238 / 245
第38話 勇者、真実に向き合う
〜6〜
しおりを挟む
とはいえ、そんな悲劇があったなんて、と今更善意の第三者を装うつもりはなかった。
退魔の子というものがこの世界に存在すると知った時から気付いていた。
いつかイナムがこういう事を起こすだろうと思っていたし、それで退魔の子が大勢死んでも大した問題にはならないから放っておいても大丈夫かと思っていた。
俺が呑気に見て見ぬフリをしていても、三條は馬鹿真面目に問題に取り組んでいた。
退魔の子をこの世界から守ることができなくても、イナムが余計な事を言って叶わない望みに向かって行かないようにした。イナムを集めてお茶会を開くとか言っていたけれど、つまるところ話さずにはいられない秘密、前世の世界や自分の記憶の話を打ち明ける場を作って、決してそこ以外では話さないように結束するつもりだったんだ。
しかし、既に問題は起きている。
誰に何と相談したものかと考えつつポテコと分かれて市内に戻る道を歩いていると、通信機が鳴った。
『アガットの件、見たのはホーリアだけと聞いている』
応答して名乗もせずに話し出したのはオグオンだった。
オグオンは、カルムが死んでからというもの他国に行って経緯を説明するという余計な案件に追われていた。
優秀な魔術師は死んでからも求められる。俺がやったように眼球の記録を読み取れば生前に構築した術式の情報を得る事ができるし、死体そのものに魔力が染み付いているからそのまま術式に変換できる。
倫理的な問題で死体の利用は禁止されているが、肉体の制限が無い分強力な魔術を放てる魔術兵器だ。カルム程の軍事魔術師であれば周辺諸国を丸ごと焼き払うくらい可能だろう。
カルムの死体はリコリスが回収して、そのまま姿を消している。他国からしてみると、危険な軍事兵器を隠しているのに等しい。
そのせいで、ヴィルドルクは軍事魔術師の死を契機に他国に攻め入ろうとしている、と根も葉もない噂が流れてしまった。
それを払拭するために、オグオンは直接国々に赴いて説明しに行って大忙しだ。
禁止されているとはいえ、こうして大臣が必死に弁明しないと信じてもらえないということは、どの国でも死体を使った魔術兵器開発をやっているらしい。
『バラバラだったらしいな』
「ゼロ番街の支配人が戻した。それでも欠けた箇所があったが」
オグオンとしては、その時に俺が死体を回収していれば大臣の余計な仕事が増えずに済んだ。
俺に八つ当たりをしてもおかしくないのに、口調はいつも通り平坦だった。内心はリコリスと俺をまとめて八つ裂きにしたいくらい怒り狂っているかもしれないが。
『運びやすいようにか』
オグオンがカルムの死体の状況などどうでもいい、とでも言うように話を強引に進めた。
俺が行って欲しくない方に話が進もうとしている。
平穏に今日の天気の話題にでも転換させようとしたが、オグオンは俺の答えを待たずに続ける。
『ホーリアは死体だけでなく、それを運んでいる所も見たんだろう。子どもだったのか?』
オグオンに嘘を吐いても無駄だから、俺は黙っていた。
むしろ、ここで否定でもして反抗の意志を見せたら、俺が無能なせいで激務に追われているオグオンが俺を葬りにくるかもしれない。
『退魔の子の、知り合いか?』
「……後でまた連絡する」
『ホーリア、余計な事は考えるな』
オグオンが俺を叱り付けるように言ったが、俺は通信を切った。
一番の問題は、彼等が死ぬのは怖くないということだ。
目立つ所にカルムの死体を捨てて、魔術師や魔力を持つ人間への敵意を明らかにした。結果殺されたとしても、死んだら魔法が無い世界に生まれ変われると信じている。捨て身の戦いでも望んで身を投じるだろう。
早く何とかしないと、オグオンが動き出してしまう。
勇者や魔術師が少し動けば、彼等を本当に全滅させることなんて簡単なことだ。
退魔の子というものがこの世界に存在すると知った時から気付いていた。
いつかイナムがこういう事を起こすだろうと思っていたし、それで退魔の子が大勢死んでも大した問題にはならないから放っておいても大丈夫かと思っていた。
俺が呑気に見て見ぬフリをしていても、三條は馬鹿真面目に問題に取り組んでいた。
退魔の子をこの世界から守ることができなくても、イナムが余計な事を言って叶わない望みに向かって行かないようにした。イナムを集めてお茶会を開くとか言っていたけれど、つまるところ話さずにはいられない秘密、前世の世界や自分の記憶の話を打ち明ける場を作って、決してそこ以外では話さないように結束するつもりだったんだ。
しかし、既に問題は起きている。
誰に何と相談したものかと考えつつポテコと分かれて市内に戻る道を歩いていると、通信機が鳴った。
『アガットの件、見たのはホーリアだけと聞いている』
応答して名乗もせずに話し出したのはオグオンだった。
オグオンは、カルムが死んでからというもの他国に行って経緯を説明するという余計な案件に追われていた。
優秀な魔術師は死んでからも求められる。俺がやったように眼球の記録を読み取れば生前に構築した術式の情報を得る事ができるし、死体そのものに魔力が染み付いているからそのまま術式に変換できる。
