41 / 52
一章
ごっこ
しおりを挟む
紙が散り散りになってその場に落ちていく。破き終えて静寂が流れた。口を開いたのはカイル王子だった。
「こ・・・・これは一体・・・・どういう事ですか?」
声が視線が珍しく震えていた。
「別にどうもこうも無いですよ。カイル様、俺たちの番ごっこに終わりが来ただけですよ」
同様に俺の声も震えている。本当は終わって欲しくなかった。今日は契約書を持っていないことを願っていたのかもしれない。
「ごっこってどういうことですか」
さっきとは打って変わって声に怒りが灯っていた。
「番ごっこですよ。物好きなアルファと出来損ないのオメガの。まあ、俺も王族の人と会うことなんてなかったし、パーティーとか参加させてもらえて正直いい思いは出来たんで、ここらで潮時かなと思ったんで」
「ダン!」
大きな声に鼓膜が揺れる。カイル王子にこうして大きな声をあげられるのは何度目だろう。
「あまりふざけた事を抜かさないでください。僕も流石に怒りますよ」
「ふざけた事なんかじゃなくて紛れもない事実を述べたまでですよ。まぁ、カイル王子にメリットなんか無かったかもしれないですけど。・・・・あぁ、ローラ様との婚約を破棄できたのか。じゃあウィンウィンじゃないですか。よかったですね」
「何を馬鹿なことを言ってるんですか?全く理解できない」
「αの優秀な脳を持ってしても理解できないなんてことがあるんですね」
カイル王子が机の上にあったコップを床に投げつけた。大きな音と共にオレンジジュースとガラスの破片が散らばる。
「ダン・・・・一体何がしたいんですか?何が望みなんですか?」
「単刀直入に云うとカイル様との縁を切りたいんですよ。これ以上ここに来られるのは迷惑だ」
「・・・・僕が貴方のことを想ってここに来ていたのは迷惑でしたか?」
「えぇ」
素っ気なく返事をする。今顔を見たら決心が揺らぎそうで目を伏せる。
「僕がいた日々は?僕と話していた時間は少しも楽しくありませんでしたか?」
「全く楽しくなかったですよ」
今日だけで一体何個嘘をついたのだろう。カイルが何度もここに来てくれて嬉しかった。一緒にお菓子を食べている時間が楽しかった。同じベッドで寝た背中が暖かかった。
「王族だから丁寧な対応してあげたら、何故か好かれて甚だ迷惑なんですよ」
「・・・・僕が王族じゃなかったらダンは僕と番になるなんて約束しなかったということですか?」
「そうに決まってるじゃないですか。大体、俺じゃなくてもいいでしょう?王族なんだからオメガなんか囲おうと思えば何人でも囲えるんだし」
「ダンは何も分かってない!僕が欲しいオメガは君だけだ!君が手に入るなら他に何もいらないんだ・・・」
「ほらそれも、迷惑なんですよ。今はそう感じてるかもしれませんけど時が経てばすっかり忘れてますよ」
「忘れるわけないだろ!僕が唯一愛している人なんだ!・・・・僕のことを大事な人って言ったじゃないですか」
『愛している人』と言われて心臓が跳ね上がる。嬉しい。涙が出そうになる。
「ええ、大事な人ですよ。俺に美味しい思いをさせてくれる大事な人」
カイルが苦しそうな表情をする。
いっその事俺の事を嫌いになってくれたらいいんだ。そして、他の人のことを好きになればいいんだ
「αに囲われていない出来損ないのオメガに同情心を抱いただけですよ。庇護欲を愛情と勘違いしてるだけだ」
「・・・・埒が明かない。いいですよそこまで言うならもうここには来ませんよ」
胸がぎゅうっと締め付けられる。いや、自分から言ったのだから自業自得だ俺が悲しくなるのは違う。
「最後に質問させてください」
「なんですか?」
「僕のことどう思ってますか?」
鼓動がより一層うるさくなった。喉が震えるのを振り絞って無理やり声を出す。
「大嫌いですよ。出会った時から今までずっと」
「・・・・突き放そうとするなら、そんな顔して言わないでくださいよ」
カイル王子は悲しそうにそれでいてどこか嬉しそうにそう言うと出ていった。馬車が小さくなっていくのが見えた。
あぁ、そっか終わったのか。終わらせてしまったのか・・・本当はもっと色んなこと一緒にしたかったなぁ。お菓子作ったり、また2人で山に行ったり、街で買い物とかしてみたかったなぁ。叶うことはもう無いのだけれど
これ以上一緒にいてもいつか来る別れが辛くなるだけだったし、手を引いて良かったのかもしれない。そう言い聞かせるしかなかった。自業自得だし、こんなことを俺が言うのはお門違いだ。
でも俺はカイルのことが好きだったよ
「こ・・・・これは一体・・・・どういう事ですか?」
声が視線が珍しく震えていた。
「別にどうもこうも無いですよ。カイル様、俺たちの番ごっこに終わりが来ただけですよ」
同様に俺の声も震えている。本当は終わって欲しくなかった。今日は契約書を持っていないことを願っていたのかもしれない。
「ごっこってどういうことですか」
さっきとは打って変わって声に怒りが灯っていた。
「番ごっこですよ。物好きなアルファと出来損ないのオメガの。まあ、俺も王族の人と会うことなんてなかったし、パーティーとか参加させてもらえて正直いい思いは出来たんで、ここらで潮時かなと思ったんで」
「ダン!」
大きな声に鼓膜が揺れる。カイル王子にこうして大きな声をあげられるのは何度目だろう。
「あまりふざけた事を抜かさないでください。僕も流石に怒りますよ」
「ふざけた事なんかじゃなくて紛れもない事実を述べたまでですよ。まぁ、カイル王子にメリットなんか無かったかもしれないですけど。・・・・あぁ、ローラ様との婚約を破棄できたのか。じゃあウィンウィンじゃないですか。よかったですね」
「何を馬鹿なことを言ってるんですか?全く理解できない」
「αの優秀な脳を持ってしても理解できないなんてことがあるんですね」
カイル王子が机の上にあったコップを床に投げつけた。大きな音と共にオレンジジュースとガラスの破片が散らばる。
「ダン・・・・一体何がしたいんですか?何が望みなんですか?」
「単刀直入に云うとカイル様との縁を切りたいんですよ。これ以上ここに来られるのは迷惑だ」
「・・・・僕が貴方のことを想ってここに来ていたのは迷惑でしたか?」
「えぇ」
素っ気なく返事をする。今顔を見たら決心が揺らぎそうで目を伏せる。
「僕がいた日々は?僕と話していた時間は少しも楽しくありませんでしたか?」
「全く楽しくなかったですよ」
今日だけで一体何個嘘をついたのだろう。カイルが何度もここに来てくれて嬉しかった。一緒にお菓子を食べている時間が楽しかった。同じベッドで寝た背中が暖かかった。
「王族だから丁寧な対応してあげたら、何故か好かれて甚だ迷惑なんですよ」
「・・・・僕が王族じゃなかったらダンは僕と番になるなんて約束しなかったということですか?」
「そうに決まってるじゃないですか。大体、俺じゃなくてもいいでしょう?王族なんだからオメガなんか囲おうと思えば何人でも囲えるんだし」
「ダンは何も分かってない!僕が欲しいオメガは君だけだ!君が手に入るなら他に何もいらないんだ・・・」
「ほらそれも、迷惑なんですよ。今はそう感じてるかもしれませんけど時が経てばすっかり忘れてますよ」
「忘れるわけないだろ!僕が唯一愛している人なんだ!・・・・僕のことを大事な人って言ったじゃないですか」
『愛している人』と言われて心臓が跳ね上がる。嬉しい。涙が出そうになる。
「ええ、大事な人ですよ。俺に美味しい思いをさせてくれる大事な人」
カイルが苦しそうな表情をする。
いっその事俺の事を嫌いになってくれたらいいんだ。そして、他の人のことを好きになればいいんだ
「αに囲われていない出来損ないのオメガに同情心を抱いただけですよ。庇護欲を愛情と勘違いしてるだけだ」
「・・・・埒が明かない。いいですよそこまで言うならもうここには来ませんよ」
