上 下
33 / 53
【2】

7.案外、珍しい話でもない

しおりを挟む
 十二月に入ると本当に恭ちゃんは忙しくなり、メッセージを送れば返事はあるけど時間は遅いことばかり。朝起きて返信に気付くことが多くなった。
「社会人って本当に大変なんだなぁ……」
 正直、少し甘く見ていたかもしれない。
 俺の考える忙しいと、恭ちゃんの言う忙しいは全然違っていた。
 バイトとテストとレポートが重なったとしても、調整することはそんなに難しくないし、時間を作ろうと思えばなんとでもなる。
 でも、仕事は中々そうはいかない。実際に恭ちゃんが忙しい時期にはお昼食べに来る時間すら取れなくなっていたことを知っていたはずなのに、すっかり頭から抜けてしまっていた。
 社会人の彼氏がいる友達が嘆いている理由が、今になってようやくわかる。
 放っておかれてると泣き付かれたこともあったけど、あれら大袈裟な言い分ではなかったようだ。
「陽」
「わっ! ……って、透か。驚かせないでよ」
 突然掛けられた声に、俺は慌てて手にしていたスマホを伏せる。恭ちゃんへのメッセージは、既読が付いてそのままだった。
「あれ? 透って次の時間空いてなかったっけ?」
「うん。ユウに代わりに出てくれーって頼まれて」
「あはは、結局出てあげるんだ」 
 普段は母親のように厳しいのに、と冗談めかして笑ってみせたが、透は浮かない表情のまま俺の隣の席に腰を下ろす。
 気分でも悪いのだろうか。いつもとは違う様子の透に、俺も心配になってくる。
「透? どうかした?」
「……あのさ、陽。おれの勘違いかもなんだけどこの間の人が陽の恋人?」
 この間の人。透にそう言われて思い当たる人は一人しかいない。
「えっと……それって透のバイト先で会ったときの話?」
「うん」
 恭ちゃんのことだ。なんでわかったんだろう。
 会話が聞こえる距離じゃなかったはずなのに。そもそも、透は人の会話を盗み聞きするような奴ではない。
 違う、とは嘘でも言いたくない。だけど、肯定してしまったら恭ちゃんを困らせることになるのではないかと頷くことを迷ってしまった。
 その沈黙が、十分過ぎる答えとなる。透は申し訳無さそうに笑ってみせると、ごめんと片手を振った。
「こんなとこで話せないよね。陽、午後は授業ないならお昼一緒に食べない?」
「あぁ、うん……ていうか、なんでわかったの?」
 透はまばたきを繰り返し、キョロキョロと辺りを見回した。
 そして、俺たちの席の周りには誰も座っていないことを確認すると、俺の耳元へと顔を寄せた。
「……おれもゲイだから」
 思いがけない発言に、俺は驚いて透の顔をまじまじと見つめてしまった。
 透は気まずそうに、でもどこか安心した様子で微笑んでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ

雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。 浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。 攻め:浅宮(16) 高校二年生。ビジュアル最強男。 どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。 受け:三倉(16) 高校二年生。平凡。 自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。

彼女持ちの俺、オジサンと女装デートで純愛堕ち恋人えっち

BL
自分をオンナにした「オジサン」から女装デートを求められた彼女持ちで顔の良い「俺」が、遂にカノジョ完堕ち宣言をしてカレシになったオジサンとあまあまラブラブカレカノえっちをする話。    こちら→【https://www.alphapolis.co.jp/novel/733045373/639638242】から続く内容    以前からのシリーズ(タグ「オジ俺」)とは魔改造レベルに内容の雰囲気が異なり、恋人的なイチャイチャや片想い描写などを含めた、誰得ラブストーリーのデートパートが前半大量に存在します。ラブハメスケベをお求めの方は目次の「◇部屋「カレシとカノジョ」」まで一気にお飛びください(冒頭から繋がるセックスパートまではかなり長いです)    シリーズと呼ぶには後半急ハンドルすぎたオジ俺もこれにてひとまず完結。ここまでお付き合いくださり誠にありがとうございました。その内ふたりに名前をつけたいです。    pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。 なにかありましたら(web拍手)  http://bit.ly/38kXFb0   Twitter垢・拍手返信はこちらから行っています  https://twitter.com/show1write

山から預かった子は醜神へと嫁ぐ

林 業
BL
これは醜い山神と山神へ嫁いだ男の話。 昔々あるところに山の神様がいました。 その山の神は力が強く、その土地は豊穣の土地と謂われていました。 しかしある年から、歳を重ねるごとに収穫量が減り、神へ嫁を捧げることにしました。 捧げた嫁は一度消えたものの戻ってきました。 山神を醜い罵りながらも捧げることにより収穫量は元に戻り、再び嫁を捧げるようになりました。 豊穣の大地を捨てることなど人にはできません。 今や悪しき風習となったその土地で、醜い山神へ捧げられた嫁が居ました。 ある農村に伝わる山神の話の一つ。

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

処理中です...