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第13話 勇者、権利を尊重する
〜8〜
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「2階の部屋じゃなくていいんですか?」
ニーアに尋ねられて、クラウィスはこくこくと頷いた。
クラウィスはホテルの仕事を辞めて部屋を引き払い、事務所に住み込みで働くための準備を進めている。
2階の部屋に空きがあるのに、1階のリビング横の小部屋の方が都合が良いと荷物をそこに運び込んでいた。
「それなら、ベッドは部屋に合わせて少し小さいのにしますか?」
「……、……」
「多分余ってると思います。机と合わせて手配しますね」
「…、……、」
「そうですね!では、それも」
クラウィスが先程から話さないのは、腰から提げていた黒い生物のポシェットをリリーナがリビングのダイニングテーブルで解体しているからだ。
クラウィスが退魔の子なのも、そのせいで喉を治せないのも気にしないけれど、魔術で作られたポシェットの機械翻訳が雑なのは許せないらしい。
この私に任せてみなさいよ、とドヤ顔でクラウィスのポシェットを奪い取ったはいいものの、中の機械を広げて頭を抱えていた。
「壊す前に元通り組み立てた方がいいんじゃないか?」
「う、うるさいわね。あとちょっと……」
「そう言って、さっきからずっと固まってる」
「……じゃあ、あんたがやってみればいいでしょ!」
リリーナは、空になって顔面の皮のようなへたれたポシェットを俺に押し付けて来た。
仕方ない。ここは、勇者の俺の出番のようだ。
と、俺もドヤ顔で受け取ったものの、しばらくするとリリーナと一緒に頭を抱えていた。
「……」
「勇者様、クラウィスさんが買い物に行きたいらしいので、そろそろ諦めてもらえませんか?」
「いや、もう少し……」
「リリーナさん、組み立て直すのにどれくらいかかりますか?」
「待って!すぐに出来るから!」
リリーナが顔を上げて、ダイニングテーブルに広げた機械を1つずつ確認しながら指差す。
魔術が使われているから、ポシェットの中の機械は多くない。
クラウィスの声を聞き取り、僅かな単語を状況に合わせた文章に変換して音声を発する。
クラウィスの声が小さいのと、機械か魔術の作りが雑だから口調が度々変わってしまうが、単純な構造だ。と、中を見るまでそう考えていた。
「音を入れるのは魔術でしょ?その後、解読して変換するのは魔術で、音出しは機械?」
「音を入れるのは機械。魔術で精度を上げて微細な音でも拾えるようにしている」
「空気の振動になった時点で、退魔の子に付随しない自然現象に変わるから魔術でいけるんじゃない?」
「クラウィスの喉や唇の振動も読み取っているから機械だ」
「その音声を解読して発するのは魔術よね。その変換式がわからないのよ」
「機械に刻まれているか、これとは別に変換する魔術装置があるのかもしれない」
役所でゼロ番街の営業許可証が入っていた文書庫と同じだ。魔術とカラクリが混ざっていて、仕組みを理解している人間でないと、改造も修理もできない。
「クラウィス、これは誰かが作ってくれたのか?」
「………、……?」
「魔術師に貰ったけど、もう街にいないから観光客だったのかも、だそうです」
「ニーアはさっきからどうしてクラウィスの言ってる事がわかるのよ?」
「唇を見て読話して、あと指文字があれば、顔を合わせて話す分には大丈夫だと思いますよ」
唇を読んで理解するなんて、そんな簡単に出来ることではない。どうしてそんな事が出来るのかと俺が尋ねると、「勇者には当然のスキルじゃないんですか?」と不思議そうに尋ねて来た。ニーアは勇者に求めるレベルが高すぎる。
ニーアの手前、勿論そうだと俺は答えたが、授業で少し習っただけだ。後で復習しておかなくては。
「クラウィスの声、聞こえてないのだ?」
クラウィスに教えてもらってキッチンでババロアを作っていたコルダが、泡立て器についた固める前の液体を舐めながら何やらドヤ顔で言い出した。
「なんで機械で二重にしてるのか不思議だったのだ。もしかして、みんな、聞こえないのだ?コルダ、耳がいいから気付かなかったのだー」
獣人の身体能力の高さは、魔術も機械も超える。
