7 / 53
【1】
7.オレとお前は違う
しおりを挟む
プラネタリウムの後は高瀬が服を見たいと言うから、商業施設の中を気ままに歩き回った。
「恭ちゃん先輩って本当に陸人さんのこと好きなんですね」
「なんだよいきなり」
「服見てたときも好みの服装って真面目そうな感じっていうか……店長がよく着てるような感じでしたし」
さっき、高瀬に試着をさせたときのことを思い出す。
オレの好みで選んでみてほしいと言われて渡した服は確かに落ち着きのある大人びた服装だった。そして、高瀬にとてもよく似合っていたけれど、普段の高瀬とは全然違う格好だった。そして、確かに陸人さんがよく着ている格好でもある。
「……好きって言っても本当にただの好みのタイプってだけで、あの人とどうこうなりたいとかは思ってねーよ」
「でも、陸人さんが結婚したときショック受けてたじゃないですか。しばらくお店来なかったですよね」
それも事実だったから反論することが出来ず、オレは黙って高瀬から目を逸らす。というか、気付かれていたのか。
「あの時は何で最近来ないのかなーって思ってたけど、今やっと理由がわかりましたよ」
「まぁ、仕事が忙しかったっていうのもあったけどな……」
密かに片思いしていた相手が結婚をしてショックを受けたのも本当だし、仕事が忙しくてキャパオーバーになりかけていたのも本当だ。
だから高瀬が考えてるほどのダメージは受けてないし、気持ちを伝えておけば良かったとかの後悔もない。
「最初から無理だとも思ってたからな。そんなもんだろって割り切ってるよ」
これは別に陸人さんに限った話じゃない。自分から良いなって思った相手は大抵恋愛対象が女性で、オレなんて最初からその対象に入れていないことばかり。
いつだってオレの片想いは諦めるとこから始まっている。そういうもんだって、わかってるんだ。
真っ直ぐに向けられる高瀬の眼差しが、今は少し痛い。
「恭ちゃん先輩は本気の恋愛をしたい人なんですよね」
「お前は逆だもんな」
「……はい。そもそも、俺は」
自虐的な笑みを浮かべて、高瀬は目を伏せる。高瀬もそんな寂しげな表情を見せることがあるなんて、思いもしなかった。
「あれ、高瀬じゃん! うわ、イケメンもいる!」
続く言葉を掻き消す声に、オレと高瀬は揃って声の方へと顔を向けた。
赤みがかった茶色に染めた髪を緩く巻いた綺麗めな女の子が手を振りながら駆け寄ってくる。多分、高瀬の大学の友達だ。
「マジでカッコいいね! 高瀬の友達?」
「うん、地元の先輩」
バイト先の常連さんだと説明が面倒くさいとしても、大分誤魔化した説明をしたな。
地元が同じなのは嘘じゃないから、広い意味では地元の先輩で間違ってないのかもしれないけど。
「なんか珍しいね。高瀬っていつも大人数で遊んでるイメージだった」
「そりゃ大学の友達は大体が共通の友達だからね。先輩はそういうのじゃないし」
「あー、そっか。あ、もし良かったら先輩さんも一緒にご飯行かない? これからサークルの飲み会なんだ!」
「オレ? いや、そういうの部外者が行ったら迷惑になるだろ?」
「いーのいーの、知らん人が増えてるのなんていつものことだから!」
確かに大学生の頃の飲み会ってそんなノリではあったが、オレの方は知らん飲み会に飛び入り参加出来るほどのコミュ力はない。
「オレはいいよ。高瀬、行ってきたら?」
「え? いや、でも」
「高瀬が来たら早雪も喜ぶよー! あの子まだ未練あるみたいだし」
早雪、と知らない名前に聞き返してしまったのが悪かった。
高瀬が一瞬顔をしかめたのが見えたけど、それも彼女の勢いに流されてしまう。
「先月まで高瀬と付き合ってたんだよねー。自分から高瀬のこと振ったのにまだ好きみたいで悩んでるんだって」
「へぇ……」
高瀬が女の子と付き合っていたことなんて今さら過ぎる話なのに、何故かそれがオレの喉をきつく締め付けるようで息苦しかった。
同性が恋愛対象のオレと違って、高瀬は相手に困ることなんてない。
高瀬から迫らなくたって、相手の方からこうして追いかけてくるくらいだ。
オレがゲイだってことに偏見がないのは本当だと思う。
でも、高瀬がオレに興味を持っているのはオレ自身がどうこうという話じゃなくて、オレが今まで周りにいなかった珍しい相手だからなんだろう。
