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白猫シロちゃん

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 やすらぎさんが外で見掛けて声をかけても、さっと隠れてしまう人見知りのミケちゃんでしたが、少しづつ慣れてきて、やすらぎ治療室でもごはんをもらうようになりました。
 やすらぎさんは、右の後ろ足がない野良猫のミケちゃんが可哀想でならなかったのです。
 でも、いつもミケちゃんは、ごはんを全部食べませんでした。必ずにお皿に残して行ってしまいました。

 どうしてなのでしょうか。
 ミケちゃんは、少食だから? 
 野良猫だから警戒心が強くて、おちおち、ごはんなど食べていられないから?

 いいえ。ミケちゃんはもらったごはんをひとめせずに、仲間のシロちゃんに分けてあげていたのです。
 ミケちゃんは自分が食べ終わると、治療室の裏に「ごはん食べてね」とシロちゃんを呼びに行っていたのでした。

 シロちゃんは地域のボス猫で、人間にはまったく懐いていませんでした。そんな孤高のボス猫シロちゃんに、ミケちゃんは守ってもらっていたのです。
 外で暮らす猫の世界は、弱肉強食。カラスや気性の荒い猫たちといった天敵が大勢います。
 生まれつきハンディキャップのあるミケちゃんは、シロちゃんにカラスを追い払ってもらったり、大きな野良猫からかばってもらわなければ、外では生きてこられなかったかもしれません。
 だから、ミケちゃんは大好きな恩猫おんじんのシロちゃんに、ごはんを食べてもらっていたのです。


 ***


 そのシロちゃんは、2016年の11月に普段いない場所にうずくまっているのを、やすらぎさんが見かけたのが最後になりました。
 いつもなら、やすらぎさんが近付いただけで逃げてしまうシロちゃんですが、その日に限って、じっとしたままでした。

 もしかしたら、シロちゃんはお空に旅立つ前に、やすらぎさんに「ミケちゃんをよろしくね」と頼みたかったのかもしれません。

 やすらぎさんは、その時のシロちゃんを思い出すたびに「シロちゃんのおかげでミケちゃんは外で無事に生きてこられました。ありがとう」と感謝するのでした。
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