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解答編

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 私は証言者の腕をひいて、刑事たちがいる部屋の向かいの部屋に連れて行った。

「何ですか、突然」

 彼は私を警戒しているようだった。当然だろう。なんといったって、彼は私が幸雄を襲った犯人だと考えているのだから。

「ねえ、君、悪いんだけど、さっき君が刑事たちに話したあの証言、取り消してきてくれないかな? 」

 彼、熊谷は、私の言葉を聞くとさっと青ざめた。

「僕が証言したってことは、話さないって言っていたのに! 」

「ああ、刑事たちは君が証言したなんて一言も言わなかったよ」

 私がそう言うと、熊谷は怪訝な様子で眉を寄せた。

「じゃあ、どうして……」

「簡単なことだ。あんな証言をするのは君しかいないんだよ。なんと言ったって、僕は実際には幸雄君と口論なんかしていないんだからね。君は大きな勘違いをしているんだ。まず、はじめに確認だが、君が幸雄君の部屋の前で聞いたのは、『よしきがまちがっていたんだ』とか、そんな言葉だったね? 」

 熊谷はゆっくりと頷いた。

「それを聞いて君は幸雄君が『ヨシキ』という人物と口論しているのだと思った。しかし、おそらく実際にはそうじゃない。幸雄君は多分、『与式』が間違っていた、と言ったんだ。幸雄君の発音は標準語とは少し違う部分があるから、君のような勘違いをしても仕方ないだろう」

 私の説明を聞いて、熊谷は不満そうに腕を組んだ。

「どうしてそう言い切れるんですか? あなたは自分が口論なんてしていないからそちらの解釈が正しいと言いますけど、それが本当だって、どうやって証明できるんですか? 」

「それだよ、熊谷君。その勘違いが証言者を君一人に絞っているんだ」

 私は首を傾げた熊谷の目をじっと見た。

「僕の名前は『ハルキ』なんだよ、熊谷君」

 熊谷はそれを聞くと、えっ、と言って目を見開いた。

「でも、あの漢字で……」

「美しいという字はハル、とも読めるよ。実際、美田はるたという名字がある。

 そして、僕の名前をヨシキだと勘違いできるのは君だけなんだ」

 私の友人たちは勿論私の名前を知っているし、鹿海は私の名前を文字で見たことはないのだから、そんな勘違いができようはずもない。

「つまり、帯刀君があなたのことをヨシキと呼ぶことはありえないってことですか」

「そういうことだね。これで君も自分の間違いが分かっただろう? それなら、早くあの刑事たちに自分の勘違いだったと伝えてきてくれないか。ああ、僕に指摘されたなんて、言わないでくれよ」

 熊谷は私の言葉に頷くと、勢いよく部屋を飛び出して行った。
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