倫理的な問題で死体の利用は禁止されているが、肉体の制限が無い分強力な魔術を放てる魔術兵器だ。カルム程の軍事魔術師であれば周辺諸国を丸ごと焼き払うくらい可能だろう。
カルムの死体はリコリスが回収して、そのまま姿を消している。他国からしてみると、危険な軍事兵器を隠しているのに等しい。
そのせいで、ヴィルドルクは軍事魔術師の死を契機に他国に攻め入ろうとしている、と根も葉もない噂が流れてしまった。
それを払拭するために、オグオンは直接国々に赴いて説明しに行って大忙しだ。
禁止されているとはいえ、こうして大臣が必死に弁明しないと信じてもらえないということは、どの国でも死体を使った魔術兵器開発をやっているらしい。
『バラバラだったらしいな』
「ゼロ番街の支配人が戻した。それでも欠けた箇所があったが」
オグオンとしては、その時に俺が死体を回収していれば大臣の余計な仕事が増えずに済んだ。
俺に八つ当たりをしてもおかしくないのに、口調はいつも通り平坦だった。内心はリコリスと俺をまとめて八つ裂きにしたいくらい怒り狂っているかもしれないが。
『運びやすいようにか』
オグオンがカルムの死体の状況などどうでもいい、とでも言うように話を強引に進めた。
俺が行って欲しくない方に話が進もうとしている。
平穏に今日の天気の話題にでも転換させようとしたが、オグオンは俺の答えを待たずに続ける。
『ホーリアは死体だけでなく、それを運んでいる所も見たんだろう。子どもだったのか?』
オグオンに嘘を吐いても無駄だから、俺は黙っていた。
むしろ、ここで否定でもして反抗の意志を見せたら、俺が無能なせいで激務に追われているオグオンが俺を葬りにくるかもしれない。
『退魔の子の、知り合いか?』
「……後でまた連絡する」
『ホーリア、余計な事は考えるな』
オグオンが俺を叱り付けるように言ったが、俺は通信を切った。
一番の問題は、彼等が死ぬのは怖くないということだ。
目立つ所にカルムの死体を捨てて、魔術師や魔力を持つ人間への敵意を明らかにした。結果殺されたとしても、死んだら魔法が無い世界に生まれ変われると信じている。捨て身の戦いでも望んで身を投じるだろう。
早く何とかしないと、オグオンが動き出してしまう。
勇者や魔術師が少し動けば、彼等を本当に全滅させることなんて簡単なことだ。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
一家処刑?!まっぴら御免ですわ! ~悪役令嬢(予定)の娘と意地悪(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。
この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。
最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!!
悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
虚無の統括者 〜両親を殺された俺は復讐の為、最強の配下と組織の主になる〜
サメ狐
ファンタジー
———力を手にした少年は女性達を救い、最強の組織を作ります!
魔力———それは全ての種族に宿り、魔法という最強の力を手に出来る力
魔力が高ければ高い程、魔法の威力も上がる
そして、この世界には強さを示すSSS、SS、S、A、B、C、D、E、Fの9つのランクが存在する
全世界総人口1000万人の中でSSSランクはたったの5人
そんな彼らを世界は”選ばれし者”と名付けた
何故、SSSランクの5人は頂きに上り詰めることが出来たのか?
それは、魔力の最高峰クラス
———可視化できる魔力———を唯一持つ者だからである
最強無敗の力を秘め、各国の最終戦力とまで称されている5人の魔法、魔力
SSランクやSランクが束になろうとたった一人のSSSランクに敵わない
絶対的な力と象徴こそがSSSランクの所以。故に選ばれし者と何千年も呼ばれ、代変わりをしてきた
———そんな魔法が存在する世界に生まれた少年———レオン
彼はどこにでもいる普通の少年だった‥‥
しかし、レオンの両親が目の前で亡き者にされ、彼の人生が大きく変わり‥‥
憎悪と憎しみで彼の中に眠っていた”ある魔力”が現れる
復讐に明け暮れる日々を過ごし、数年経った頃
レオンは再び宿敵と遭遇し、レオンの”最強の魔法”で両親の敵を討つ
そこで囚われていた”ある少女”と出会い、レオンは決心する事になる
『もう誰も悲しまない世界を‥‥俺のような者を創らない世界を‥‥』
そしてレオンは少女を最初の仲間に加え、ある組織と対立する為に自らの組織を結成する
その組織とは、数年後に世界の大罪人と呼ばれ、世界から軍から追われる最悪の組織へと名を轟かせる
大切な人を守ろうとすればする程に、人々から恨まれ憎まれる負の連鎖
最強の力を手に入れたレオンは正体を隠し、最強の配下達を連れて世界の裏で暗躍する
誰も悲しまない世界を夢見て‥‥‥レオンは世界を相手にその力を奮うのだった。
恐縮ながら少しでも観てもらえると嬉しいです
なろう様カクヨム様にも投稿していますのでよろしくお願いします
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる