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6月
てるてる坊主♪ ふる坊主♪
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これから、雨になるのかな。
お空が灰色。気分まで、灰色になっちゃいそう。
NNNニュースの天気予報で、これからしばらくは、雨の日が続くって言っていたけど。
今日は、おうちでのんびりしようって考えながら、窓からお空を見ていたら、大きなあくびが出ちゃった。
「ファ~」
「わっ! ミケちゃんのあくびすごい! お顔が裏返っちゃいそうだ」
「失礼ね、クマパンちゃん」あたしは、クマパンちゃんの方を見た。「なに、作っているの?」
「てるてる坊主」
「明日、なんか、あったけ? ピクニックとか、運動会とか、遠足とか」
「なんにもないよ」
「だったら、どうして?」
「だって、きっと、どこかで雨が降ったら、困るひとがいるのかなって思って」
「たとえば?」
「ミケちゃんが言ったみたいに、お外に用事があって、晴れていた方が都合がいいとか。あと、お洗濯ものがお外に干せないとか」
「そうか。お外で暮らしている動物さんたちも雨が降ると、おなかすいても、ごはん、探しに行けないかもね」
「うん」
「だったら、あたしも、てるてる坊主、作ろっと」
クマパンちゃんがてるてる坊主を、あじさい守りの横に吊るした。
あじさい守りは、あじさいのお花を半紙で包んで、吊るすお守り。
花を下にして、逆さに吊るすのよ。
魔除けになるんですって。
梅雨の季節は、いろいろ、不調になりやすいものね。カビが生えたり、だるくなったり、ジメジメうっとうしくて、人間も動物も、機械だって調子が悪くなっちゃう。
クマパンちゃんの吊るしたてるてる坊主を見て、あたしは思わず、吹き出した。
だって、クマパンちゃんのてるてる坊主ったら、お顔が裏返っちゃいそうなほど大きく口を開けてるんだもの。
「やっだぁ、クマパンちゃんのてるてる坊主、なんて顔してるの!」
「さっきのミケちゃんのあくびの顔を見て、書いたんだもん」
「なんですってー!」
「わぁ~、逃げろー!」
「こらっ、待て、クマパンちゃん!」
おうちの中で、バタバタ追いかけっこをしていたら、窓から、カエルさんがのぞいている。
「こんにちは、ミケちゃん、クマパンちゃん。お取り込み中のところ、いいですか」
「こんにちは、カエルさん。うん、いいわよ」
「そのですね、てるてる坊主を用もなく作られると、ちょっと困るんですけれど」
あたしとクマパンちゃんは、びっくりして顔を見合わせた。
「そりゃ、抜き差しならないことがあって雨が降ると困る時とか、大雨で早く止んでほしい時とかは、てるてる坊主の出番です。でも、そこら中、てるてる坊主だらけになって、雨が降らなくなると、草や木が枯れてしまいます。田んぼや畑の作物も枯れてしまいます。夏になったら、水不足になって、わたしらカエルだけでなく、他のみんなも困ってしまうんですよ」
「そういえば、そうね」
「それに、てるてる坊主も迷惑だと思うんです」
「なあぜ?」
「お歌にあるじゃないですか。晴れたら金の鈴や甘いお酒がもらえても、雨が降ったら首をちょんぎられるんですよ。それって、けっこうブラックな契約だと思いませんか。成功報酬に比べて、ペナルティが重すぎる。てるてる坊主にしたら、いい迷惑ですよ」
あたしとクマパンちゃんは、また顔を見合わせた。
「言われてみれば……。ミケちゃん、どうする?」
「う~ん……。それじゃあ、こうしよう。『てるてる坊主』を改名して『てるふる坊主』にするの!」
「それって、もしかして、ミケちゃん…… 照っても降ってもどっちでもいい坊主ってこと?」
「クマパンちゃん、正解!」
「いかにも、単純なミケちゃんの考えそうなことだな~」
「それって、ほめてるの? けなしてるの?」
あたしがクマパンちゃんを睨んだら、カエルさんが、慌てて言った。
「いや、名案だと思いますよ! ミケちゃん、さすがです!」
「そうでしょ、カエルさん、名案でしょ。てるふる坊主なら、晴れても降っても、首をちょんぎられたりしないんだもの」
「甘いお酒も金の鈴も、もらえないけどね」
クマパンちゃんが、ボソッとつぶやいた。
