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第19話 勇者、帰還する
〜2〜
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事務所にオグオンが尋ねて来た時、俺は昼からワインを開けていたところだった。
クラウィスに呼ばれて、慌てて酔いを覚まして、応接間にオグオンを案内する。
ニーアの魔術は俺がかけたことにしたため、国内のほぼ全域に精神操作の魔術をかけた俺は初めて査問に掛けられた。
魔術教師に本気で泣かされるくらい怒られたのもトラウマだが、オグオンが一切目を合わせてくれなかったのが怖かった。
しかし、責任は取ると言っただけあって、一応俺を庇ってくれたらしい。
お蔭で俺は今も勇者を続けていられる。
既に一通り怒られたから今日も説教しに来た訳ではなさそうだ。
「……ネイピアスの件は、良くやってくれた」
応接室に腰掛けたオグオンは、クラウィスが淹れた紅茶を飲みつつ俺と目を合わせないままそう言った。
オグオンは大臣と言えど一番若いから、他の大臣から俺を庇うのも大変だったはずだ。
お互いにトラウマになっているから、俺は返事を濁して本題に入るように促した。
「ニーアが養成校に合格したのは、勿論知っているな?」
「ああ、知っている」
「ホーリア市には魔法剣士がいないだろう。減員で仕事が大変だろうが、引き続きホーリアを頼む」
「仕事はいいが、ニーアがいなくなって、特にリリーナがすごく落ち込んでるな……」
「リリーナは、週3で養成校の講師に来ているが」
「……」
それは初耳だ。
年度末の調整が面倒だから他の収入がある時はすぐに教えろと言っているのに。
しかし、落ち込んでいるのかと思ったら俺が知らない所で案外活動的にやっているようで安心した。
人見知りのリリーナがどうやって講師をしているのか想像もできないけれど、ニーアに会うために真面目に働くなんて泣かせる話ではないか。
「しかし、今日来たのは別の話だ。原則、フリーの勇者は無くすことになった。卒業生は全員街付の勇者になる」
「そうか」
養成校は元々フリーの勇者という制度に反対していた。
国のお金で国を守る勇者を学ばせているのに、国外で働かれては税金の無駄になってしまう。
オグオンは、エイリアスの件もフリーの勇者を無くすいい機会になった、程度にしか思ってないのかもしれない。
「それに合わせて、養成校の制度を変えることにした。長く在籍して真面目な成績を修めても偏った思考に染まることもある。2年で卒業しても優秀な勇者になるとは限らない」
前半はエイリアスのことをぼやかして言ったのだろうが、2年で卒業したのは俺だけだ。
俺が優秀な勇者ではないとはっきり言っちゃっているが、本筋に関係無いから聞き流すことにした。
「だから、長期的に在籍させることを前提に、徐々に街の勇者になれるように学校がバックアップする。そのために、生徒を実習生として各地の勇者に受け入れてもらう」
それは良い制度だと思う。
俺のように街の人間全員から嫌われて、買い物もまともにできない勇者がいなくなるだろう。そんな悲劇は俺1人で終わらせてもらいたい。
それに、ホーリアのように魔法剣士がいない街もあるから、実習という形で街に慣れつつ、学校にサポートしてうらうのがいいかもしれない。
「まだ試験段階だが、実習生の受け入れを頼みたい。丁度、ホーリア市に詳しい入学生がいる」
そこまで聞いて、俺はオグオンが来た用件がわかった。
立ちあがりそうになるのを堪えて、一応確認のためにオグオンに尋ねる。
「……本人は、嫌だって言わなかったか?」
「まさか。学校の決定だ」
そう言った後、オグオンは少し考えて「充分学んだから別のところに配属してくれとは、2回言っていた」と正直に言った。
真面目な奴が教官に2回言ったのなら、相当切羽詰まった願いだから聞いてやった方がいいと思う。
オグオンが応接室の外に呼びかけると、移動魔法が発動する気配がしてノックの後に扉が開く。
「……養成校より実習に来ました。勇者予備生のニーアです。よろしくお願いします」
深く礼をしてから顔を上げたニーアは、養成校の制服を着ていて、予想よりも不機嫌な顔はしていなかった。
オグオンが希望を聞いてくれなくてやや不貞腐れているような気がする。でも、俺の被害妄想だろう。
心配しなくても、俺は優秀な勇者だから何でも教えてやれる。
市民の苦情の聞き流す方法とか、仕事を良い具合にセーブする方法とか、魔獣と共生する方法とか。
クラウィスに呼ばれて、慌てて酔いを覚まして、応接間にオグオンを案内する。
ニーアの魔術は俺がかけたことにしたため、国内のほぼ全域に精神操作の魔術をかけた俺は初めて査問に掛けられた。
魔術教師に本気で泣かされるくらい怒られたのもトラウマだが、オグオンが一切目を合わせてくれなかったのが怖かった。
しかし、責任は取ると言っただけあって、一応俺を庇ってくれたらしい。
お蔭で俺は今も勇者を続けていられる。
既に一通り怒られたから今日も説教しに来た訳ではなさそうだ。
「……ネイピアスの件は、良くやってくれた」
応接室に腰掛けたオグオンは、クラウィスが淹れた紅茶を飲みつつ俺と目を合わせないままそう言った。
オグオンは大臣と言えど一番若いから、他の大臣から俺を庇うのも大変だったはずだ。
お互いにトラウマになっているから、俺は返事を濁して本題に入るように促した。
「ニーアが養成校に合格したのは、勿論知っているな?」
「ああ、知っている」
「ホーリア市には魔法剣士がいないだろう。減員で仕事が大変だろうが、引き続きホーリアを頼む」
「仕事はいいが、ニーアがいなくなって、特にリリーナがすごく落ち込んでるな……」
「リリーナは、週3で養成校の講師に来ているが」
「……」
それは初耳だ。
年度末の調整が面倒だから他の収入がある時はすぐに教えろと言っているのに。
しかし、落ち込んでいるのかと思ったら俺が知らない所で案外活動的にやっているようで安心した。
人見知りのリリーナがどうやって講師をしているのか想像もできないけれど、ニーアに会うために真面目に働くなんて泣かせる話ではないか。
「しかし、今日来たのは別の話だ。原則、フリーの勇者は無くすことになった。卒業生は全員街付の勇者になる」
「そうか」
養成校は元々フリーの勇者という制度に反対していた。
国のお金で国を守る勇者を学ばせているのに、国外で働かれては税金の無駄になってしまう。
オグオンは、エイリアスの件もフリーの勇者を無くすいい機会になった、程度にしか思ってないのかもしれない。
「それに合わせて、養成校の制度を変えることにした。長く在籍して真面目な成績を修めても偏った思考に染まることもある。2年で卒業しても優秀な勇者になるとは限らない」
前半はエイリアスのことをぼやかして言ったのだろうが、2年で卒業したのは俺だけだ。
俺が優秀な勇者ではないとはっきり言っちゃっているが、本筋に関係無いから聞き流すことにした。
「だから、長期的に在籍させることを前提に、徐々に街の勇者になれるように学校がバックアップする。そのために、生徒を実習生として各地の勇者に受け入れてもらう」
それは良い制度だと思う。
俺のように街の人間全員から嫌われて、買い物もまともにできない勇者がいなくなるだろう。そんな悲劇は俺1人で終わらせてもらいたい。
それに、ホーリアのように魔法剣士がいない街もあるから、実習という形で街に慣れつつ、学校にサポートしてうらうのがいいかもしれない。
「まだ試験段階だが、実習生の受け入れを頼みたい。丁度、ホーリア市に詳しい入学生がいる」
そこまで聞いて、俺はオグオンが来た用件がわかった。
立ちあがりそうになるのを堪えて、一応確認のためにオグオンに尋ねる。
「……本人は、嫌だって言わなかったか?」
「まさか。学校の決定だ」
そう言った後、オグオンは少し考えて「充分学んだから別のところに配属してくれとは、2回言っていた」と正直に言った。
真面目な奴が教官に2回言ったのなら、相当切羽詰まった願いだから聞いてやった方がいいと思う。
オグオンが応接室の外に呼びかけると、移動魔法が発動する気配がしてノックの後に扉が開く。
「……養成校より実習に来ました。勇者予備生のニーアです。よろしくお願いします」
深く礼をしてから顔を上げたニーアは、養成校の制服を着ていて、予想よりも不機嫌な顔はしていなかった。
オグオンが希望を聞いてくれなくてやや不貞腐れているような気がする。でも、俺の被害妄想だろう。
心配しなくても、俺は優秀な勇者だから何でも教えてやれる。
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