ゲイではない相手に受け入れられたことが初めてだったから、そんな簡単なことにも気が付かないふりをして浮かれていた。
高瀬は、まだ若い。
興味本位で動くのはいいけど、後悔してからじゃ遅い。
終わらせるなら、早いほうがいい。切り出すのは、オレの方からだ。
「……行ってこいよ」
「え?」
「オレのことは気にしなくていいからさ。それじゃ、また今度な」
二人へと片手を挙げると、オレは高瀬と目を合わせずに背を向けた。
「恭ちゃん先輩って本当に陸人さんのこと好きなんですね」
「なんだよいきなり」
「服見てたときも好みの服装って真面目そうな感じっていうか……店長がよく着てるような感じでしたし」
さっき、高瀬に試着をさせたときのことを思い出す。
オレの好みで選んでみてほしいと言われて渡した服は確かに落ち着きのある大人びた服装だった。そして、高瀬にとてもよく似合っていたけれど、普段の高瀬とは全然違う格好だった。そして、確かに陸人さんがよく着ている格好でもある。
「……好きって言っても本当にただの好みのタイプってだけで、あの人とどうこうなりたいとかは思ってねーよ」
「でも、陸人さんが結婚したときショック受けてたじゃないですか。しばらくお店来なかったですよね」
それも事実だったから反論することが出来ず、オレは黙って高瀬から目を逸らす。というか、気付かれていたのか。
「あの時は何で最近来ないのかなーって思ってたけど、今やっと理由がわかりましたよ」
「まぁ、仕事が忙しかったっていうのもあったけどな……」
密かに片思いしていた相手が結婚をしてショックを受けたのも本当だし、仕事が忙しくてキャパオーバーになりかけていたのも本当だ。
だから高瀬が考えてるほどのダメージは受けてないし、気持ちを伝えておけば良かったとかの後悔もない。
「最初から無理だとも思ってたからな。そんなもんだろって割り切ってるよ」
これは別に陸人さんに限った話じゃない。自分から良いなって思った相手は大抵恋愛対象が女性で、オレなんて最初からその対象に入れていないことばかり。
いつだってオレの片想いは諦めるとこから始まっている。そういうもんだって、わかってるんだ。
真っ直ぐに向けられる高瀬の眼差しが、今は少し痛い。
「恭ちゃん先輩は本気の恋愛をしたい人なんですよね」
「お前は逆だもんな」
「……はい。そもそも、俺は」
自虐的な笑みを浮かべて、高瀬は目を伏せる。高瀬もそんな寂しげな表情を見せることがあるなんて、思いもしなかった。
「あれ、高瀬じゃん! うわ、イケメンもいる!」
続く言葉を掻き消す声に、オレと高瀬は揃って声の方へと顔を向けた。
赤みがかった茶色に染めた髪を緩く巻いた綺麗めな女の子が手を振りながら駆け寄ってくる。多分、高瀬の大学の友達だ。
「マジでカッコいいね! 高瀬の友達?」
「うん、地元の先輩」
バイト先の常連さんだと説明が面倒くさいとしても、大分誤魔化した説明をしたな。
地元が同じなのは嘘じゃないから、広い意味では地元の先輩で間違ってないのかもしれないけど。
「なんか珍しいね。高瀬っていつも大人数で遊んでるイメージだった」
「そりゃ大学の友達は大体が共通の友達だからね。先輩はそういうのじゃないし」
「あー、そっか。あ、もし良かったら先輩さんも一緒にご飯行かない? これからサークルの飲み会なんだ!」
「オレ? いや、そういうの部外者が行ったら迷惑になるだろ?」
「いーのいーの、知らん人が増えてるのなんていつものことだから!」
確かに大学生の頃の飲み会ってそんなノリではあったが、オレの方は知らん飲み会に飛び入り参加出来るほどのコミュ力はない。
「オレはいいよ。高瀬、行ってきたら?」
「え? いや、でも」
「高瀬が来たら早雪も喜ぶよー! あの子まだ未練あるみたいだし」
早雪、と知らない名前に聞き返してしまったのが悪かった。
高瀬が一瞬顔をしかめたのが見えたけど、それも彼女の勢いに流されてしまう。
「先月まで高瀬と付き合ってたんだよねー。自分から高瀬のこと振ったのにまだ好きみたいで悩んでるんだって」
「へぇ……」
高瀬が女の子と付き合っていたことなんて今さら過ぎる話なのに、何故かそれがオレの喉をきつく締め付けるようで息苦しかった。
同性が恋愛対象のオレと違って、高瀬は相手に困ることなんてない。