胸がぎゅうっと締め付けられる。いや、自分から言ったのだから自業自得だ俺が悲しくなるのは違う。
「最後に質問させてください」
「なんですか?」
「僕のことどう思ってますか?」
鼓動がより一層うるさくなった。喉が震えるのを振り絞って無理やり声を出す。
「大嫌いですよ。出会った時から今までずっと」
「・・・・突き放そうとするなら、そんな顔して言わないでくださいよ」
カイル王子は悲しそうにそれでいてどこか嬉しそうにそう言うと出ていった。馬車が小さくなっていくのが見えた。
あぁ、そっか終わったのか。終わらせてしまったのか・・・本当はもっと色んなこと一緒にしたかったなぁ。お菓子作ったり、また2人で山に行ったり、街で買い物とかしてみたかったなぁ。叶うことはもう無いのだけれど
これ以上一緒にいてもいつか来る別れが辛くなるだけだったし、手を引いて良かったのかもしれない。そう言い聞かせるしかなかった。自業自得だし、こんなことを俺が言うのはお門違いだ。
でも俺はカイルのことが好きだったよ
4
お気に入りに追加
797
あなたにおすすめの小説
異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。
蒼猫
BL
聖女召喚に巻き込まれた就活中の27歳、桜樹 海。
見知らぬ土地に飛ばされて困惑しているうちに、聖女としてもてはやされる女子高生にはストーカー扱いをされ、聖女を召喚した王様と魔道士には邪魔者扱いをされる。元いた世界でもモブだったけど、異世界に来てもモブなら俺の存在意義は?と悩むも……。
暗雲に覆われた城下町を復興支援しながら、騎士団長と愛を育む!?
山あり?谷あり?な異世界転移物語、ここにて開幕!
18禁要素がある話は※で表します。
お助けキャラの俺は、今日も元気に私欲に走ります。
ゼロ
BL
7歳の頃、前世の記憶を思い出した。
そして今いるこの世界は、前世でプレイしていた「愛しの貴方と甘い口付けを」というBLゲームの世界らしい。
なんでわかるかって?
そんなの俺もゲームの登場人物だからに決まってんじゃん!!
でも、攻略対象とか悪役とか、ましてや主人公でも無いけどね〜。
俺はね、主人公くんが困った時に助言する
お助けキャラに転生しました!!!
でもね、ごめんね、主人公くん。
俺、君のことお助け出来ないわ。
嫌いとかじゃないんだよ?
でもここには前世憧れたあの子がいるから!
ということで、お助けキャラ放棄して
私欲に走ります。ゲーム?知りませんよ。そんなもの、勝手に進めておいてください。
これは俺が大好きなあの子をストーkじゃなくて、見守りながら腐の巣窟であるこの学園で、
何故か攻略対象者達からお尻を狙われ逃げ回るお話です!
どうか俺に安寧の日々を。
奴隷商人は紛れ込んだ皇太子に溺愛される。
拍羅
BL
転生したら奴隷商人?!いや、いやそんなことしたらダメでしょ
親の跡を継いで奴隷商人にはなったけど、両親のような残虐な行いはしません!俺は皆んなが行きたい家族の元へと送り出します。
え、新しく来た彼が全く理想の家族像を教えてくれないんだけど…。ちょっと、待ってその貴族の格好した人たち誰でしょうか
※独自の世界線
傾国のΩと呼ばれて破滅したと思えば人生をやり直すことになったので、今度は遠くから前世の番を見守ることにします
槿 資紀
BL
傾国のΩと呼ばれた伯爵令息、リシャール・ロスフィードは、最愛の番である侯爵家嫡男ヨハネス・ケインを洗脳魔術によって不当に略奪され、無理やり番を解消させられた。
自らの半身にも等しいパートナーを失い狂気に堕ちたリシャールは、復讐の鬼と化し、自らを忘れてしまったヨハネスもろとも、ことを仕組んだ黒幕を一族郎党血祭りに上げた。そして、間もなく、その咎によって処刑される。
そんな彼の正気を呼び戻したのは、ヨハネスと出会う前の、9歳の自分として再び目覚めたという、にわかには信じがたい状況だった。
