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第一部 神殺しの陰謀 第二章 氷の国の王

アストラル体の属性

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  ———— 城の図書室
 
 図書室というにはあまりにもさっぱりしている、本という本はなく四方に簡素な机と椅子が配置されているだけであった。

 机の上には見たこともないようなアストラル体であろう結晶体がドンとおかれているだけである。

 「ホルスさん…、ここが図書館なのですよね…。本はどこなんですか?」
 「こちらの書物を読むのは初めてですか。そこにある結晶に触れればすぐにわかりますよ。」

 ホルスはそういうと机の上にある結晶に手を触れた。

 結晶は淡い光を放ち、アストラル体に刻まれてきた歴史を紡ぎだしていく。

 「これはもしかして、アカシヤの記録…?アカシックレコードなのか…?」
 「ふふふ、さすがは日出殿ですね。そうです、これはその一端となります。アカシックレコードのほんの一部ですね。」
 「本物のアカシックレコードも存在するのですね?どこにあるんでしょうか?」
 「それは私にもわかりません。アカシックレコードは我が王でさえ触れたことがないとおっしゃっておりましたので。」

 アカシックレコードすべての事象が記録されていると言われている世界の根源そのものだ。そこの一端にでも触れることができるということは世界の理の一端に触れることができるということは研究者としてはこの上ない喜びなのかもしれない。

 ホルスを前にして、恥ずかしげもなく舞い踊っている自分が滑稽で仕方がなかった。こんな姿を東雲さんに見られたら、一生からかわれるであろう。

 「何を調べますか?」

 ホルスは結晶を触りながら中の記憶を取り出してくれていたが、ひどく読みづらい言語で記載されている。英語に似たような文字体系のようであるが、それとはまた違う一面も見せる。

 「ひどく読みづらい言語ですね…。百鬼夜行、それらと同様事例に関して調べてもらえますか?」
 「この言語を本質的に理解できている時点であなたはすごいですよ。少し待っていてくださいね。すぐに出しますよ。」

 ホルスは結晶を触り一つの光の輪を取り出した。その光の輪の中には文字がびっしりと記載されており、そのままでは何が書かれているか全くわからない。

 ホルスはその輪を広げ、まるで巻物のような書物に光の輪を成形し私に渡してくれた。
 
 目の前にある、この書物がアストラル体に関しての世界の記憶であるのだ…。私は唾を飲み込んだ。

 いざ読もうとその文書に食らいついたが…文字が読みづらい…、そして、アカシックレコードの一端ということもあり、重要そうな記述が文字化けに近い…いや読むことができないような文字に置き換わっている。

 読むことができた部分はとしては、『常世と幽世の境界なくなり時、4人の常世の者』しか読み取れなかった。

 「ホルスさん、この常世と幽世の境界なくなりし時、4人の常世の者、ここ以下の言葉は読めますか?」
 「日出殿…何を読んでいるのですか、ここにはそんなこと書かれていませんよ。」
 「いや確かにここに…。」

 私はもう一度その文字を読み返した時には先ほど見えていた文字とは全く変わっていた。

 ホルスはいじわるしたわけではなく、本当にわからなかったのだ。ホルスに見みせたときには変化していたのだ…。

 「おかしいな…本当だ。何らかの原因で常世と幽世の境界があいまいになる事…それだけの記載しかないですね…。」
 
 自分の目を疑った…、先ほどまで何を見ていたのか、白昼夢のようであった。

「そうだもう一つ気になっていたことで、アストラル体に関しても調べることはできますかね。」
「すぐに出せますよ。」

 ホルスはそう言うと、結晶を再度握り締め、必要な情報を取り出してくれた。

 しかし、内容が文字化けの様になり、読むことができない…。一部読み取れたことは、アストラル体にも個体差があり人同様に得手不得手があるということであった。

 「読めないですね…。アストラル体の得手不得手…。」
 「日出殿ならわかっているんではないですか?常世でいう、国語ができる、数学ができる、体育ができる、アストラル体にも属性といったものがあるということです。」

 千暁と私のアストラル体の違いからそれは想像していたが、面と向かって言われると自分のアストラル体の属性は何なのか…という疑問がふつふつとわく。

 「ホルスさん、自分のアストラル体の属性を知る方法はないですか?」
 「それは簡単ですよ。よく見える人に見てもらえば一発です。例えば王様、例えば私などですね。」

 ホルスは大きく鼻息を吐き、やってやりましょうという表情でこちらを見ていた。

 「ホルスさんぜひ、ぜひお願いいたします!」
 
 ホルスに頭を下げ、属性の確認のお願いをした。

 ホルスは私をその猛禽類の目でまじまじと見つめた…。すべてを見られているそんな気分に陥った時、ホルスは口を開いた。

 「魔法使い…。」
 「魔法使いですか…。」
 「はい。あなた方のいらっしゃる世界的な言葉で答えると、智ですね。」

 ホルスも常世のゲームが王様同様すきなようだ…。しかし、端的であり、わかりやすい。魔法を使えないところ以外は…。

 「つかぬことをお伺いするのですが、王様はどのような属性なのですか?」
 
 私がそう聞くと、ホルスは目を輝かせ始めた。

 「王様は神です!それは素晴らしいアストラル体を持っています。勇者、魔法使い、戦士、僧侶…それらすべてを併せ持つそんな方です。」

 ホルスの王様へのリスペクトが止まらない…、私は地雷を踏んだと理解した。

話を変えねばこのまま王様への賛辞で貴重な時間がつぶれてしまう、そう思った私は話題をすり替えることとした。


 「ホ、ホルスさんは、どういった属性なんですが。」
 「私なんて…王様にくらべると…。」
 「いえいえ、気になるところですので是非教えてください。」
「そうですね、ただ単純に教えるのでは面白くない、当ててみてください。ヒントは2つ。」

 何とか話をそらせたことに安堵したと同時に、ホルスからの話で研究者として性が揺さぶられた。

 「2つですか…。先天的なものと後天的なもの…。」
 「ほう…。そこまで見えていますか。」

 ホルスは私の言葉に反応を見せた。

 「一つはよく見えるといった属性、もう一つが…魔法使いですかね…。」
 「ご名答、簡単すぎましたかね。私は元から持っている智の属性と結合した愛鳥の知覚に優れるものの2つの属性を持っております。」

 魔法使いに関しての属性はあてずっぽうであった。しかし、合っていたようで何よりである。

 しかし、アストラル体の結合によっては基本属性を2つ以上持つことが可能になるようだ。なんと効率的なのであろうかと私はこちら世界の住人たちがうらやましくなった。

 「王様はそうなるととんでもない信仰の上、積み上げられたアストラル体なので属性という概念を超越しているということですかね。」
 「はい、我が王はたとえ従者全員が束になったところで勝ち目はないでしょう。智に富み、屈強、すべてを抱擁してしまうその度量もあります。そんな人物にお仕えできるということは私の冥利につきます。そして…。」
 またもや私は地雷を踏んだのだ…。

ホルスの王様への賛辞がとめどなくあふれる…。いつまでたってもその話が止むことはなく、私の貴重な読書の時間は奪われていった…。

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