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一章

ごっこ

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 紙が散り散りになってその場に落ちていく。破き終えて静寂が流れた。口を開いたのはカイル王子だった。

「こ・・・・これは一体・・・・どういう事ですか?」

 声が視線が珍しく震えていた。

「別にどうもこうも無いですよ。カイル様、俺たちの番ごっこに終わりが来ただけですよ」

 同様に俺の声も震えている。本当は終わって欲しくなかった。今日は契約書を持っていないことを願っていたのかもしれない。

「ごっこってどういうことですか」

 さっきとは打って変わって声に怒りが灯っていた。

「番ごっこですよ。物好きなアルファと出来損ないのオメガの。まあ、俺も王族の人と会うことなんてなかったし、パーティーとか参加させてもらえて正直いい思いは出来たんで、ここらで潮時かなと思ったんで」

「ダン!」

 大きな声に鼓膜が揺れる。カイル王子にこうして大きな声をあげられるのは何度目だろう。

「あまりふざけた事を抜かさないでください。僕も流石に怒りますよ」

「ふざけた事なんかじゃなくて紛れもない事実を述べたまでですよ。まぁ、カイル王子にメリットなんか無かったかもしれないですけど。・・・・あぁ、ローラ様との婚約を破棄できたのか。じゃあウィンウィンじゃないですか。よかったですね」

「何を馬鹿なことを言ってるんですか?全く理解できない」

「αの優秀な脳を持ってしても理解できないなんてことがあるんですね」

 カイル王子が机の上にあったコップを床に投げつけた。大きな音と共にオレンジジュースとガラスの破片が散らばる。

「ダン・・・・一体何がしたいんですか?何が望みなんですか?」

「単刀直入に云うとカイル様との縁を切りたいんですよ。これ以上ここに来られるのは迷惑だ」

「・・・・僕が貴方のことを想ってここに来ていたのは迷惑でしたか?」

「えぇ」

 素っ気なく返事をする。今顔を見たら決心が揺らぎそうで目を伏せる。

「僕がいた日々は?僕と話していた時間は少しも楽しくありませんでしたか?」

「全く楽しくなかったですよ」

 今日だけで一体何個嘘をついたのだろう。カイルが何度もここに来てくれて嬉しかった。一緒にお菓子を食べている時間が楽しかった。同じベッドで寝た背中が暖かかった。

「王族だから丁寧な対応してあげたら、何故か好かれて甚だ迷惑なんですよ」

「・・・・僕が王族じゃなかったらダンは僕と番になるなんて約束しなかったということですか?」

「そうに決まってるじゃないですか。大体、俺じゃなくてもいいでしょう?王族なんだからオメガなんか囲おうと思えば何人でも囲えるんだし」

「ダンは何も分かってない!僕が欲しいオメガは君だけだ!君が手に入るなら他に何もいらないんだ・・・」

「ほらそれも、迷惑なんですよ。今はそう感じてるかもしれませんけど時が経てばすっかり忘れてますよ」

「忘れるわけないだろ!僕が唯一愛している人なんだ!・・・・僕のことを大事な人って言ったじゃないですか」

 『愛している人』と言われて心臓が跳ね上がる。嬉しい。涙が出そうになる。

「ええ、大事な人ですよ。俺に美味しい思いをさせてくれる大事な人」

 カイルが苦しそうな表情をする。

 いっその事俺の事を嫌いになってくれたらいいんだ。そして、他の人のことを好きになればいいんだ

「αに囲われていない出来損ないのオメガに同情心を抱いただけですよ。庇護欲を愛情と勘違いしてるだけだ」

「・・・・埒が明かない。いいですよそこまで言うならもうここには来ませんよ」

 胸がぎゅうっと締め付けられる。いや、自分から言ったのだから自業自得だ俺が悲しくなるのは違う。

「最後に質問させてください」

「なんですか?」

「僕のことどう思ってますか?」

 鼓動がより一層うるさくなった。喉が震えるのを振り絞って無理やり声を出す。

「大嫌いですよ。出会った時から今までずっと」

「・・・・突き放そうとするなら、そんな顔して言わないでくださいよ」

 カイル王子は悲しそうにそれでいてどこか嬉しそうにそう言うと出ていった。馬車が小さくなっていくのが見えた。

 あぁ、そっか終わったのか。終わらせてしまったのか・・・本当はもっと色んなこと一緒にしたかったなぁ。お菓子作ったり、また2人で山に行ったり、街で買い物とかしてみたかったなぁ。叶うことはもう無いのだけれど

 これ以上一緒にいてもいつか来る別れが辛くなるだけだったし、手を引いて良かったのかもしれない。そう言い聞かせるしかなかった。自業自得だし、こんなことを俺が言うのはお門違いだ。

 でも俺はカイルのことが好きだったよ
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