しかも、生まれ変わる前と違い、彼のすぐそばには、存在しなかったはずの双子の妹、ルトリューゼとかいうケッタイな娘までいるじゃないか。
さて、ルトリューゼはとかく奇妙な娘だった。何やら自分には前世の記憶があるだの、この世界は自分が前世で愛読していた小説の舞台であるだの、このままでは一族郎党処刑されて死んでしまうだの、そんな支離滅裂なことを口走るのである。ちらほらと心あたりがあるのがまた始末に負えない。
リシャールはそんな妹の話を聞き出すうちに、自らの価値観をまるきり塗り替える概念と出会う。
それこそ、『推し活』。愛する者を遠くから見守り、ただその者が幸せになることだけを一身に願って、まったくの赤の他人として尽くす、という営みである。
リシャールは正直なところ、もうあんな目に遭うのは懲り懲りだった。番だのΩだの傾国だのと鬱陶しく持て囃され、邪な欲望の的になるのも、愛する者を不当に奪われて、周囲の者もろとも人生を棒に振るのも。
愛する人を、自分の破滅に巻き込むのも、全部たくさんだった。
今もなお、ヨハネスのことを愛おしく思う気持ちに変わりはない。しかし、惨憺たる結末を変えるなら、彼と出会っていない今がチャンスだと、リシャールは確信した。
いざ、思いがけず手に入れた二度目の人生は、推し活に全てを捧げよう。愛するヨハネスのことは遠くで見守り、他人として、その幸せを願うのだ、と。
推し活を万全に営むため、露払いと称しては、無自覚に暗躍を始めるリシャール。かかわりを持たないよう徹底的に避けているにも関わらず、なぜか向こうから果敢に接近してくる終生の推しヨハネス。真意の読めない飄々とした顔で事あるごとにちょっかいをかけてくる王太子。頭の良さに割くべきリソースをすべて顔に費やした愛すべき妹ルトリューゼ。
不本意にも、様子のおかしい連中に囲まれるようになった彼が、平穏な推し活に勤しめる日は、果たして訪れるのだろうか。
音楽の神と呼ばれた俺。なんか殺されて気づいたら転生してたんだけど⁉(完)
柿の妖精
BL
俺、牧原甲はもうすぐ二年生になる予定の大学一年生。牧原家は代々超音楽家系で、小さいころからずっと音楽をさせられ、今まで音楽の道を進んできた。そのおかげで楽器でも歌でも音楽に関することは何でもできるようになり、まわりからは、音楽の神と呼ばれていた。そんなある日、大学の友達からバンドのスケットを頼まれてライブハウスへとつながる階段を下りていたら後ろから背中を思いっきり押されて死んでしまった。そして気づいたら代々超芸術家系のメローディア公爵家のリトモに転生していた!?まぁ音楽が出来るなら別にいっか!
そんな音楽の神リトモと呪いにかけられた第二王子クオレの恋のお話。
完全処女作です。温かく見守っていただけると嬉しいです。<(_ _)>
満月に囚われる。
柴傘
BL
「僕は、彼と幸せになる」
俺にそう宣言した、想い人のアルフォンス。その横には、憎き第一王子が控えていた。
…あれ?そもそも俺は何故、こんなにも彼に執心していたのだろう。確かに彼を愛していた、それに嘘偽りはない。
だけど何故、俺はあんなことをしてまで彼を手に入れようとしたのだろうか。
そんな自覚をした瞬間、頭の中に勢い良く誰かの記憶が流れ込む。その中に、今この状況と良く似た事が起きている物語があった。
…あっ、俺悪役キャラじゃん!
そう思ったが時既に遅し、俺は第一王子の命令で友好国である獣人国ユースチスへ送られた。
そこで出会った王弟であるヴィンセントは、狼頭の獣人。一見恐ろしくも見える彼は、とても穏やかで気遣いが出来るいい人だった。俺たちはすっかり仲良くなり、日々を楽しく過ごしていく。
だけど次第に、友人であるヴィンスから目が離せなくなっていて…。
狼獣人王弟殿下×悪役キャラに転生した主人公。
8/13以降不定期更新。R-18描写のある話は*有り
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる