元公務員が異世界転生して辺境の勇者になったけど魔獣が13倍出現するブラック地区だから共生を目指すことにした

まどぎわ

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第33話 勇者、学会に参加する

〜5〜

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 「決闘だ!」「望むところよ」とヨルガとリリーナが言い争っているのを、俺はトイレの中で、早々に迎え酒をしたカルムの口に指を突っ込んで吐かせながら聞いていた。
 じたばたと暴れるカルムを抑えつつ、この国の法律でも決闘は何かしらの罪になったような気がして法律全集を思い出していた。
 しかし、魔術師同士の決闘は勝手にやってくれみたいな感じだったから、リリーナとヨルガが決闘をする分には問題ないのかもしれない。

 ならいいか、と安心したのに、ヨルガの決闘の相手は俺だった。

 魔術で構築した白い異空間に、石の床に直径30mくらいの巨大な円を描いただけの闘技場が決闘の舞台だ。
 この異空間の中ならどれだけ大暴れしても通常の空間に影響はないし、中でいくら怪我をしたり万が一死んだりしても、外に出れば無傷のままだ。
 怪我をしないなら決闘をしてやるか、という気持ちになれるほど俺はお人好しではない。

「ルールは?」

 カルムは、ヨルガに押し付けられた旗をやる気がなさそうにぷらぷらと振りつつ尋ねた。
 どうして自分が付き合わないといけないんだ、という顔をしていたが、はっきり嫌とは言わなかったのでヨルガに捕まって審判をやらされていた。
 生きて行くのに苦労が多そうな奴だが、ろくな説明もされないまま決闘の相手になっている俺よりもマシだろう。

「場外か、戦闘不能になるまで」

 ヨルガの返事に、カルムが頷いてへろへろと上げていた旗を振り下ろす。
 開始の合図があっても、先攻のヨルガはすぐに動かない。
 最初の一撃が一番重要だ。魔術師の決闘は、戦争で軍事魔術師が対峙した時と同じやり方で行われる。
 魔術で一度攻撃をされて、それを防御しつつそれよりも高度な魔術を撃ち返す。ラリーのようにそれを繰り返して、防御しきれなくなった方が負ける。
 もちろん、複数人で同時に攻撃するとか、後ろから奇襲をするとか、勝率を上げるやり方はいくらでもあるが、正々堂々と戦うことにプライドを掛けている魔術師たちはどんな戦場でもそうやって戦っていた。
 そして、カルムのような変わり者を除いて殆どの魔術師は戦争に直接赴いて戦うことはなくなったが、今でもこの決闘のやり方が引き継がれている。

「リリーナさん、どっちが勝つと思いますか?」

「うーん……五分五分な気がするわ」

 今更逃げ出す訳にもいかないし腹を括ったところだったのに、横の観覧席から好き勝手なことを言っているのが聞こえた。
 ニーアとリリーナは、呼んでいないのに異空間に入り、勝手に観覧席を作って眺めていた。
 観覧席は闘技場の円の外側にある。決闘の魔術は円の外には出ないように作られているから危険はないが、それにしても緊張感がない。

「勇者様って、魔術師から見たらどうですか?」

「まぁ、普通ね。教科書読んで頑張って勉強したんだろうなってかんじ」

「えー!?それなら、勇者様とヨルガさん、どっちが勝つかわかんないってかんじですか?!」

「ね。あーあ、どっち応援しようー」

 俺以外を応援する選択肢があるのか。
 誰のせいで俺が戦っていると思っているんだ、と腑に落ちないまま待っていると、ヨルガから攻撃が飛んできた。
 単純な風魔術だ。とはいえ、発動すると辺り一面が吹き飛ぶくらいの強力なものだから、発動前に術式を読み解いて解除する。
 そして、同じ風魔術をより強力にして解除魔術に対する防御壁を三重にして打ち返す。
 実際の戦争では魔術の種類に縛りはないが、こういう形式ばった決闘の場では相手が攻撃してきた魔術と同じ系統の術を返すのが相応しいとされている。
 魔術師にとっては簡単な防御魔術など無いに等しいのか、ヨルガは簡単に解除した。そして、同じように防御魔術を追加して反撃してくる。
 あまり複雑な術式だと解読が間に合わなくなるが、意外にも俺と同じようなレベルの術式で発動前に全て解除することが出来た。
 魔術師がこの程度な知識のはずがないから、ここは慎重に、俺は手数が多いだけの同レベルの術式を返す。

