魔法の葉っぱ 〜落ち葉になった小犬〜（改稿）

その夏の日

　落ち葉になる前、わたしは小さなメスの犬でした。

　わたしには、母犬や兄弟姉妹の記憶はありません。
　幼かった頃の最初の記憶が、ペットショップの展示ケースの中でしたから。

　でも、わたしには人間のおとうさんとおかあさんがいました。ペットショップでわたしを見付けて、自分たちのおうちに連れて帰ってくれたのです。

　人間のおとうさんとおかあさんは、わたしにたくさんのお洋服を買ってくれたし、ペットの美容院に毎月連れて行ってくれたりしました。写真もいっぱい撮ってもらいました。

　わたしは、とても、幸せでした。その夏の日が来るまでは。

　その日、人間のおとうさんとおかあさんが、いつもより、たくさん、ごはんをくれました。今日が最後だということで。
　何が最後なのかは、わたしには、わかりませんでした。
　夏は、まだ、始まったばかりです。
　もうすぐ、おかあさんに、赤ちゃんが生まれるそうです。そして、おとうさんのお仕事のつごうで、ここから遠くにお引っ越しするそうです。
　そのことは、わたしは、知っていました。おとうさんとおかあさんが、この頃よく、その話しているのを聞いていたからです。
　わたしは、おいしいごはんをたくさんもらったことより、おとうさんとおかあさんがいっしょにいてくれることの方がうれしくて、たくさん、しっぽをふりました。

　おかあさんが、言いました。
「やさしい人に、ひろってもらえればいいね」
　おかあさんは、わたしの頭を撫でてくれました。

　わたしには、おかあさんの言う意味がわかりませんでした。
　わたしにとっては、おとうさんもおかあさんも、良い人でしたから。おとうさんとおかあさんより、もっと、良い人なんて、わたしには想像さえできませんでした。