文明の利器に頼り切った貧弱な現代人の俺は途端に恥ずかしくなって、リリーナと一緒にポシェットを元に戻し始めた。
ニーアに尋ねられて、クラウィスはこくこくと頷いた。
クラウィスはホテルの仕事を辞めて部屋を引き払い、事務所に住み込みで働くための準備を進めている。
2階の部屋に空きがあるのに、1階のリビング横の小部屋の方が都合が良いと荷物をそこに運び込んでいた。
「それなら、ベッドは部屋に合わせて少し小さいのにしますか?」
「……、……」
「多分余ってると思います。机と合わせて手配しますね」
「…、……、」
「そうですね!では、それも」
クラウィスが先程から話さないのは、腰から提げていた黒い生物のポシェットをリリーナがリビングのダイニングテーブルで解体しているからだ。
クラウィスが退魔の子なのも、そのせいで喉を治せないのも気にしないけれど、魔術で作られたポシェットの機械翻訳が雑なのは許せないらしい。
この私に任せてみなさいよ、とドヤ顔でクラウィスのポシェットを奪い取ったはいいものの、中の機械を広げて頭を抱えていた。
「壊す前に元通り組み立てた方がいいんじゃないか?」
「う、うるさいわね。あとちょっと……」
「そう言って、さっきからずっと固まってる」
「……じゃあ、あんたがやってみればいいでしょ!」
リリーナは、空になって顔面の皮のようなへたれたポシェットを俺に押し付けて来た。
仕方ない。ここは、勇者の俺の出番のようだ。
と、俺もドヤ顔で受け取ったものの、しばらくするとリリーナと一緒に頭を抱えていた。
「……」
「勇者様、クラウィスさんが買い物に行きたいらしいので、そろそろ諦めてもらえませんか?」
「いや、もう少し……」
「リリーナさん、組み立て直すのにどれくらいかかりますか?」
「待って!すぐに出来るから!」
リリーナが顔を上げて、ダイニングテーブルに広げた機械を1つずつ確認しながら指差す。
魔術が使われているから、ポシェットの中の機械は多くない。
クラウィスの声を聞き取り、僅かな単語を状況に合わせた文章に変換して音声を発する。
クラウィスの声が小さいのと、機械か魔術の作りが雑だから口調が度々変わってしまうが、単純な構造だ。と、中を見るまでそう考えていた。
「音を入れるのは魔術でしょ?その後、解読して変換するのは魔術で、音出しは機械?」
「音を入れるのは機械。魔術で精度を上げて微細な音でも拾えるようにしている」
「空気の振動になった時点で、退魔の子に付随しない自然現象に変わるから魔術でいけるんじゃない?」
「クラウィスの喉や唇の振動も読み取っているから機械だ」
「その音声を解読して発するのは魔術よね。その変換式がわからないのよ」
「機械に刻まれているか、これとは別に変換する魔術装置があるのかもしれない」
役所でゼロ番街の営業許可証が入っていた文書庫と同じだ。魔術とカラクリが混ざっていて、仕組みを理解している人間でないと、改造も修理もできない。
「クラウィス、これは誰かが作ってくれたのか?」
「………、……?」
「魔術師に貰ったけど、もう街にいないから観光客だったのかも、だそうです」
「ニーアはさっきからどうしてクラウィスの言ってる事がわかるのよ?」
「唇を見て読話して、あと指文字があれば、顔を合わせて話す分には大丈夫だと思いますよ」
唇を読んで理解するなんて、そんな簡単に出来ることではない。どうしてそんな事が出来るのかと俺が尋ねると、「勇者には当然のスキルじゃないんですか?」と不思議そうに尋ねて来た。ニーアは勇者に求めるレベルが高すぎる。
ニーアの手前、勿論そうだと俺は答えたが、授業で少し習っただけだ。後で復習しておかなくては。
「クラウィスの声、聞こえてないのだ?」
クラウィスに教えてもらってキッチンでババロアを作っていたコルダが、泡立て器についた固める前の液体を舐めながら何やらドヤ顔で言い出した。
「なんで機械で二重にしてるのか不思議だったのだ。もしかして、みんな、聞こえないのだ?コルダ、耳がいいから気付かなかったのだー」
獣人の身体能力の高さは、魔術も機械も超える。
文明の利器に頼り切った貧弱な現代人の俺は途端に恥ずかしくなって、リリーナと一緒にポシェットを元に戻し始めた。
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