高瀬から迫らなくたって、相手の方からこうして追いかけてくるくらいだ。
オレがゲイだってことに偏見がないのは本当だと思う。
でも、高瀬がオレに興味を持っているのはオレ自身がどうこうという話じゃなくて、オレが今まで周りにいなかった珍しい相手だからなんだろう。
ゲイではない相手に受け入れられたことが初めてだったから、そんな簡単なことにも気が付かないふりをして浮かれていた。
高瀬は、まだ若い。
興味本位で動くのはいいけど、後悔してからじゃ遅い。
終わらせるなら、早いほうがいい。切り出すのは、オレの方からだ。
「……行ってこいよ」
「え?」
「オレのことは気にしなくていいからさ。それじゃ、また今度な」
二人へと片手を挙げると、オレは高瀬と目を合わせずに背を向けた。
33
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
【Dom/Subユニバース】Switch×Switchの日常
Laxia
BL
この世界には人を支配したいDom、人に支配されたいSub、どちらの欲求もないNormal、そしてどちらの欲求もあるSwitchという第三の性がある。その中でも、DomとSubの役割をどちらも果たすことができるSwitchはとても少なく、Switch同士でパートナーをやれる者などほとんどいない。
しかしそんな中で、時にはDom、時にはSubと交代しながら暮らしているSwitchの、そして男同士のパートナーがいた。
これはそんな男同士の日常である。
※独自の解釈、設定が含まれます。1話完結です。
他にもR-18の長編BLや短編BLを執筆していますので、見て頂けると大変嬉しいです!!!
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
大嫌いな幼馴染みは嫌がらせが好き
ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
*表紙*
題字&イラスト:たちばな 様
(Twitter → @clockyuz )
※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください
(拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!)
子供の頃、諸星真冬(もろぼしまふゆ)の親友は高遠原美鶴(たかとおばらみつる)だった。
しかしその友情は、美鶴によって呆気無く壊される。
「もう放っておいてくれよっ! 俺のことが嫌いなのは、分かったから……っ!」
必死に距離を取ろうとした真冬だったが、美鶴に弱みを握られてしまい。
「怖いぐらい優しくシてやるよ」
壊れた友情だったはずなのに、肉体関係を持ってしまった真冬は、美鶴からの嫌がらせに耐える日々を過ごしていたが……?
俺様でワガママなモテモテ系幼馴染み×ツンデレ受難体質男子の、すれ違いラブなお話です!
※ アダルト表現のあるページにはタイトルの後ろに * と表記しておりますので、読む時はお気を付けください!!
※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※序盤の方で少し無理矢理な表現があります……! 苦手な人はご注意ください!(ちっともハードな内容ではありません!)
冴えない大学生はイケメン会社役員に溺愛される
椎名サクラ
BL
第10回BL小説大賞 「現代BL賞」をいただきました
読んでくださった皆様、応援くださった皆様、本当にありがとうございます‼️
失恋した大学生の朔弥は行きつけのバーで会社役員の柾人に声を掛けられそのまま付き合うことに。
デロデロに甘やかされいっぱい愛されるけれど朔弥はそれに不安になる。
甘やかしたい年上攻めと自分に自信のない受けのエッチ多めでデロ甘ラブラブを目指しています。
※第二章に暴力表現があります、ご注意ください。
※ムーンライトノベルズに投稿した作品の転載となっております。
※Rシーンのある話数には☆マークがついてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる