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第23話 勇者、盗人を成敗する
〜3〜
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ペルラに急かされて、俺は仕方なく店を出て人で賑わう大通りに出た。
しかし、未だやる気が出ない。途中の出店でジュースを買って、取りあえず一旦座ろうと道の脇のベンチに向かったが、ペルラがそうはさせまいと俺の腕を掴んで通りを進む。
「あんたは勇者なんだから、見つける方法が何かあるんじゃないの?」
「ああ、当然」
俺は首席卒業の勇者だから、本気を出せば失くし物なんて簡単に見つける事ができる。
今問題なのは、探す方法が無いことではなく、俺のやる気が出ないことだ。
「それなら人に手伝わせてないで、さっさと本気で探しなさいよ」
「本気で探して見つからなかったら、俺とニーアはオグオンに殺されちゃうんだぞ」
「知らないわ。ニーアを巻き込まないで1人で殺されなさいよ」
ペルラは残酷な事を言う。
俺は切ない気持ちになってストローを噛み締めた。買った時は気付かなかったけれど、これは酒だ。
ニーアとミミ-がウラガノを使って真面目に探してくれているのに、俺は昼から酒を飲んで1人サボっているように思われてしまう。リコリスも部下を寄越してくれたのに、その気遣いを無下にしているようで少し申し訳ない気分になった。
俺が軽快にアルコールを摂取しつつ反省していると、ペルラが地味な私服の上からでも分かるくらい大きな胸を張った。
「仕方ないわね。私が魔術を使って探してあげる」
「ペルラは、魔術を使えるようになったのか?」
「そうよ。モルフィルタス・ベラドーナ……何とかって学校に入学できるくらい魔術が使えるようになったら、ゼロ番街の跡継ぎにしてくれるって御姉様と約束したの」
ペルラもニーアと同じく、トルプヴァールの魔術制限が解けて魔術が使えるようになったらしい。
モベドスに入学できるくらいとは目標が高過ぎるが、ゼロ番街を継がせる時は魔術師の黒服たちもまとめて譲るつもりだろう。
あの黒猫を筆頭に気難しくてプライドの高い魔術師が揃っているから、モべドスに入れるレベルじゃないと従わなさそうだ。
「魔術の気配を探るくらいなら、私だって多分出来るんだから」
ペルラはそう言って、俺の襟を掴んで首元に顔を近づけた。
俺は自分の魔術の気配がわからないから、ペルラが読み取ってくれれば、それを元に簡単に探せるだろう。
しかし、ペルラはふんふんと犬猫のように嗅いでいるから、やっぱり駄目な気がしてきた。
魔術の気配はフェロモンとか体臭に例えられることがあるが、全く別物だ。いくら嗅いでも分かるはずがない
「もー!呑んでんじゃないわよ!酒の臭いしかしないでしょ!」
ペルラが気配を探るのを諦めて、俺の胸倉を掴んで揺さぶってくる。
何だか可哀想になってきた。合格の保証は出来ないけれど、もし頼んで来たら俺が家庭教師を引き受けてやってもいい。
「いいわ。とにかく街を探して、後でニーア達と合流しましょう。私もそんな遅くまで付き合ってられないし……」
ペルラが言って、胸元に手を突っ込んだ。
何か秘密道具でも出してくれるのかと塩漬け肉を肴に摘まみながら見ていると、ペルラはポケットをひっくり返したり、服をばさばさと捲ったりして何か探している。
「……と、時計がない!」
「時計?」
「いつも首から下げてたの。さっきご飯食べる時にポケットに入れたのに、無くなっちゃった!」
何故、探し物がどんどん増えていくんだ。俺とペルラは、一緒に探し物をするには相性が悪いのかもしれない。
簡単そうな問題から先に早く解決しようと、俺は道沿いにあった時計屋に入ろうとした。
「御姉様にもらった物なのに……どうしよう……」
「あの店で同じ物を探せばいいだろ」
「違うの!あれじゃなきゃダメなの!」
ペルラは既に泣き出していて、赤い頬に涙が零れていた。
ニーアなら上手く慰められるだろうが、マントを失くしている俺だって泣きたいから、人を慰める余裕がない。
「ちょと失礼」
いつも首から下げていたものなら、魔術の気配が残っているはずだ。
ペルラの首元に顔を近付けると、ゼロ番街の香水と酒の匂いに混じって、ペルラの魔術の気配がする。リコリスに似て、強烈なハーブを嗅いだ時のような皮膚が冷たくなる銀色の乾燥した気配だ。
街を見回すと、その気配が俺とペルラから遠ざかっている。
落とした時計を誰かが拾ってくれたのか、あるいは盗まれたのか。
「あっちだ」
「え……?わかるの?」
首席卒業の勇者なら、それくらい当然だ。
俺はぐずぐずと泣いているペルラの腕を引いて、その気配を辿って大通りを引き返した。
しかし、未だやる気が出ない。途中の出店でジュースを買って、取りあえず一旦座ろうと道の脇のベンチに向かったが、ペルラがそうはさせまいと俺の腕を掴んで通りを進む。
「あんたは勇者なんだから、見つける方法が何かあるんじゃないの?」
「ああ、当然」
俺は首席卒業の勇者だから、本気を出せば失くし物なんて簡単に見つける事ができる。
今問題なのは、探す方法が無いことではなく、俺のやる気が出ないことだ。
「それなら人に手伝わせてないで、さっさと本気で探しなさいよ」
「本気で探して見つからなかったら、俺とニーアはオグオンに殺されちゃうんだぞ」
「知らないわ。ニーアを巻き込まないで1人で殺されなさいよ」
ペルラは残酷な事を言う。
俺は切ない気持ちになってストローを噛み締めた。買った時は気付かなかったけれど、これは酒だ。
ニーアとミミ-がウラガノを使って真面目に探してくれているのに、俺は昼から酒を飲んで1人サボっているように思われてしまう。リコリスも部下を寄越してくれたのに、その気遣いを無下にしているようで少し申し訳ない気分になった。
俺が軽快にアルコールを摂取しつつ反省していると、ペルラが地味な私服の上からでも分かるくらい大きな胸を張った。
「仕方ないわね。私が魔術を使って探してあげる」
「ペルラは、魔術を使えるようになったのか?」
「そうよ。モルフィルタス・ベラドーナ……何とかって学校に入学できるくらい魔術が使えるようになったら、ゼロ番街の跡継ぎにしてくれるって御姉様と約束したの」
ペルラもニーアと同じく、トルプヴァールの魔術制限が解けて魔術が使えるようになったらしい。
モベドスに入学できるくらいとは目標が高過ぎるが、ゼロ番街を継がせる時は魔術師の黒服たちもまとめて譲るつもりだろう。
あの黒猫を筆頭に気難しくてプライドの高い魔術師が揃っているから、モべドスに入れるレベルじゃないと従わなさそうだ。
「魔術の気配を探るくらいなら、私だって多分出来るんだから」
ペルラはそう言って、俺の襟を掴んで首元に顔を近づけた。
俺は自分の魔術の気配がわからないから、ペルラが読み取ってくれれば、それを元に簡単に探せるだろう。
しかし、ペルラはふんふんと犬猫のように嗅いでいるから、やっぱり駄目な気がしてきた。
魔術の気配はフェロモンとか体臭に例えられることがあるが、全く別物だ。いくら嗅いでも分かるはずがない
「もー!呑んでんじゃないわよ!酒の臭いしかしないでしょ!」
ペルラが気配を探るのを諦めて、俺の胸倉を掴んで揺さぶってくる。
何だか可哀想になってきた。合格の保証は出来ないけれど、もし頼んで来たら俺が家庭教師を引き受けてやってもいい。
「いいわ。とにかく街を探して、後でニーア達と合流しましょう。私もそんな遅くまで付き合ってられないし……」
ペルラが言って、胸元に手を突っ込んだ。
何か秘密道具でも出してくれるのかと塩漬け肉を肴に摘まみながら見ていると、ペルラはポケットをひっくり返したり、服をばさばさと捲ったりして何か探している。
「……と、時計がない!」
「時計?」
「いつも首から下げてたの。さっきご飯食べる時にポケットに入れたのに、無くなっちゃった!」
何故、探し物がどんどん増えていくんだ。俺とペルラは、一緒に探し物をするには相性が悪いのかもしれない。
簡単そうな問題から先に早く解決しようと、俺は道沿いにあった時計屋に入ろうとした。
「御姉様にもらった物なのに……どうしよう……」
「あの店で同じ物を探せばいいだろ」
「違うの!あれじゃなきゃダメなの!」
ペルラは既に泣き出していて、赤い頬に涙が零れていた。
ニーアなら上手く慰められるだろうが、マントを失くしている俺だって泣きたいから、人を慰める余裕がない。
「ちょと失礼」
いつも首から下げていたものなら、魔術の気配が残っているはずだ。
ペルラの首元に顔を近付けると、ゼロ番街の香水と酒の匂いに混じって、ペルラの魔術の気配がする。リコリスに似て、強烈なハーブを嗅いだ時のような皮膚が冷たくなる銀色の乾燥した気配だ。
街を見回すと、その気配が俺とペルラから遠ざかっている。
落とした時計を誰かが拾ってくれたのか、あるいは盗まれたのか。
「あっちだ」
「え……?わかるの?」
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俺はぐずぐずと泣いているペルラの腕を引いて、その気配を辿って大通りを引き返した。
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