ポツン。ポツン。ポツン。
「あっ、雨、降ってきた!」
「ほんとだ! ほら、クマパンちゃん、てるてる坊主だったら、これでアウトだったんだよ。てるふる坊主でよかったんだよ」
「わたしは雨が降っているうちに、帰りますね。ミケちゃん、クマパンちゃん、ごきげんよう」
カエルさんは、雨の中、ピョンピョン飛んで帰っていった。
「ファ~」
雨が降ると、なんだか、眠くなっちゃう。あたしは、また、あくびが出ちゃった。
「ファ~」
あたしにつられて、クマパンちゃんも、大きなあくびをした。クマパンちゃんだって、お顔が裏返っちゃいそうだよ。
さてと、お昼寝でもするか。
猫の仕事のひとつは、お昼寝なんだし。お仕事、お仕事、ファ~。
三毛猫 ミケ
***
6月は、長雨の時期。
雨が降らないのも困るけれど、降りすぎるのも困りものです。なにごともほどほどなのが一番ですが、なにしろ、人知の及ばぬ自然のこと。
できうる限りの対策をしたあとは、それこそ、てるてる坊主に願いを込めるしかないのかもしれません。
ところで、そのてるてる坊主の由来って、ご存知の方も多いと思いますが、残酷で怖いんです。
止まない雨のために生贄になった娘が由来だとか、あるいは祈祷に失敗した僧侶の首を刎ね、その首を布に包んで吊るしたものが由来だとか……。
生贄や刎ねた首でやっと晴れても、今度は日照りで雨乞いなんてことも。そうしたら、また、雨乞いのための人柱や生贄……。
日本だけでなく、世界中の民間説話には似たようなお話がいろいろあります。
だから、ブラックな契約を余儀なくされる、てるてる坊主にはお気の毒ですが、やっぱり、お天気関係のお願いはこれが一番平和です。
それに、何より、軒下や窓辺に並ぶてるてる坊主は、可愛いですものね。
ちなみに、てるてる坊主を逆さに吊るしたり、白ではなくて黒い布で作ると、ふれふれ坊主になって雨が降るそうですよ。
地域によっては、てるてる坊主には顔を書かない、顔を描くと雨が降るといわれているそうです。
クマパンちゃんがてるてる坊主にミケちゃんのあくびの顔を書いたから、それで、雨が降っちゃったのかも。
梅雨は、何かと不調の出やすい頃です。
いつもに増して心も体も労って、みなさん、お過ごしくださいね。
お空が灰色。気分まで、灰色になっちゃいそう。
NNNニュースの天気予報で、これからしばらくは、雨の日が続くって言っていたけど。
今日は、おうちでのんびりしようって考えながら、窓からお空を見ていたら、大きなあくびが出ちゃった。
「ファ~」
「わっ! ミケちゃんのあくびすごい! お顔が裏返っちゃいそうだ」
「失礼ね、クマパンちゃん」あたしは、クマパンちゃんの方を見た。「なに、作っているの?」
「てるてる坊主」
「明日、なんか、あったけ? ピクニックとか、運動会とか、遠足とか」
「なんにもないよ」
「だったら、どうして?」
「だって、きっと、どこかで雨が降ったら、困るひとがいるのかなって思って」
「たとえば?」
「ミケちゃんが言ったみたいに、お外に用事があって、晴れていた方が都合がいいとか。あと、お洗濯ものがお外に干せないとか」
「そうか。お外で暮らしている動物さんたちも雨が降ると、おなかすいても、ごはん、探しに行けないかもね」
「うん」
「だったら、あたしも、てるてる坊主、作ろっと」
クマパンちゃんがてるてる坊主を、あじさい守りの横に吊るした。
あじさい守りは、あじさいのお花を半紙で包んで、吊るすお守り。
花を下にして、逆さに吊るすのよ。
魔除けになるんですって。
梅雨の季節は、いろいろ、不調になりやすいものね。カビが生えたり、だるくなったり、ジメジメうっとうしくて、人間も動物も、機械だって調子が悪くなっちゃう。
クマパンちゃんの吊るしたてるてる坊主を見て、あたしは思わず、吹き出した。
だって、クマパンちゃんのてるてる坊主ったら、お顔が裏返っちゃいそうなほど大きく口を開けてるんだもの。
「やっだぁ、クマパンちゃんのてるてる坊主、なんて顔してるの!」
「さっきのミケちゃんのあくびの顔を見て、書いたんだもん」
「なんですってー!」
「わぁ~、逃げろー!」
「こらっ、待て、クマパンちゃん!」
おうちの中で、バタバタ追いかけっこをしていたら、窓から、カエルさんがのぞいている。
