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第一部 神殺しの陰謀 第三章 神殺しの罪人

神殺しの罪人

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 目の前にいるその罪人は既に知っているような気がする…。家族のような…、知人のような…、尊敬するその人のような雰囲気が私たちを包み込む。また、目の前にいるのかいないのかわからないほど朧げであり、存在自体が異質であると感じる。

 黒く靄がかかった様に認識し辛いその罪人は静かに顔を上げた。靄は次第に収束し、その全貌が見えてくる。

 「コンシェルジュさん、なぜここにいるんですか!」

 私は目の前に現れた、知っている顔に困惑した。
 日出と千暁も目を丸くして見ている。

 「東雲さん、なんでそっちで拘束されてるんですか…。」

 日出も口を開いた…。私には日出言葉は理解できなかった。目の前にいるのはコンシェルジュであり、私が二人いるという言葉の意味がわからなかった。
 
 「お母さん…、なんでここにいるの…?」
 千暁も目の前いる罪人はコンシェルジュではなく、母親に見えている様だ。

 丸たちの方を見たが、丸とマードックも目の前の光景に驚きを隠せない様である。しかし、目がやられているホルスだけはどこか本質を見抜き、距離を取り構えている。

 「終わりの時がきたのだね…。」

 私たち各々が見ている姿、声色でそうその罪人は呟いた。

 私は一歩も動けなかった…、王様とはまた違った異質さを感じとり、体が硬直する…。恐怖というそれではなく、心地よく何かに包まれ、動きたくない…そんな気持ちであった。

 千暁に至っては、涙を流すほどの感銘を受けたような面持ちで立ち尽くしている。

 動物と結合している、マードックとホルスは動物的本能からか後退りし、罪人との距離を取り始めた。

 「擬態か…。」
 日出は罪人の出す雰囲気に抗っていた。決して呑まれることはなく、己を貫いている。
 
私もその言葉で我に返った。

 「なぜ、姿を変える、本当の姿をみせろ!」

 私が声をかけると、罪人は悲しそうな顔をこちらに向けた。今まで見たこともないコンシェルジュの悲しそうな顔で…。

 「最後まで道化を演じていたかったが、失礼だったね…。」

 その悲しい声は私たちの心に訴えかけてくる。これまで、この罪人が抱えてきた苦しみ、悲しみを。

 「王からあなたの悲しみの歴史は聞いている…。なぜ神殺しなどの大罪を行ったのだ?」
 「君たちは何もきいていないのか?」

 質問をした途端、罪人の様子が変わった。憎悪に打ちひしがれるその様な顔つきに変わり、今まで見せていた姿から本当の姿を見せた。

 薄汚いローブを纏い、髪の毛は縮毛の様にゴワゴワで伸び放題…、そして床にまで到達しているほど長く伸びきっている。

 罪人としての咎を戒めるかの様に仮面が顔に装着されている。仮面は木の様な材質で作られ、薄汚れ、顔面に直接留められる様に額に大きな杭が撃ち込まれている。そして、その者の正気を吸うかのように鼓動している…。

 直接顔面に打ち付けられているその杭は自分では外すことはできないであろう…、杭からも強力な力を感じる。

 「私の殺した神は生者を食い物にしていた。自らの糧にするために…。そこに三人と同じ世界にいる生者達をだ!」

 罪人は私たち三人の素性を見通していた。大罪を犯したとはいえ、彼も神なのだ…それくらい造作もない事であっただろう。

 「話が見えなのですが、どういう事ですか?」
 「弟には何も聞いてないのか?そうかトールはその役目を私に譲ったのか…。」

 罪人は全身の力が抜き深呼吸をした…。手を拘束している天井からの鎖が伸びきり、腕に痛々しい傷をつける。

 見えていなかったが、腕や足を拘束する拘束具の中には杭が仕込まれており、動くとその杭が食い込むという、仕組みになっていた…。

 罪人は激痛に悶えることもなく、ただただ、床を見つめ何かをぶつぶつと呟いている。

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