去って行った。カイルは「ああ見えても悪い人じゃないんですよ」と付け足した。

 本当かなぁ・・・俺身ぐるみ剥がされたよ?


 カイルの部屋に招き入れられる。お見舞いの品で溢れかえっているなんてことは無かったがベッド横のサイドテーブルには豪華なフルーツ盛りが置かれていた。

 ふかふかのイスに腰をかけると、カイルは俺の横に座った。

「ダンと僕が両想いってことは恋人同士ってことでいいんですよね?」

 俺の肩に頭を乗せてきた。そんな些細なことでさえ嬉しいと感じてしまう。

「う・・・はい・・・」

「やっとです」

 カイルが俺の手を握ってきた。体温が上昇する。

 こ、恋人繋ぎというやつでは・・・?!どうしよう・・・・握り返すのが正解?ど、どうすればいいんだ!

「ダンが居なくなって食べ物が喉を通らなくなったんですよ。仕事をして気を紛らわせようとしたけど無理で、夜も寝ようとしても別れようって言われた日のことがフラッシュバックして眠れなかったんです」

「・・・・すみません」

「あー僕悲しかったなー僕の真面目な気持ちをごっこって言われて傷ついたなー」

「・・・申し訳なかったと思っています。すみませんでした」

「責任取ってずっと一緒にいてくださいね」

「もちろんです」

「・・・・」

「カイル?」

 どうやらこのまま寝てしまったらしい。俺は起こさないようにその場から立ち退き、カイルをベッドに運ぼうとする。俺よりも身長が高く、筋肉質なカイルは重たくて持ち上げられなかったので仕方なく布団を移動させる。

 眠るカイルの綺麗な銀髪に触れた。

 あぁ、幸せってこういうことなんだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

佐野国春の受難。

千花 夜
BL
※総愛され 更生して全寮制の学園に入学したら、生徒会風紀が軒並み元メンバー&敵グループのメンバーでした。 ※ この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 ※この物語にはネグレクト、虐待、法律違反、 暴力行為などの表現が含まれておりますが、作者にそれ等を推奨する意図はありません。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

運命の番と別れる方法

ivy
BL
運命の番と一緒に暮らす大学生の三葉。 けれどその相手はだらしなくどうしょうもないクズ男。 浮気され、開き直る相手に三葉は別れを決意するが番ってしまった相手とどうすれば別れられるのか悩む。 そんな時にとんでもない事件が起こり・・。

噂好きのローレッタ

水谷繭
恋愛
公爵令嬢リディアの婚約者は、レフィオル王国の第一王子アデルバート殿下だ。しかし、彼はリディアに冷たく、最近は小動物のように愛らしい男爵令嬢フィオナのほうばかり気にかけている。 ついには殿下とフィオナがつき合っているのではないかという噂まで耳にしたリディアは、婚約解消を申し出ることに。しかし、アデルバートは全く納得していないようで……。 ※二部以降雰囲気が変わるので、ご注意ください。少し後味悪いかもしれません(主人公はハピエンです) ※小説家になろうにも掲載しています ◆表紙画像はGirly Dropさんからお借りしました (旧題:婚約者は愛らしい男爵令嬢さんのほうがお好きなようなので、婚約解消を申し出てみました)

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

処理中です...