「こんにちは、ミケちゃん、クマパンちゃん。お取り込み中のところ、いいですか」
「こんにちは、カエルさん。うん、いいわよ」
「そのですね、てるてる坊主を用もなく作られると、ちょっと困るんですけれど」
あたしとクマパンちゃんは、びっくりして顔を見合わせた。
「そりゃ、抜き差しならないことがあって雨が降ると困る時とか、大雨で早く止んでほしい時とかは、てるてる坊主の出番です。でも、そこら中、てるてる坊主だらけになって、雨が降らなくなると、草や木が枯れてしまいます。田んぼや畑の作物も枯れてしまいます。夏になったら、水不足になって、わたしらカエルだけでなく、他のみんなも困ってしまうんですよ」
「そういえば、そうね」
「それに、てるてる坊主も迷惑だと思うんです」
「なあぜ?」
「お歌にあるじゃないですか。晴れたら金の鈴や甘いお酒がもらえても、雨が降ったら首をちょんぎられるんですよ。それって、けっこうブラックな契約だと思いませんか。成功報酬に比べて、ペナルティが重すぎる。てるてる坊主にしたら、いい迷惑ですよ」
あたしとクマパンちゃんは、また顔を見合わせた。
「言われてみれば……。ミケちゃん、どうする?」
「う~ん……。それじゃあ、こうしよう。『てるてる坊主』を改名して『てるふる坊主』にするの!」
「それって、もしかして、ミケちゃん…… 照っても降ってもどっちでもいい坊主ってこと?」
「クマパンちゃん、正解!」
「いかにも、単純なミケちゃんの考えそうなことだな~」
「それって、ほめてるの? けなしてるの?」
あたしがクマパンちゃんを睨んだら、カエルさんが、慌てて言った。
「いや、名案だと思いますよ! ミケちゃん、さすがです!」
「そうでしょ、カエルさん、名案でしょ。てるふる坊主なら、晴れても降っても、首をちょんぎられたりしないんだもの」
「甘いお酒も金の鈴も、もらえないけどね」
クマパンちゃんが、ボソッとつぶやいた。
ポツン。ポツン。ポツン。
「あっ、雨、降ってきた!」
「ほんとだ! ほら、クマパンちゃん、てるてる坊主だったら、これでアウトだったんだよ。てるふる坊主でよかったんだよ」
「わたしは雨が降っているうちに、帰りますね。ミケちゃん、クマパンちゃん、ごきげんよう」
カエルさんは、雨の中、ピョンピョン飛んで帰っていった。
「ファ~」
雨が降ると、なんだか、眠くなっちゃう。あたしは、また、あくびが出ちゃった。
「ファ~」
あたしにつられて、クマパンちゃんも、大きなあくびをした。クマパンちゃんだって、お顔が裏返っちゃいそうだよ。
さてと、お昼寝でもするか。
猫の仕事のひとつは、お昼寝なんだし。お仕事、お仕事、ファ~。
三毛猫 ミケ
***
6月は、長雨の時期。
雨が降らないのも困るけれど、降りすぎるのも困りものです。なにごともほどほどなのが一番ですが、なにしろ、人知の及ばぬ自然のこと。
できうる限りの対策をしたあとは、それこそ、てるてる坊主に願いを込めるしかないのかもしれません。
ところで、そのてるてる坊主の由来って、ご存知の方も多いと思いますが、残酷で怖いんです。
止まない雨のために生贄になった娘が由来だとか、あるいは祈祷に失敗した僧侶の首を刎ね、その首を布に包んで吊るしたものが由来だとか……。
生贄や刎ねた首でやっと晴れても、今度は日照りで雨乞いなんてことも。そうしたら、また、雨乞いのための人柱や生贄……。
日本だけでなく、世界中の民間説話には似たようなお話がいろいろあります。
だから、ブラックな契約を余儀なくされる、てるてる坊主にはお気の毒ですが、やっぱり、お天気関係のお願いはこれが一番平和です。
それに、何より、軒下や窓辺に並ぶてるてる坊主は、可愛いですものね。
ちなみに、てるてる坊主を逆さに吊るしたり、白ではなくて黒い布で作ると、ふれふれ坊主になって雨が降るそうですよ。
地域によっては、てるてる坊主には顔を書かない、顔を描くと雨が降るといわれているそうです。
クマパンちゃんがてるてる坊主にミケちゃんのあくびの顔を書いたから、それで、雨が降っちゃったのかも。
梅雨は、何かと不調の出やすい頃です。
いつもに増して心も体も労って、みなさん、お過ごしくださいね。
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