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一章

隠し事

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 カイル王子は俺の事をよく気にかけてくれるし優しい。しかしながら、俺は王子のことを好きかと聞かれたら、自分でもわからない。

 王子のことを人間としては好きだし大変素晴らしいお方だと思う。しかし、恋愛感情を誰にも抱いたことが無いわけだから友人としての『好き』と恋愛感情としての『好き』の違いがわからない。だから、俺にとっては王子を好きだとも好きじゃないとも明言することは避けたかった。


 俺はお兄ちゃんの目を見ることができず、目を逸らした。なんと答えるのが正解なのかわからなかった。

「それより!お兄ちゃんは今騎士団で何してるんですか?」

「・・・お兄ちゃんって恥ずかしいからやめろよな。普通にブラッドでいいよ。あと、タメ口でいい」

「ブラッド・・・ブラッド・・・なんか慣れないね」

 俺がぎこちなく笑うと今度はおにい・・・ブラッドが目を逸らした。久しぶりの再会を楽しむ俺に、カイル王子は驚きが隠せないようだった。

「で!何してるの?」

「うーん・・・基本的には王様やら偉い人の護衛だな。あとは、偶に街の巡回したり。天才騎士様なので後輩の育成もしてる、かな」

「へぇ~大変なんだね」

 自分で天才とか言っちゃうあたり変わらないなと思う。懐かしい雰囲気に浸る。カイル王子が「僕も仲間に入れろ」と言わんばかりの視線を向けていたが気づいていないフリをした。

「つか、なんでジャックとダンとカイル王子が知り合いなんだよ」

「僕・・・兄さんの匂いを辿ってたら・・・偶然ダンさんに・・・会ったんだ」

「僕は迷っていたところで偶然会いました」

 ブラッドはジャック様の話に若干引きつつもそうかと納得していた。無理矢理納得させたの方が表現としては近いのかもしれないが。

「兄さんは・・・もう、僕の家には・・・来ない・・・?」

「あ~何年も帰ってないからなぁ。今更帰っても・・・」

「母さん達・・・会いたがってた・・・よ」

「・・・どうだかねぇ」

 ブラッドは水を口に運んだ。しばらく沈黙が続いた後、口を開いたのはブラッドだった。

「なぁ、ダンちょっと散歩行かない?」

「う、うん」

 俺はこの気まずい空気に耐えられなくてブラッドと一緒に外に出る。ジャック様はブラッドの事を名残惜しそうに見ていた。


 夕日が肌を赤く染める。空が赤いとはいえもう夜の七時だった。蒸し暑い空気が肺に侵入する。この季節はどうも苦手だった。もとより体力がある訳ではないのに、汗をかくことでもっと生気を吸い取られるような気がする。

「近くに川があるだろ。あそこら辺まで歩こうぜ」

「いいけど、二人のこと置いてきてよかったの?」

「まぁ、いいだろ」

 能天気そうに言うブラッドの後ろを歩いた。いつかの昔と同じように。
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