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一章
願った姿
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ノエル様は「また来るねー!王宮にも遊びに来てねー!」と言い残して帰って行った。
この時期は暗くなるのも早いので、日が落ちる頃に訪れる人なんかいない。そのため、早めに店を閉める。
そこでようやく朝ごはんに逃したパンを食べ忘れたことに気がついた。お腹は空いてなかったが、捨てるのはもったいないので無理矢理水で流し込んだ。
お風呂に入り自室に戻る。ベッドの上には後で片付けようと思って置いておいたカラーと昨日抱いて眠ったコートが散らかっていた。
片付けようとも思ったがカイル王子の匂いがしてつい、カラーを枕元に置いて、コートは抱えて布団に入った。
ん?今の考え方はちょっと変態っぽかったか・・・・?
ノエル様の言葉で少し気が軽くなったのか眠りにつくまでは一瞬だった。
「ダンに紹介したい人が居るんです。来てください」
綺麗な庭園をカイル王子に手を引かれて歩く。少し開けたところで綺麗なドレスに身を包んだ女性が待っていた。
「この方は僕の婚約者です」
品のある綺麗な女性は軽く会釈をした。
「婚約者って・・・・?俺じゃなかったんですか・・・?」
脳が状況を理解しきれず足が震える。
「やだなぁ、ダンとはごっこじゃないですかぁ。ごっこだって言ったのはダンですよ」
「あっ・・・・そう、ですね・・・・」
カイル王子が女性の隣に並ぶと王子は女性の腰に手を回した。
何故だろう。嫌な感じがする。胃がムカムカする。
「それで子供もいるんです。おーいおいで」
奥から五歳位の男の子と女の子が出てきた。二人にカイルは慈愛に満ちた眼差しを向けた。
「子供って可愛いですよね。素敵な奥さんも可愛い子供もいるんですよ。なのでダンはもういらないです」
「でも・・・・俺の事愛してるって・・・・」
「やだなぁ、嘘に決まってるじゃないですか!もしかして真に受けたんですか?」
カイルは嘲笑っていた。横にいる女性も呆れるように鼻で笑った。
でも、愛してるって、忘れないって・・・
「その反応図星っぽいですね。そんなお粗末な頭じゃ嘘だって気づかなかったんですか?あ、間違えました気づけなかった、ですね」
カイルはもう一度笑った。カイルの顔から笑顔が消えると何も言わずに俺に背を向けて歩き出した。
『待ってください!』
声に出そうとしたが俺の喉から声は出なかった。何度も必死に叫んで走ったがカイルには追いつけない。
待って!まだ、カイルと一緒に居たいんだ。俺とずっと一緒に居てよ!
「置いて行かないで!」
目が覚めた。悪夢を見たせいで汗で枕が濡れていた。呼吸が荒い。
「夢・・・・最悪の目覚めだ・・・」
汗で体に引っ付く服が気持ち悪かったのでシャワーを浴びた。時計は三時を指していた。
カイルもこんな気持ちだったのだろうか。あれが本来のあるべき姿。いつか願っていた姿のはずなのに素直に祝えないなんて傲慢になったものだ。
申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「ごめんなさい」
伝えたい相手はそこにいないのに自然と口から言葉がもれた。
この時期は暗くなるのも早いので、日が落ちる頃に訪れる人なんかいない。そのため、早めに店を閉める。
そこでようやく朝ごはんに逃したパンを食べ忘れたことに気がついた。お腹は空いてなかったが、捨てるのはもったいないので無理矢理水で流し込んだ。
お風呂に入り自室に戻る。ベッドの上には後で片付けようと思って置いておいたカラーと昨日抱いて眠ったコートが散らかっていた。
片付けようとも思ったがカイル王子の匂いがしてつい、カラーを枕元に置いて、コートは抱えて布団に入った。
ん?今の考え方はちょっと変態っぽかったか・・・・?
ノエル様の言葉で少し気が軽くなったのか眠りにつくまでは一瞬だった。
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「この方は僕の婚約者です」
品のある綺麗な女性は軽く会釈をした。
「婚約者って・・・・?俺じゃなかったんですか・・・?」
脳が状況を理解しきれず足が震える。
「やだなぁ、ダンとはごっこじゃないですかぁ。ごっこだって言ったのはダンですよ」
「あっ・・・・そう、ですね・・・・」
カイル王子が女性の隣に並ぶと王子は女性の腰に手を回した。
何故だろう。嫌な感じがする。胃がムカムカする。
「それで子供もいるんです。おーいおいで」
奥から五歳位の男の子と女の子が出てきた。二人にカイルは慈愛に満ちた眼差しを向けた。
「子供って可愛いですよね。素敵な奥さんも可愛い子供もいるんですよ。なのでダンはもういらないです」
「でも・・・・俺の事愛してるって・・・・」
「やだなぁ、嘘に決まってるじゃないですか!もしかして真に受けたんですか?」
カイルは嘲笑っていた。横にいる女性も呆れるように鼻で笑った。
でも、愛してるって、忘れないって・・・
「その反応図星っぽいですね。そんなお粗末な頭じゃ嘘だって気づかなかったんですか?あ、間違えました気づけなかった、ですね」
カイルはもう一度笑った。カイルの顔から笑顔が消えると何も言わずに俺に背を向けて歩き出した。
『待ってください!』
声に出そうとしたが俺の喉から声は出なかった。何度も必死に叫んで走ったがカイルには追いつけない。
待って!まだ、カイルと一緒に居たいんだ。俺とずっと一緒に居てよ!
「置いて行かないで!」
目が覚めた。悪夢を見たせいで汗で枕が濡れていた。呼吸が荒い。
「夢・・・・最悪の目覚めだ・・・」
汗で体に引っ付く服が気持ち悪かったのでシャワーを浴びた。時計は三時を指していた。
カイルもこんな気持ちだったのだろうか。あれが本来のあるべき姿。いつか願っていた姿のはずなのに素直に祝えないなんて傲慢になったものだ。
申し訳なさで胸がいっぱいになる。
「ごめんなさい」
伝えたい相手はそこにいないのに自然と口から言葉がもれた。
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