「リリーナさん、魔術師の決闘って術が発動しないんですか?」

「まぁね。実際の戦争だと発動した瞬間に即死するようなのもあるし」

「へー……」

「だから、見ててもつまんないでしょ。賭けでもする?」

「ニーアは、勇者様が勝つ方に賭けますよ」

「あたしも一応そっちかなぁ。でも、それじゃあ賭けにならないし、ヨルガにしようかしら」

 聞き間違いかと観覧席の会話に気を取られて、防御壁の解除が一瞬遅れる。
 解除した後に、トラップで仕込まれていた剣が3本出現して襲いかかってくる。僅かでも反応が遅れていたら串刺しになっていたが、寸前でかわしてローブが切り裂かれるだけで済んだ。
 風魔術で無傷のまま場外を狙う紳士的な戦い方をするかと思わせて、いきなり方向性を変えて来た。
 『剣士』の家系だと言うし、剣を出すのはお家芸なのかもしれない。
 観客に邪魔をされたせいだとはいえ目の前で負けるのも情けないし、先程とは違って二重でも複雑な防御壁を構築して剣魔術を飛ばす。
 カルムが防御壁を1つ解除したところで時間切れになり、剣魔術が発動する。
 剣の数を同じ3本にしたのはちょっとした嫌がらせだ。そこまで複雑な動きは指示していないから、振り下ろすように飛んで来た剣を、ヨルガは後ろに飛び退いて避けた。

「くっそ……ッ」

 悪態を付いたヨルガは、片手にペンを出現させた。
 頭の中だけで術式を解除するのに限界が来たということだ。全て暗算で読み解いて解決できれば格好いいが、俺の方もそろそろ知恵熱が出そうになっていたし、お互い頑張った方だろう。

「ダッサ!勇者ごときにカンペ使ってんじゃないわよ!」

 すでにどちらの味方なのかわからなくなっているリリーナがヨルガを怒鳴りつける。
 そういうことを言われるとやり辛くなるから本当に止めて欲しい。
 俺は諦めて出しかけていたペンをローブの下に隠した。

「うるさいな!真剣勝負にダサいも何もないだろう」

「勇者様ーがんばでーす」

 ニーアの緩い応援にまさかと思って観覧席を見ると、思った通りニーアとリリーナは酒とつまみを並べて酒盛りを始めている。
 審判のカルムも羨ましそうに酒を見ていて、無関係の決闘の勝敗よりも興味がありそうだった。
 あまりに孤独な戦いだ。
 早く終わらせようと思っても、ヨルガの術は徐々に複雑になってきて解除が間に合わなくなってきていた。
 防御壁や風魔術は解除できても、オマケのように付いて来る剣魔術まで手が回らない。
 しかし、こちらの防御で防げる程度だ。スピードは大したことがないから、術が発動した後でも十分避けられる。
 剣が出現して目前まで迫っていて、使い慣れた勇者の剣を出現させた。
 魔術で作った偽物だが、いつも持ち歩いているものだから手を伸ばして握った瞬間には剣が出来ている。

 ヨルガの剣を弾いて次は俺のターン、と思ったが、剣に隠れて火炎魔術が現れた。
 発動が僅かにずれていて、剣が出現した瞬間に発動していたようだ。
 防御壁で防ごうとしたが、本気の火炎魔術だ。戦争で使うような、その辺り一帯を吹き飛ばすレベルのもの。
 そのせいで、観覧席のニーアとリリーナの方に一瞬意識がいった。
 闘技場の外にいるから術が発動しても2人には影響がないことを思い出して、観覧席に防御魔術をかけるなんてうっかりミスはしないで済む。
 しかし、いつだって一瞬の判断の遅れが命取りになる。
 目の前で火炎魔術が発動して、慌てて作った俺の防御壁など粉々に吹き飛ばされた。
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